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すずめの戸締まり 感想※ネタバレ注意

今作「すずめの戸締まり」ではテーマやメッセージがはっきりしていました。演出・展開から一歩踏み込んで考えてみます。

目次
①母親は思い出の中
②被災地への肯定的な考え
③その他雑多な感想
④余談

①母親は思い出の中

本作最大の特徴は、母親が思い出の域を出ない。という点です。
君の名は。では本来死ぬはずだった三葉と体を共有しやり取りを交わすことで、町の人と共に救い出すことに成功します。
本作亡くなった母親を救うどころか会うこと、語りかけてもらうこともできません。あくまで鈴芽の思い出の中にだけ存在し、生者と死者の境界が分けられています。

母親からの視点は無いのですが、連想させるシーンとして草太が要石になるシーンがあります。
草太が要石になっていく過程で鈴芽との旅のハイライト(走馬灯)と死にたくないという想いが流れます。

死者のビジョンの共有ですが、これは鈴芽の母親のビジョンのようにも思えます。鈴芽のことを最期まで想いながら死んでしまった映像を見ることで、草太の記憶から母親も同じ想いをしていたんだろうな。と観客に連想されていきます。
これによって、草太の「少しでも長く生きたい」というセリフに重みが出てきます。
ミミズを要石で倒した後、鈴芽は過去の自分と出会います。夢で見た幼い自分の前に立つ母親と思われた人物は自分自身でした。母親を探す幼い自分を見て「本当はもう分かっていた」と母親の死を受け入れます。
君の名は。天気の子のように誰かに救われるのではなく、自分自身で受け止めるのが本作最大のテーマのように思いました。

改めて本作のストーリーを考えると、
鍵を閉めるときその土地の人々の日常や思い出を思い出すことで鍵を閉めることができます。
災害・過疎化が起きるとは思わなかった日常、あの日悲劇によって亡くなった人達との思い出を封じ込めたり、無かったことにするのではなく、
その日常があったからこそ、悲劇を踏まえた上で今の私がいる。
前に進むために鍵を閉め、改めて母と永遠の別れとしての「行ってきます」に納得感を持つことができたと思います。
あの日「いってらっしゃい」といった母は帰ってこなかったけれど、鈴芽がいたことで草太は助けられラストの「おかえりなさい」に繋がる。鈴芽は看護師を目指し人々を助けることで「おかえりなさい」を作る側に回るのでしょう。

②被災地への肯定的な考え

鈴芽が東京から故郷へ帰る途中、地震を感じて芹澤に車を止めてもらい、丘の上から廃墟となった自然に覆われた街を眺めるシーンがあります。

それを見て芹澤は「ここってこんなに綺麗な場所だったんだな」と一言。目的地が仙台でその道中3.11の関連性がある場所といえば双葉町です。(多分原発らしきものが映っていたと思います)これに対して被災者の鈴芽は「これのどこが綺麗なの」と返します。
誰かにとっての悲劇は誰かにとっての美しさ。これからの若い人にとってこの場所は単なる被災地として映りえない。肯定的な意味が込められていると感じました。
それまで地震が起きていた所では災害の象徴であるミミズがいたのに対し、この場所ではミミズが現れない演出からも伺えます。
もっと言えば、君の名は。で災害を忘れていた瀧役の神木隆之介がこの発言をすることに意味があると思いました。

③その他雑多な感想

・東京でミミズをおさめたシーン
鈴芽自身が震災を経験しているからこそ、100万人のために宗太を要石とする選択ができたのだと思いました。天気の子では世界より1人の陽菜を選んだわけで…。
振り返ってみると序盤で鈴芽が「死ぬのなんて怖くない」と言うシーンは、人より死との距離が近い・人って簡単に死に得るという意識があるのかなと印象受けました。
・演出として日常と非日常の切り分けのすごさ。
扉を開け閉めによる現世と常世、空に展開されるミミズ、スマホに表示される緊急地震速報。日常の動作・光景から非日常へ結びつく演出は圧巻でした。
・家族の関係
旅の途中出会った人は皆親切にしてくれた一方、長く暮らしてきた環(叔母)とはギスギスした雰囲気が流れます。
鈴芽も子供ながらに叔母さんの人生を狂わせた自覚があり、本心としてどこか思うところはあるけれど、日頃言えないモヤモヤ感。
悪いのは災害ですが、災害のせいにもしていられない…。
コロナ禍に子育てをする親としての新海誠自身の体験が含まれていると思いました。
・地震とロードムービー演出
ミミズが出てくる、鳥が飛び立つ、地震雲などは地震の予兆として有名ですね。今回旅する宮崎県→愛媛→神戸にかけてのラインは南海トラフ、東京は首都直下地震を危惧されている場所です。
今後巨大な地震によって被害を受けるであろう場所→東北の被災地へ行き→EDで帰ってくる
「いってらっしゃい」と言われたすずめが成長して帰ってきて、草太に「おかえりなさい」に繋がる演出なのだと思いました。

④余談ですが、

本編前のCMで、マック×すずめの戸締まりのコラボCMが流れました。本編見る前と後では印象全然違いますよね。

本編見る前だと、母親とのエピソードが多く盛り込まれるだろうなってミスリードになってますし、
本編見た後だとマックを食べる何気ない日常のあと、震災が起きたことを連想させます。こういう体験は初めてでした。

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