異国の香り、リベリカのフレーバー
約2年振りの海外出張である。コロナ禍以前は、例え10日間ブラジルに行くにせよパッキングは20分あれば十分だった。
久しぶりのパッキングは2時間もかかった。懐かしい思いに浸りつつ、昔の手順を思い出すようにパッキングをした。
以前はゲートクローズギリギリに行くのが常だったが、空港にも2時間前に着く徹底振り。思いの外、出国は非常にスムーズで特に面倒なことは何もなかった。
今回はとあるプロジェクトでフィリピンに向かうことになった。コロナ禍以前は頻繁に訪れていた国のひとつである。
現地に到着して、ボーディングブリッジに降り立つと、あの「異国の香り」が脳天を突き刺す。ああ、この香り、というか匂いで仕事のスイッチを切り分けていたっけ。
フィリピンでは現地のクライアントでもあり、パートナーでもある、マイケルと久々の再会を喜んだ。マイケルは現地最大手のConlinsというロースターとHenry&Son'sというスペシャルティに特化したロースターを経営するフィリピンを代表する社会起業家である。
そんな彼はずっと「フィリピンのコーヒーを世界に届けたい」と言っていた。それは彼のミッションステートメントとなり、どうすればフィリピンのコーヒーを世界に届けることができるか、を真剣に議論するようになった。
そんな彼にリベリカの話を聞いた。リベリカとは、アラビカ、カネフォラに次ぐコーヒーの三大原種のひとつと呼ばれている、リベリアに起源をもつ種である。現在はアジアを中心に栽培されており、フィリピンはその代表的な産地として有名だ。
味は、というと美味しいリベリカをこの方1度も飲んだことがなかった。とにかく変な味なのだ。塩味があり、うま味のある、苦味のある出汁のような味だというとお分かり頂けるだろうか。
オーストラリアの友人は「サラミ地獄だ」とまで言っていた。正直根本的に美味しいものが飲める気がしないと思った。しかも当時のトップロット。これが2020年である。
それから2年ほど経って、マイケル曰くまずは農園を見ようじゃないか、とのことで早速リベリカの農園に行くことになった。
場所はラグナ州にあるJ. SANTIAGO COFFEE FARMERS ASSOCIATIONという農協だ。元々反政府ゲリラに土地と仕事を与える、という名目でスタートしており、なんと17万ヘクタールの広大な土地にリベリカが植えられている。
リベリカの特徴はその巨大な葉っぱとコーヒーチェリーだろう。コーヒーチェリーはムシラージが今まで経験したことがないほど分厚く、甘さのあるチェリーだったことに驚いた。
リベリカは比較的標高の低い高温多湿の環境下でも栽培ができるため、フィリピンのテロワールに適した種だと思う。栽培・収穫やポストハーベストに関して課題は多いが、これを乗り越えればフィリピンでしか味わうことのできないリベリカになるかもしれない。
農園内を歩き回り、あれやこれや議論して帰路に着くことになった。フィリピンでアラビカの栽培も行われているが、僕は個人的にリベリカ一本足打法で攻めた方が良いとアドバイスを送っている。事実複数のコーヒーショップで国産のアラビカを飲んだが、価格と品質が釣り合わないので正直難しいと思う。
そんなマイケルが精魂込めてプロセスしたロットを大量に持ち帰って、テイスティングした。2020年のサラミ地獄から大きく改善して、驚くほどフルーティで甘さのあるロットも見受けられた。まだ塩味やうま味を感じるが、大幅な改善である。
2023年が今から楽しみでならない。ちなみに帰国は想像以上にスムーズで、PCR検査の結果はジャッカスを見ながら馬鹿笑いしていたら番号が表示されていたし、1時間で出てくることができた。アホらしいとイライラするより、笑っている方が精神衛生上よろしい。