『どうしても頑張れない人たち』~比嘉秀仁の読書レビュー③
読書感想文第三弾です。
前回の読書感想文で扱った書籍のシリーズ二つ目。したがって一つ目を読んだいてた方がいいのですが、まあ読んでなくても話の内容は問題なく理解できるようではありました。
前の記事リンクも貼っておきます。
この本における主張は「支援したくならないような人(=頑張れない人)こそ支援する必要がある」ということです。イメージ的には親鸞の「悪人正機(悪人こそ救われるべき)」に近いのでしょうか。
この世の中は傾向としてはメリトクラシー(能力主義社会)にあるということはよく言われていることです。少し前に話題になったマイケル・サンデルの『実力も運のうち』でも指摘され、それが問題となっていることが取り上げられていました。
要は「頑張れば頑張るほど幸せに暮らせる可能性が上がる」社会、その様相は一見公正に見えるのですが、逆に言うと様々な事情で「頑張れない」人は幸せにはなれない、ということを意味します。
「頑張る」ことは美徳であり、称賛されることで、そうすることが幸せに繋がるべきということは全く否定されることではありません。
しかし、逆の「頑張らない」ことが不徳となされてしまうと、様々な要因で「頑張れない」人たちもまた幸せにはなれず、しかもそうできない原因をその本人の能力そのものに帰されてしまう傾向、つまり「頑張れない奴が悪い」自己責任論に収束していまいがちになってしまいます。
私は塾の講師をやっているので仕事柄、「頑張れない」子どもに接する機会が多く、第一弾の『ケーキの~』のよりも今回の本の方が得るところが多かったように思います。
実際のところ、「やる気があって、きちんとコツコツ勉強する(=頑張る)」という人間の方が稀です。それは子どもであっても大人であっても同じだと思っています。
私たちの仕事は、子どもたちにまず課題(=勉強)にいかに取り組ませるか、からスタートします。塾の先生って勉強の内容を教えるだけというイメージもありますが、地域密着型の大きくない塾だと、距離が近い分そういった「勉強のやり方、取り組み方」から指導するところも少なくないんじゃないか、とは思います。少なくとも私が働いているところはそうです。で、最終的には自律的に勉強に取り組み、テストで結果を出す(志望校に合格)という目的を果たせるようにしていきます。
と、言葉では簡単に言えますが、このスタートの部分が難しい。
「頑張れる」かどうかは大きく個人差があり、時間をかける必要がある子もたくさんいます。それで、時間をかけすぎても、結果が出ないと塾を去っていく子もいます。いくら教える内容がよくても、子ども本人が継続して勉強しようとする姿勢がないと結果にはなかなか反映しないわけです。
この本には「子どもが頑張るには何が必要なのか」「頑張ろうとする気持ちをくじかないために大人はどういう風に振舞えばいいのか」「何を言えば、また何を言わなければ子どものやる気を削がないのか」等、結構具体的なところにまでケースを挙げながら説明してくれています。
と本の概要はここまでとして。
結局問題となるのは「頑張れない」人たちに対するフォローの重要性なんですよね。
今までの話に沿って話をすると、能力主義社会で幸せになるには勉強や仕事で「頑張って」上にいくことなんですが、統計的にも明らかになっている話で「教育にお金をかけることができる家庭(=裕福な家庭)ほど、より高学歴に、より高収入の仕事に就ける」ということがわかっています。つまり、「頑張れる」環境を持つのはより余裕のある人たちなのです。
逆に「頑張れない」人たちというのは、本人、あるいは環境になんらかの問題を抱えている人たちです。「頑張らない/頑張れない奴はダメ」という視点はよく見られる、一般的な視点だと思いますが、本人の問題としてはまさに『ケーキの~』に出てきた認知機能の問題であろうし、環境に関しては、「それどころではない」ような環境であればとても勉強のやる気など出せないでしょう。この本から引用すると、
「学校で勉強のやる気がないんです。どうやってやる気を出させたらいいんでしょうか?」といった質問がなされることもあります。この質問に対しては、私から「もし先生が、食べ物が全くないとか、家が火事になって住むところがないような状態だとだとしたら、仕事を頑張れますか?」とお聞きします。すると、そこでやっと、子どもの勉強のやる気についても同様だとわかってもらえます。
『どうしても頑張れない人たち』第三章「がんばってもできない人たち」より引用
極端な例ですが、程度の違いはあれ、子どもたちが勉強を「頑張れない」のはこういう背景があるかもしれないわけです。
したがって、そういった本人や環境の問題の中でも「頑張れる」ように、子どもたちに支援、サポートをしていくのが、この仕事をする者として、そして周りの大人としてできることなんだろうと私は思っています。
彼らの背景を考え、しっかり声を掛け、話を聞いてやり、安心できる場所を与え、心を開いて「頑張れる」環境を作っていってあげることが我々のやるべきことだ、と改めて再確認しました。
以上が今回の感想文となります。
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