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仮説と因果関係

サイエンス(科学)には仮説が欠かせません。仮説とは、”真偽はともかくとして”、何らかの現象や法則性を説明するのに役立つ命題のことです。科学的な仮説は、その真偽を実験などによって検証します。検証の結果、その仮説が正しい場合には、真理/原理などとして認識されます。

歴史的に有名な仮説は、天動説/地動説です。紀元前4世紀のアリストテレスの時代からコペルニクスの登場する16世紀までの約2000年、地球は宇宙の中心にあり、まわりの天体が動いているという天動説が信じられてきました。これは日常生活で観察された”正しい仮説”でした。

しかし、月に関しては他の天体と動きが異なることが知られていましたし、天体観測の技術が発達すると惑星が他の天体と違った動きをすることもわかってきました。火星が天球上を逆方向に動く、いわゆる”逆行”などがその代表例です。

このような仮説のほころびから、天動説に疑問が持たれることになりました。天動説に異を唱えたのは、ニコラウス・コペルニクスでした。コペルニクスは、1543年に出版された『天球回転論』で、プトレマイオスの地球中心の天動説を否定し、近代で最初に太陽中心の地動説を唱えました。これは、これまでのパラダイムをひっくり返す、まさに”コペルニクス的転回”でした。この太陽中心の地動説は、その後、ケプラーやガリレオによって受け継がれ、いまでは当たり前のパラダイムとなりました。

仮説を考えるうえで重要なのが、現象間の因果関係です。しかし、因果関係を証明するのがなかなか難しい場合があります。地球温暖化の原因は、二酸化炭素だと考えられていますが、温暖化によって二酸化炭素が増加したと考える研究者もいます。どちらが原因で、どちらが結果なのか、専門家でない私には判断できません。

因果関係を考えるうえで厄介なのが、相関関係です。ある二つの現象があって、明らかな相関関係があったとします。しかし、因果関係を明らかにするのが困難な問題もあります。「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺があります。これは”遠い(ほとんどない)因果関係”を意味する言葉ですが、統計的にデータを取ると相関関係があるかもしれません。これは偶然生じた”偽の相関関係”かもしれません。

今週はノーベル賞の発表がありましたが、過去には受賞後にその研究が間違いだったケースもあります。1926年にデンマークのヨハネス・フィビゲルは、世界で初めて癌を人工的に引き起こす事に成功したという業績で、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。しかし、彼の死後、ラットの胃に寄生虫を感染させることによって人工的に誘導したとされた癌は、実際には良性の腫瘍であったことや、餌のビタミンA欠乏が主因であったことなどが次々と明らかになりました。これがノーベル財団のトラウマになって、その後しばらく、癌に対する受賞が控えられました。いまは、そんなことは無いのですが・・・。

真理の探究は、いつの時代でも大変です。

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