"埋蔵金を探して欲しい"というリクエスト
私の専門は物理探査学で、大雑把に言えば”地下資源の探査”に関する研究をしています。今は地熱探査のための”新型探査装置”の開発を中心に研究を進めていますが、過去には福岡市周辺の地方自治体の教育委員会の依頼を受けて、遺跡探査を実施したことが何度もあります。また、遺跡探査の成果を発表する講演会にも招かれて、招待講演をしたことがあります。
このような講演会では、熱心な考古学ファンがいらっしゃるのですが、質疑応答の時間に”邪馬台国の自論”を聞かされたり、”埋蔵金伝説の話”を聞かされたりして、意見を求められることがありました。そんな時は、「私は考古学の専門家ではないので、よく分かりません。皆さんの方がお詳しいんじゃないでしょうか」と曖昧な返答をすることにしています。実際、考古学的な知識は高校で日本史を学んだ程度で、専門知識は持ち合わせてはいません。
遺跡の探査の話をすると、私のことを考古学関係の研究者と勘違いする人が多いのですが、私の専門はあくまでも地下の探査であって、考古学とは直接関連がありません。しかし中々理解してもらえず、考古学の専門的なことを聞かれたりするので、困ってしまいます。考古学のことならまだ学術的ですが、なかには「私の住んでいる地域には○○長者の話が残っていて、埋蔵金の伝説があります。先生はどう思いますか?」などと聞かれることもあり、対応に苦慮する場合があります。
一度などは長文の手紙を頂いて、その後に電話がかかってきたこともありました。「私が調べたところでは、△△長者の埋蔵金の話は確かなようで、場所も大体特定できています。先生に是非探査して頂きたい」とことでした。私が「ところで、その場所はあなたが所有する土地なのでしょうか?」と尋ねると、「いいえ違います。でも確かにそこにはお宝があると思うのです」と引き下がりません。
私は諭すように言いました。「申し訳ありませんが、他人の土地を許可なく勝手に探査することはできないんですよ」。「そうなんですか・・・」とやっと諦めてくれました。埋蔵金の探査に興味が無いわけではありませんが、大学の研究として実施することは出来ません。今のところ、埋蔵金の発見は偶然に頼っています。もし、埋蔵金を物理探査で見つけた事例があれば、拙著『はじめの一歩 物理探査学入門』の探査事例として追加したいのですが・・・。