しらうおの野望(仮)
☆寒風沢での出会いと「しらうお:白魚」の野望
7年前の冬、3月の春めいた今頃に、私の人生でも指折りの出会いがあった。
ところは宮城県塩竈市浦戸諸島最大の島「寒風沢島:さぶさわじま」。ときは東日本大震災後の丸3年目の春を迎えようとしていた頃である。
浦戸諸島は松島湾に浮かぶ有人の島四島等からなる島々で、国内での白菜の種子栽培のルーツとされている島である。
大正から昭和初期に宮城県美里町の(株)渡辺採種場(松島交配)が、質の良い白菜の種を生み出し、日本国中の農村を救ったという奇跡の原点となった島々なのだ。
その頃の私たちはウェザーハート災害福祉事務所代表の千川原公彦氏からご指導をいただきながら、毎月のように浦戸諸島を訪問していたからである。
それは、昭和10年以後から戦後まで、上記の浦戸由来の白菜の産地でもあった山形県南陽市梨郷地区の子どもたちが、自ら栽培した白菜と大根をもって訪問するというプロジェクトの調整と訪問に取り組んでいたからである。
11月実施の初プロジェクトが成功裡に終わり、次年度に向けて島々の方々のご意見をお聞きするために、年の明けた2月10日から11日に寒風沢島の民宿外川屋(とがわや)へと泊まることになった。
会議も終わり、記念写真を撮って、親睦を兼ねて交流会が行われた。会が始まって間もなくのことである。白髪で眼鏡をかけたダンディーな漁師の方に「この島でおいしいのはカニですか」と質問したところ、「淀野先生は〇〇うおを食べたことがあるか?」と問われることになった。
なんの食べ物かもわからず「いやあないです」と答えていたのだろう。
そして、梨郷に戻り、1ヶ月余り後の3月中旬、自宅に小さな冷蔵小包が届いた。
開けてみると大きめの透き通ったきれいな生の小魚がびっしり。素魚(しろうお)?小女子(こおなご)?すぐに、送り主の寒風沢の副区長(当時)で漁師の八木輝明さんに、御礼かたがた電話でお聞きしたところ、「しらうお:白魚」という魚であることを知った。
その際も、「しろうお:素魚」と「しらうお:白魚」の違いが分からず、何度も聞き直したのを覚えている。
「八木さん、すみません、これはどうやって?」と調理法を聞いたところ、「刺身もうまいけど、かき揚げにするとうまいね!」と教えていただいた。
また、サイズの大きなものは市場に出荷されない規格外であり、逆に希少価値があるのだともお聞きした。
その晩、生まれて初めて「しらうお」を食べた。美味しかった。旨かった。
かき揚げのボリュームは食べ応えもあり、口の中に広がるサクサク感と驚異の甘さが僕をサンドバックにしていた。
食べた瞬間に世界観が一変するほどの食べ物はめったに出会えるものではなく「出会い」ってこういうことを言うのだなと思った。
電気が走るというかビリビリくるというか、この美味を知った僕は「しらうお」を深く求めるような「〇〇の病い」に落ちた。
その後も年度末の会等で梨郷の割烹マルタで行う際に、必ずとお取り寄せをお願いした。
幸運にも、名調理人の鈴木健作氏の技を堪能することになる。それは世界観どころか宇宙観も変わるような奇跡の「かき揚げ」であった。
奇跡の技は、こうである。
かき揚げの形や円周の一匹一匹のすっと伸びた白魚の尾が、まるできれいな指のように伸びていて、「おいでおいで」しているようなのだ。確か、大根おろし付きのツユが絶品で甘さと香りを倍増させていた覚えがある。
その後、転勤となり職場も変わったが割烹マルタ通いは続いた。
3年後に定年退職。なかなかコロナ禍では出歩くことができなくていた時に、正月から始めたTMFGふるさとショッピング(被災地支援サイト)の目玉として「しらうお」をどうかなあと閃くこととなった。
第一弾 11月から3月の生牡蠣
第二弾 1月から3月しゃぶしゃぶ生わかめの後継に、是非にと期待して企画したのが、この第三弾「しらうお」なのである。
今年の3月初め、寒風沢の八木さんに久しぶりに問い合わせたところ、昨年などは全然漁自体が細くて取れなかったことや今年はサイズが出なくて小ぶりなことなどを教えていただき、現在、何名かの漁師が取り組んでいることをお聞きした。
ようやくやりたかった運命の「しらうお」。やっと辿り着くのである。
「しらうお」は現在も、日によっては1㎏3,000円以上で取引されている品である。
しかも必ず獲れる保証はない。取り置きのできない鮮度確保が難しい品である。
3月上旬、生わかめがそろそろ予定数に達した外川屋さんから、お弟子さんにあたる利府町の筑前さん(百輝丸水産:ときまるすいさん)をご紹介していただき、そこで拝み倒す形で「しらうお」の件を二つ返事でお引き受けいただいた。
早速、3月18日(木)大阪と山形に初出荷となった。併せて10KGの注文があり、19日に配送、その晩には絶賛のお便りが届いた。(メールだけど)
事前にサイトには事前処理例をあげた。老婆心ながら、「食べ方はまずは「塩もみ塩水洗処理」でヌメリやアクを取り冷水で洗ってから、ワサビ、酢醤油、しょうが醤油、焼き塩などで本来の味と香りを楽しむ。でも、やはり、メインはかき揚げをおすすめしたい。この料理法は新鮮さを甘さに変換する良い方法でもある」との内容。
揚げたてはこんなに味わいが深く濃厚に、しかも鼻を抜けるような芳香がシュッと変わるのかを確かめなければならない。
食べた後の「しらうお」のなんと愛おしいことか「宿命」がバックミュージックとして流れるくらいだ。放心にも似た陶酔感が我を襲うのである。
この「出会い」に感謝したい。
結びに、多くの人にこの話をお伝えして広げたい。これこそが7年前から温めていた「野望」のひとつであり、浦戸への感謝になると思う。
TMFGふるさとショッピング
https://tmfg.base.shop
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