じゃない方起業家の採用戦略
プレシード・シード段階で投資判断するベンチャーキャピタル、投資家は「チームに投資する」という話をよく聞く。たしかにチームは重要だ。ただ、経歴華やかなメンバーを集めるのは再現性が低い。この問題について自分の頭で考えた。
じゃない方起業家とは
・有名大学卒や有名企業出身ではない
・ソフトウェア事業をつくりたいが、テック企業出身ではない
・シンプルに裕福じゃない、資本金500万円未満の創業
・ぶっちゃけ友達が少ない
上記の条件にひとつでも当てはまる起業家を、じゃない方起業家と定義する。今回は、具体的な採用手法は紹介しない。じゃない方起業家として君臨しているわたしが採用でやらなかった決断を振り返る。
友人を採用しない
まず、チーム作りにおいてやらなかったことは、友人を採用しないことだ。
「失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと」(著:辻 庸介)では、ソニー時代、マネックス時代の会社の同僚や後輩とともに起業したそうだ。筆者はこう述べている。
「辻さんが仲間にしたくなる人の共通点は何ですか?」と聞かれたので、あらためて考えてみた。まず、専門的な実務能力を備えていることは当然として、僕が重視しているのは人間性だ。根が明るくて、嘘をつかないこと。「この人となら一緒にやっていきたい」と周りのメンバーに思わせる人間性がなければ、大きな仕事はなし得ない。さらに加えるとしたら、「これまでの人生で勝ち続けてきた人」。当然、いつも勝ち続けることはできない。でも最終的に結果を出している人というのはどういう人なのか、それはつまり、成果を出すまで投げ出さなかった人だ。最後まで諦めずにやりきる人と、僕は一緒に働きたい。
(・・・発言のひとつひとつが優秀すぎぃ〜)
著者はそりゃあ謙遜するだろう。読者としても捻くれて内容を理解しないように気をつけたい。でもやっぱり辻さんとその仲間たちは日本社会でもヒエラルキーの上位層だ。少なくとも、ソニーやマネックスの学歴フィルターは新卒だった私を通さなかった。
メルカリやDeNAなどのOBOGの起業率が高い理由は当人たちが優秀であることは言うまでもない。同時に、テック企業出身者は職場で専門的な実務能力を備えている未来の仲間たちに出会いやすい環境にいたからこそ起業する決心ができた側面があると思う。
ソフトウェア事業を作ろうと決心したものの、テック企業で働いた経験やそういった企業で働いている同級生がいない起業家は、専門的な実務能力を備えている友人がいないのだ。まずこの壁にぶつかる。
ここで焦って、信頼できる友人と一緒に事業をつくろうとする起業家は早計だ。何よりも専門的な実務能力を備えていることが重要だからだ。
社員は家族じゃない。創業メンバーとは家族のように仲良くやっていきたい。そういう気持ちもすごくよくわかる。実際、ひとりでやるってしんどいし、さびしい。でも、家族だってお金の問題や心のすれ違いがあれば、家族じゃなくなることもある。こんなのもっとさびしいんだ。特に収益源が担保されていない起業家は友人が友人でなくなる問題をすでに抱えている。
専門的な実務能力を備えている友人がいない起業家は、友人を採用しないほうがよい。「あいつの何が信頼できるのか?」を自分の頭で考えたい。作りたい事業を一緒に作るスキルに対する信頼が第一優先だ。この点において、著者の次の一文は真実だとおもった。
まず、専門的な実務能力を備えていることは当然として、(略)
つぎに、人間性について。人間性については辻さんとは反対意見だ。勝ち続ける環境にいれたこと、勝つまで続けられる状況だったこともすべて運が良いからだ。勝つまで続けられなかった人が起業に挑戦したっていいし、根が暗いやつだから、世の中をもっとよくできることだってある。辻さんだけでなく、スタートアップ起業家の採用関連記事には、ビジョンにフィットしない人材は採用しないと書いてある。すべて正しい。一方、人間性の基準を高くすると、日本の起業率は上がらない。絶対に上がらない。
何より人間性っていうのは可変的だ。お金がなくなれば優しい人が嘘をつくようになる。人当たりの悪かった人がやっと生活に余裕ができて、優しい人に変わることもある。
自分の頭で考えたい。これから事業を作る私たちはビジョンなんて変わってくるし、自分自身が他人の人間性をジャッジできるほどの人間性と審美眼を持っているのか、そんな偉いやつなのか自問自答したい。
人間性が高く専門的な実務能力を備えている人材と出会えているなら即採用だ。そういった人材と出会えない、魅力も能力も弱い自分がこの問題をどう乗り越えるか。わたしは専門的な実務能力を選択し、人間性を捨てることで一旦乗り越えると腹を決めた。
人間性が信頼できる友人は、自分自身が起業して悩んだときに、気軽に相談できたり、何気ないしょーもない話ができる関係でいたい。私はそうしたい。友人は創業メンバーの候補人材じゃない、自分人生のたいせつな財産だから。
フルタイムを採用しない
友人を採用しないということは何を意味するか。シンプルに採用費と人件費がかかるということだ。お金持ちじゃないくせに、まーた生意気な決断をしてしまった。やれやれだ。
資本金500万円未満であり、収益源が担保されていない起業家は正社員を採用することは非現実だ。自分自身の役員報酬をゼロにし、正社員を1名採用することはできるだろう。しかし、こういった類の美談には反対だ。こういう経営判断ができる創業者は有名企業出身あるいは連続起業家で資産を持っているケースが多い。インターネット記事には書かれていないが、ゼロでいいと決断できる人は、ゼロでも強いバックボーンがある。無料には裏がある。背景がある。
また、本来支出すべき費用をゼロにするのは、ある意味ですでに会社として不健康な状態だ。自分を自分自身で養いながら、チームを作る方法を考えたい。真摯に向き合いたい。でないと起業の成功に再現性がない。
朗報がある。日本の経済成長がダサすぎるせいで、複業がトレンドになっていることだ。優秀でカッコいい会社員は多いのに、なぜだか給与が上がらなかったり、やりたいことに挑戦できないらしい。
専門的な実務能力を持っており、すでに立派な会社に所属しているにも関わらず、働きたい人材にかんたんに出会える時代になった。
また、コロナによってリモートワークが加速された。採用地域という概念がなくなった。2021年のこの流れは、じゃない方起業家にとって明らかに好機だったとおもう。
複業人材をスキル・スタンス重視で採用する
これが、じゃない方起業家の採用戦略だ。フルタイム人材は採用できないから複業人材でチームを作る。スキルを第一優先にする。人間性は大切だが自分の審美眼を評価しない。候補人材のスタンスとのマッチングを目指す。
この採用戦略が正しかったか間違っていたかはわからない。ただ、一度も会ったことのないエンジニアと3ヶ月でプロトタイプをリリースできた。3ヶ月リリースは当初の事業計画通りだった。また、エンジニアさんは今日まで力を貸してくれている。ここまでは事実だ。
彼と直接会ったのは、採用してから3ヶ月後だった。プロトタイプリリース祝いとして会った。
じゃない方起業家として大事なのは、候補人材の人間性を見極める偉そうなスキルなんかじゃない。どんな人材と出会ってもチームを機能できる強かなチームビルディングスキルだとおもう。チームビルディングさえ意識すれば、フルタイムメンバーでなくてもプロトタイプ開発フェーズは乗り越えられた。
次は、実践編をまとめる。実際に採用活動で利用したサービス、利用方法、費用対効果を共有する。
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