見出し画像

色節は中間地点で



父が、五十歳を迎えた。

二十年近く男手ひとつで私と弟を育ててくれた父に感謝を込めて、うんと特別なサプライズをしようと思い立ち用意した一泊二日の家族旅行。三人で遠出をするのは、これが初めてのことだ。

関西で暮らす父と私、関東で暮らす弟。
記念すべきその旅先に選ばれたのは “間をとって” 石川県・金沢。日本の北に位置するこの場所が、家族の中間地点になった。

海鮮に景観に温泉。父は「生きてて良かった」と大袈裟なくらい何度も顔を綻ばせた。夕食時に頂いたバースデープレートと一緒に撮ってもらった写真には、笑うと目が無くなるね、といつも言われるそっくりな三人の顔が並んだ。


帰りは、北陸新幹線が先にやってきた。父は「ありがとうな、またな」と大袈裟なくらい何度も手を振った。人生の中間地点に立ったその背中に浮かぶ誇らしさと一抹の寂寥は、父がくれたすべてだった。

日本海の風に混じる春の気配に、いつまでも鼻の奥がツン、とした。




いいなと思ったら応援しよう!

左頬にほくろ
価値を感じてくださったら大変嬉しいです。お気持ちを糧に、たいせつに使わせていただきます。