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「小世界大戦」の【記録】 Season1-17

驚く吾郎を見据えながら、涼美は静かに話し始めた。

「実を言うと、あたし、日本国籍でもなかったみたいなんだ。
出生届も出されていなかったし、親が外国籍だったのかも知れない。」

 いわれてみれば、確かに涼美は
どことなくエキゾチックな顔立ちをしてはいるが、
そう言われなければわからないというのが、本当のところだ。

「あたしが育ったところは、神奈川県にある児童養護施設。
・・・そこに中三までいたの。
15年間そこで育ったというのかな。」 

涼美から聴いた話を要約するとこういう事だった。

 涼美は生後まもなく、
横浜のとある公園のベンチで母親と共に保護された。
その時母親はすでに死亡しており、
身元を判断するものはなにもなく、
母子手帳すら持っていなかったという。

また、母親はどうも不法滞在の外国籍だったらしかった。
かろうじて所持品に「susan・M」、という文字がみてとれ、
それが母親の名前のようだ。
と、判断されたようだ。
死因に事件性はなく、病死と判断され処理された。

 涼美はこのとき
「出生届が出されていない無戸籍児」の扱いだったが、
慣例で保護された児童養護施設の代表者の
「特別養子縁組」によって
「結城涼美」という名をもらい、保護された。

 その後義務教育を終えた涼美は、
施設長を保護者として定時制高校に通い、
在学中に准看護婦の資格を得て、公立病院の寮で生活しながら、
貯金をし国家資格をうけるべく、看護系の短期大学に進学したが、
同時に「養護教諭」の免許も取ろうと考えたのだという。

 吾郎と出会ったのはその短大の2年の時だった。
吾郎はその時には、
涼美がこんなに大変な生い立ちを持っているとは思わなかった。

ただ、同年代の女性にしては非常にしっかりしていて、
なにかしら「凜」とした雰囲気を持っていると感じていた。

ただ、何よりも彼女が際だって美しかったのだ。

そこまで言い終わると、
涼美はちょっとかなしげな目を向けて一言だけ言った。

「こんなあたしでも、結婚する?」

「いや、僕にはとても、もったいない涼美ちゃんだ、
ぜひ一緒に家族になってほしいよ。」

 涼美は、こくんとうなずいて、また、吾郎に口づけをした。

「あたしはね・・居場所がずっとほしかったんだ。」
「・・・うん、それは、僕も同じかな・・。」

涼美はそこでまたじっと吾郎を見た。

「・・そう、どんな子だって「居場所」がほしいんだよ。・・。」

涼美のいいたい事が、吾郎にはものすごくよくわかった。
吾郎もまた、居場所を求めていたからだ。
あのとき涼美に惹かれたのは、そういう感覚が
お互いにシンクロしていたのかも知れなかった。

そうなのだ、たとえば「あれている」生徒、
「わけありに行動する生徒」
彼らもまた、
「安心できる居場所」を求めてさまよっているのだ。

ならば、どうすればいいのか・・・。

それが課題といえば課題だった。

「で・・、吾郎ちゃん・・・。
あたしと結婚するにおいて、約束してほしい事がある。」

「・・え?・・なに?」

涼美はもう一度正座し直し、「凜」とした表情でいった。
「教師になったからには、少なくとも校長にはなってほしい。」

結構いうじゃないか・・。吾郎は苦笑した。

「わかった、やってみるよ。」

「あとね・・・。男の子と女の子、一人ずつはほしいな。
理想は二人ずつだけどね。」

To be CONTINUE

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