井崎はなぜ「コーヒーコンサルタント」を選んだのか?
ご存知ない方も多いと思うが、井崎の本業は「コーヒーコンサルタント」である。いかにも胡散臭い響きは否めないが、具体的にはコーヒーに纏わる商品開発からマーケティングまで一気通貫したトータルソリューションサービスを提供している。
クライアントの多くは、グローバルに展開するF&B、コーヒーチェーン、原材料メーカーだ。日本だとマクドナルドさんとの仕事が代表作と言えるだろう。コーヒーメニューのリニューアルと品質管理に携わらせて頂いている。
またコーヒーを起点として他業種のプロモーションも積極的に行ってきた。例えば、森永乳業さんのフィラデルフィアのPRなど。これはその年で最も尖ったPRだったと思うし、コーヒーを「編集する」と言う考えが根付いた素晴らしい体験だった(Kさんに感謝)現在も水面下で進行中の案件が数件あるが、全く異なるアプローチでコーヒーを編集しているので楽しみだ。
何を隠そう2014年の夏の暮れ、僕は悩んでいた。ワールドバリスタチャンピオンシップでアジア人として初めて優勝した直後だった。優勝したはいいものの、周りを見渡せば、ジェームズ・ホフマン、マット・パーガー、コリン・ハーモン、ティム・ウェンデルボーなど、世界に名を轟かせるロースターやカフェを運営するまさに世界トップクラスのバリスタに囲まれていた。
ワールドバリスタチャンピオンシップは、スペシャルティコーヒーのアンバサダーを輩出することを目的としているからこそ、世界最大かつ最も歴史の古い大会として認知されている。僕は突如としてアンバサダーとして何ができるか考えなければならない立場に追いやられた。しかも、業界のトレンドセッターの欧米人と肩を並べて、だ。
考え抜いた結果、世の中の大多数の人が普段飲んでいるコマーシャルコーヒーの商品開発や品質改善に携わっているプレイヤーがいないことに気がついた。もはや業界的にタブーとされていた嫌いさえあった訳だが、僕は当時からコーヒーを平等に愛するというポリシーを掲げていたし、何より自分が培ってきた、いわばF1(超絶技巧のコーヒーの世界)の知識や技術を大衆車(世の中の大多数の人が飲むコーヒー)に活かして還元しなければ競技会でギークに掘り下げる意味がないと考えたからだ。
僕は、知らない技術や知識を貪欲に「吸収」することも好きだし、自分の情熱を「伝える」ことも好きだ。その点マスマーケットを相手にするこの仕事は自分の性分にあっているのだと思う。
しかし思い返せば当初は反発がすごかった。井崎はお金に魂を売った、井崎はスペシャルティを捨てた、など陰口や直接言われたことも含めれば国内外で相当糾弾された。でも現在のバリスタの活動の幅を見ると、どうやら僕の信念は間違っていなかったらしい。
特に海外のバリスタは本当に誠実なので、懇切丁寧に「ヒデがこのマーケットを切り開いてくれたお陰だ」と言ってくれる。最近は特に契約周りや条件交渉などでアドバイスを求められることが多い。それほど頼ってくれることは嬉しいし、何よりコーヒーを二項対立で捉えず、俯瞰して見ることができるバリスタが増えたと感じている。
これからも大事にすべきは、やはり「自分らしさ」だと思う。上部はいくらでもコピーできるけど、魂はコピーできない。その魂は突き詰めるところ、きっと「自分らしさ」であり、支えてくれる周りの人に誠実さを貫くことで磨かれる。
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