「ねえ、夕食は、カレーとシチュー、どっちにする?」
彼女は時々そういう訊き方をする。
カレーとシチュー。
最後の最後のオペレーションの違いだけで、
材料や手順はほぼ同じだから、
下ごしらえがすんだ段階で、そう訊くのかも知れない。
だが、カレーとシチューは
似て異なるものである。
まず、
食べ方のオペレーションが全くちがう。
カレーはご飯にかけて、「カレーライス」として料理を成立させる。
お好みで、トッピングできる選択枝が多い。
オーソドックスでは、福神漬、らっきょうだが、
カツをのせたり、ハンバーグをのせたりと
いろいろ楽しめる。
カレーソースは考えてみれば、スパイスの集合体である。
だから、ライスを含めて様々な食材と相性が合うのだ。
一方のシチューはどうか・・。
シチューにはふたとおりある。
クリーム(ホワイト)シチューとビーフ(ブラウン)シチューだ
「シチューはね、牛さんでできてるんだよ。」
彼女はそう解説した事がある。
なるほどと思った。
「ねえ、食材はもう準備できたの・・。あとはどっちにするか?なのよね」
彼女は選択肢の最後通牒を切り出した。
ふと、僕は疑問に思った・・。
そうだ、カレーはライスにかけて、「カレーライス」という一つの料理にはなるが。
シチューは、それ単体で「おかず」になり得るのか・・。
そういえば「シチューライス」とか、シチュー定食、シチューパンなど、聞いたことはない。
では、シチューとは一体何なのだ。僕は彼女に訊いてみた。
「なぁ、・・・シチューってさおかずなんだろうか・・。」
彼女は「はぁ?」という顔で僕を見返した。
「おかずなわけないよ、シチューはメインディッシュだよ。」
その回答に逆に僕は驚いた。
彼女の言い分はこうだ、
つまり、シチューはあくまでも「シチュー」というメインディッシュであり、それを引き立たせるが故の、サラダであり、パンであるという。
なるほど、解らないわけではない・・。
でもあらためて考えると。
人の主食は「穀類」だ、
米などの粒食もあるが、パンやナン、そして麺類のような粉食もある。
カレーはある意味スパイスの集合体。そして、シチューは、畜類のうまみの集合体だ。
その意味で言えば、たぶんシチューは、「メインディッシュ」なのだ。
彼女が言う意味は、そういうことなのだろう。
「さ、今日はシチューだよ」
彼女が用意した料理は、メインに牛肉がゴロゴロみえるブラウンシチューだった。バケットには。スライスしたフランスパンが、付け合わせとして用意されていた。おかずが「パン」なのだ。
なるほど、この配置はよくわかった。
メインディッシュのブラウンシチューは、パンに頼らずとも、十分に満腹感があったからだ。