自家製の魅力
私が営む Humme というパン屋では、多くのものを自家製している。
自家製ドライフルーツ、自家製餡子、自家製ピーナッツバター、自家製ハム、自家製酵母。畑も耕して自家製ライ麦、、そして店舗も自家製。セルフリノベーションで半年以上かけて改装した(それについてはまたいつか)。
お金を払えばある程度の美味しさと品質が保障され、さらにはどこにいても届けてもらえる時代。自らの時間をかけることは、手間暇かけていると言えば聞こえは良い。
しかし、できる量とそれにかける時間を考えると、コストパフォーマンスは恐ろしく悪く、お金を払い、仕入れ、その時間でパンを量産した方が利益率は高い。
それでも自家製する理由はなんだろうと考えたとき、
"暮らし" と "知ること" だと思った。
パン屋は商売だ。
パンを焼き、売らなければ生活ができない。
でも、私にとってパンを焼くことは暮らしの一部でもある。
種を蒔くことも、パンを焼くことも、餡子を炊くことも、暮らし。
家を直すことも、住みやすく整えることも、庭の手入れをすることも、暮らし。
ここに移住したのはパン屋をやるためではなく、ここで暮らすため。その中でパン屋という仕事を選んだ。
だから、自家製するのは店のためではあるが、暮らしの中の手仕事のようなものとも言える。
量は違えど、店がなくても同じことをしているはず。
ただ難しいのは、時間をかけたから、手間暇をかけたからといって、それが良いものとは一概に言えないところ。
今や素材を追求したその道のプロが作っためちゃくちゃ美味しいものをネットで購入できる時代。いくら自家製が美味しいとはいえ、それを上回るものも手に入る。
それでも自家製にこだわるのは、二つ目の理由である "知ること" 。
つまり、目の前にある食材を知るため。
東京では、旬でなくともスーパーに行けば大概のものは手に入る。
でも地方の田舎はそうはいかない。
旬は一瞬。
先週並んでいたものが、今週にはなかったりする。
そして田畑が近いこの場所は、育っているのも間近で見ることができる。あの葉っぱはなんだろう。もうあんなに大きくなってる。そろそろ収穫だろうか。
ここのこれが日本一!みたいな食材はあるし、この味は自分では出せない、、みたいなものもある。
でもさっきそこで採れた食材が、今、目の前にあって、それを差し置いてインターネットで取り寄せたり、業者から仕入れるのは違う気がする。
だからまずはそれを知るために、私は自家製をする。
ただ、それで上手くいくこともあれば、いかないこともある。やって良かったと思うこともあれば、時間がかかりすぎてやってられない、というものもある。
今はその見極めの時期。
自家製にしろ仕入れるにしろ、それを知っているかどうかは大きいと思う。
やれそうなことはやってみて、またやるのか、これっきりなのか、一つ一つ判断していく。
その理由が、品質や安全・安心なのか、安定なのか、味なのか、楽しさなのか。それは様々。
パンを食べたいだけの人にとっては、頑固なこだわりに思われるかもしれない。
同業者からしても、かける時間はそこではないと思われるかもしれない。
それでも私にとって自家製はパン作りの一部であり、それも楽しさの一つ。それを省いたら、楽しさの多くを損しているとさえ思う。
同じ食材でもそのときどきで大きさも、見た目も、味も違うから、調理する方法や時間、味付け、合わせる食材も変える必要がある。それが楽しい。
効率は悪くても、時間はかかっても、ここで暮らしていくために、そして目の前の食材を知るために、これからも自家製を続けると思う。
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