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教室のアリ 第13話 「4月24日」〈冒険か、再会か…決断のとき〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。

 今週の予定を書いておくよ。きょう24日は運動会の練習を見ながらエサを給食室に運ぶ。あした25日は遠足(行くかどうか迷ってる)。あさっての金曜日は運動会の練習と理科の実験、エサ運び…あー、忙しい。とは言っても、体育は5限と6限。午前中は特にすることがないから先生の机の中を探検することにした。オレは長年、5年2組にいるからいろいろな先生の机の中を知っている。キレイに整頓している先生、グチャグチャな先生。中でも「いい先生」は…わかるよな。さて、ヒラヤマ先生は…「あった!」。お菓子を隠しもつクセがある先生でした。ま、見た目20代だし、当然だな。グミにアメ、うまい棒か、困ったときにはお世話になろう。そう、4月の終わりから5月の初めはなぜか子どもたちも先生も来ないから、給食も無いしね。

〈体育の間にやること〉
 給食が終わると子どもたちは着替えてグラウンドに出て行った。今日は走って「棒」を渡す練習をしている。ダイキくんは3位で「棒」もらって、次の女子に1番最初に渡していた。あらためて、あんなに早く走るダイキくんのランドセルに入ったオレの度胸をほめてほしい。さて、6限も体育だから時間はたっぷりある。配膳台の下に落ちているエサ、風で流れつく廊下側の壁にあるエサ、そして申し訳ないが、先生が隠れて食べて袋ゴミごと机に隠したうまい棒のカスを給食室に運ぶとしよう。2組と隣の1組が体育なので安全なルートがある。足りない分は給食室で集めて、あの棚のあの場所に隠した。もし、学校のとなりの公園…数年前、仲間たちが謎の液体で全滅した公園…あそこで一緒に働いていたアリなら絶対に来るはずだ。好きなものを集めてあるし、量もちょうどいい、色もカラフルだ。誰なのかはわからない、でも誰でもいい。正直、少し寂しくなってきているんだ。
「誰か来てくれ!」心の中で叫んでみた。

〈一晩悩もう〉
 あしたは遠足だ。ダイキくんのランドセルに忍びこみ、「旅・冒険」の楽しさを知ったオレは誰かのリュックに隠れ、みんなといっしょに大きくて長い車に乗ることに憧れている。楽しいに違いないし、エサもたくさんある。それにもしかしたら、違うグループのアリに出会えるかもしれない。悩んだ。悩みに悩んだ。多分、ダイキくんが紙に(ア)って書くか(イ)って書くか悩むくらい悩んだ。だいたいは(イ)って書いて、先生は赤ペンで「✔️」ってする。話がそれた。寝られなくなってきた。学校にはもう誰もいない。外は真っ暗だ。星がキレイだからあしたは晴れで遠足は楽しいだろう。どうしよう。

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