赤ちゃん誕生物語
へそは、人間が、母親によって生命を与えられた証拠です。母親が食事をし、母親の血液にとけこんだ栄養が、へその緒を通じて、赤ちゃんの体の中へ送られます。ただし、母親の血液が赤ちゃんの方へ流れるのではなく、母親の血液から赤ちゃんの血液へ栄養だけがバトンタッチされます。このへその緒には3本の血管があって、ここから酸素も受け渡ししています。その受け渡しをする場所が胎盤といわれるところです。ですから、赤ちゃんは自分の口からは何も食べませんし、呼吸もしません。
しかし、自分の口からは何も入れないのかというとそうでもなく、羊水というのを飲んでいます。羊水というのは赤ちゃんをつつんでいる少しあたたかい母親のおなかの中の水です。その水を赤ちゃんは時々飲むことがあるのです。だから、ほんの少しおしっこをします。母親のおなかの中で・・・。
でも安心してください。このおしっこは、われわれが飲んでも平気なくらいきれいなものです。赤ちゃんはこうしていらないものを、血液を通じて母親に返し、母親に捨ててもらうのです。
赤ちゃんは、外へ生まれ出てくる時、自らその信号を出して、母親に陣痛という激しい痛みを起こさせます。オキシトシンというホルモンの分泌によって子宮の筋肉が収縮し、陣痛が始まるのです。
なぜなら、胎児は成熟するにつれて、副腎皮質からのコルチゾールが増加するため、これが母親の胎内でオキシトシンの分泌を促すのです。母親は、激しい痛みから無意識に腹圧をかけ、赤ちゃんを生み出そうとする自然な力が働きます。
もし、みなさんが、お母さんにとって、最初の赤ちゃんだったら、陣痛は約15時間前後続くのが普通です。実に難行苦行、赤ちゃんは次々に起こるおなかの圧迫のため、途絶えがちな酸素に悩まされ、骨盤との摩擦やへその緒が首や手足にまとわりつくのに死ぬ思いをしながら、少しずつ頭を下にして螺旋状に向きを変えながら出てくるのです。赤ちゃんの頭は軟らかく、出てくる時は出やすいように、自分で頭の骨を重ね合わせ、細長く変形して出てきます。それでも赤ちゃんの脳が傷つくことはありません。
生まれたばかりの赤ちゃんの頭は指で押すとへこむのを知っていますか。赤ちゃんの頭の骨は、やわらかく、骨と骨のあいだに骨化していない結合組織の部分(すき間)があるのです。これらのすき間は、どんどん大きくなる脳の成長を妨げないためにも、骨と骨の間にゆとりをもたせているのです。これらのすき間は月齢があがるにつれて自然に閉じ、いちばん大きな「大泉門」も1歳半から2歳ごろまでには閉じて、手で触れられなくなります。
赤ちゃんという呼び名は、まさにそのままで、生まれたばかりの赤ちゃんは、血液中の赤血球濃度が高いため本当に赤いのです。羊水に覆われ、狭い産道を通り抜けてくる赤ちゃんは、圧迫され、酸素不足となり、仮死状態という生命の危機を孕んで生まれてくるのです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、皮膚が胎脂と呼ばれる白いクリーム状の脂肪で覆われています。羊水の中にいた赤ちゃんが外に出ると、外気にさらされることになるため、しばらくの間は、この胎脂が外部の刺激や乾燥から赤ちゃんを守ってくれるのです。
赤ちゃんの皮膚は、皮下脂肪に覆われていて軟らかく、ぷよぷよとしています。皮下脂肪は、寒さから身を守り、エネルギーを供給し、衝撃や圧力から身を守るために必要なのです。
生まれたばかりの赤ちゃんの背中をポンと叩くと、赤ちゃんは「オギャー」と大きな声で泣きます。これが初めて自分の力で呼吸した合図なのです。赤ちゃんより先にへその緒が出てくると圧迫されて血行が止まってしまったり、赤ちゃん自身の肺による自発的な呼吸が始まらないと酸素が供給されず、低酸素状態におちいってしまう危険性があります。
産声を上げると、へその緒は切り離され、その役目を終えます。生まれてしばらくすると、赤ちゃんはおっぱいを吸おうとする仕草をします。生まれたばかりの赤ちゃんにできることは、泣くこととおっぱいを吸うことくらいです。
生まれたばかりの赤ちゃんが泣きやまないとき、母親が赤ちゃんを左胸に抱くと泣きやむといいます。なぜだかわかりますか。それは赤ちゃんの耳に母親の心臓の音が聞こえるからです。母親の胎内にいた時から聞いていた音を聞くと安心するのでしょうか。だとすれば、妊娠中に夫婦げんかをしたりして心音が乱れると胎児にも影響があるでしょう。
また母親が妊娠中に、アルコールを多量に摂取すると、胎児アルコール症候群の子どもが生まれてしまうことがあります。体重が少なく、頭が小さいという障害をもったり、中枢神経系の障害で知能がおくれてしまうこともあります。妊娠中の喫煙も胎児に悪影響をあたえます。早産になったり、知能指数が平均値以下の子どもが生まれてしまうことがあります。母親がビタミンを適量とることで、障害をもつ子どもが生まれる確率は低くなるという研究結果も報告されています。
赤ちゃんが、聴き慣れた母親の声を聴くと安心したり、母親が、赤ちゃんの声を聴くと母乳の出が良くなったりする現象を「母子エントレインメント(母子相互作用)」といい、母子に特別な共感作用なのです。
生まれたばかりの赤ちゃんの視力は、明暗を認識するくらいで、近くのものでも完全にぼやけています。ただ母親の顔と動くものに一番反応するようです。目の前でゆっくりおもちゃを動かすと目で追うようになるには、2か月くらいかかります。
母は偉大です。時には自らの命をかけて、赤ちゃんを産むこともあります。この世のすべての人間は母という女性から生まれてきたことを絶対に忘れてはなりません。
人間の生命は、女性の卵子と男性の精子という、ふたつの細胞が結合することからはじまります。
卵子は、直径が0.11~0.12ミリメートルくらいの、とても小さな細胞ですが、人間の体内では、もっとも大きな細胞です。精子は、卵子の2000分の1の大きさで、体内では、もっとも小さな細胞のひとつです。受精卵は、受精後24時間以内にふたつの細胞に分かれ、2のn乗のように細胞分裂をくりかえし、3回目の分裂で細胞の数が16個くらいになると胎芽とよばれます。分裂してできる新しい細胞はすべて、受精卵の細胞と同じ遺伝情報をもっています。遺伝情報は棒状の染色体におさめられ、染色体が、髪の色、目の色、 体格などの身体の特徴を決める遺伝子を伝えていくのです。
みなさんは、父親に似ていますか、母親に似ていますか。人間は誰しも40兆という膨大な数の細胞から成り立っていますが、赤ちゃんは、受精から約40週間経って誕生したときには、すでに40兆の細胞はできあがっています。その一つの細胞の核の中には46本の染色体があり、2本1組の対になって螺旋状に絡み合っています。この染色体は、ひとつの長いDNA(デオキシリボ核酸)という物質でできていて、その中のわずか1~2%が遺伝子なのです。父親から23本、母親から23本の染色体を受け継いでいますから、半分は父親似、半分は母親似なのです。
みなさんは、生命が存在する奇跡の星・地球に、この世に一つしかない存在として、また先祖代々受け継がれた遺伝子によって成り立つ奇跡の存在として誕生したのです。そんなかけがえのない生命を大切にしなくてもよいはずがありません。
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