プロスポーツ事業のトップに従事してみて(3/3)
ーINDEXー
■フロント強化部へ求めること
■お客様に対して
以下公開済
■指揮命令系統の常識/権限と責任
■トップがこだわるべき「勝負」として大事なこと
■指導者との関わり方
■選手に求めること
■フロント強化部へ求めること
次に強化部について触れておきます。求める仕事は概ね4つ。
①育成からトップチームまで一貫した「戦いの型」を規定すること
②それに適した選手、指導者、現場スタッフを人選すること
③地域密着理念に習い、規定した型に相応しい生え抜き選手を育成すること
④選手/指導者/現場スタッフ評価、契約更新非更新、補強、スカウトを適切に行うこと
私は、トップとして資格要件は出しますが、直接指導者候補をピックアップしたり最終化したりするのは強化部の仕事と思っています。選手についても同じ。彼らは現場人事に対する重要なセクションと位置付けています。また一方で、トップの示した4つの条件の内、「戦いの型」を決めることも大変大事な仕事です。サッカーの場合で言えば、私は条件さえ満たし、それを継続していくだけの強い気持ちがあれば、3バッグだろうが4バックだろうが、堅守速攻だろうが、ポゼッションだろうが構いません。ただし強化部はそうはいかない。そこを決めないと指導者も選手も選択出来ませんので。
また、トップとして地域から立派な選手を輩出することは、地域の方々の喜びであるとともに、補強による選手獲得よりも投資規模を抑えられますので、理に叶った強化方策でもあります。この育成を充実させるためには、ある程度戦いの型を揃えて育成をしていかなければならないと思っています。強化スタッフは、トップから育成まで、戦いの型を決め、それを浸透させるコーチングスタッフを揃え、生え抜き選手で染まったトップチームのスターティングメンバーで固めていくことを地域密着クラブの生命線と認識して仕事をしてもらいたいと思っています。
強化の重要な仕事として、適切な評価を挙げています。ここで私が最も重要視しているのが、非更新選手やスタッフの送り出し方です。何故ならその送り出し方で、日頃からのチームと強化の信頼関係がわかるからです。血の通った熱い関係であれば、例え非更新でも然程禍根を残さずに非更新がなされてきたことを経験的に学びました。しかし、通り一遍の関係の場合は非更新時に何らかのしこりが露呈されます。しこりを持ったまま出て行った選手や指導者が増えれば増えるほど、クラブの業界評価は下がります。結果、良い選手や指導者には敬遠されるクラブになってしまいます。これは経営的な大きな損失につながりますので、補強や新入団業務より重きを置いて診ています。あるクラブでは、永年功労のあった選手に非更新を言い渡す際、強化担当が何も言えず途中からボロボロ涙を流していたそうです。それを見た選手が「もうわかりましたから。本当にお世話になりました」と深々とその強化担当に頭を下げたそうです。仕事と言っても人間と人間の付き合いです。どこまでも血の通った仕事を強化には望んでやみません。
■お客様に対して
最後になりました。この稼業をやっていて、私の中では一番大切であり、一番胸の熱くなる人達であるお客様についての記述で、このコラムを締め括りたいと思います。お客様と言ってもスポンサーさんや、ファン、サポーター(まだ試合が始まっていませんのでブースターさん達とはお話出来ていませんが)さん達と、一括りに出来ないほどそれぞれが貴重な存在であり、今の私がスポーツビジネスをしていく上での教師であり羅針盤になっていただいていることを、初めに申し上げておきたいと思います。
お客様については、これまで述べてきたような数字で類別するつもりはありません。お客様はお客様です。そしてまたの名を「仲間」であり「同志」だと思っています。それは緊密に連携したお付き合いをしていれば、スポンサーさんも同じです。喜び、悲しみといった喜怒哀楽を共に分かち合えると思っていますし、実際お付き合いが深まったスポンサーさんは、スタジアムを離れた場所でのサポーターと変わりません。私は普段お客様という言葉は使いませんが、今回はあえてタイトルにお客様という言葉を使いました。それはこうしたコラムに載せる上での「最大限の敬意」の念を表してでのことです。
一言で言えば、スポーツビジネスで私の思い描いているお客様とは「運命を分かち合い、喜怒哀楽を共にしながら、お互いの幸せを追求し合う同志」だということに辿り着きました。ご迷惑かもしれませんが、心血を注いで紡いできた糸を、同志が同じように紡ぎだし、やがて立派な織物にしていくようなイメージでしょうか。当然、うまくいかない時は相当に叱咤されることもあります。それでも心の底に熱い連帯の血が流れている実感があれば、そうした叱咤も前向きに受け止められます。逆に誠意を込めてお願いすれば、苦しいことでも付き合ってくれると思っています。降格した2015年のホーム最終戦後に、ゴール裏に行って30分近くお話をさせていただきました。刺すような眼差しは感じましたが、シーズン中は黙して語らなかった分、不思議と話せることにホッとしている自分がいました。その心の底には、その場にいた方々と深いところでつながっている同志と信じていた自分がいましたし、現に最後まで静かに話を聞いてくれました。スポーツビジネスのお客様が一般消費財をお買い求めいただくお客様と違うところは、自己犠牲をもいとわず寄り添ってくれることです。その気持ちに何とか応えたいと思いながら、そんな素晴らしいお客様に恵まれたクラブで働くなら、何としてもお客様に、ではなく、お客様と、喜びと感動を共に出来ればとの一念で、まだまだスポーツビジネスの世界で一肌も二肌も脱ぎたい思いでいますこと、どうかお含み置きいただければ幸いです。
なんだか真面目に過ぎたクロージングになってしまいましたが、最後くらい少しくだけて終わりたいと思いますので、過日私のTwitterやFacebookに敬愛の念をもって掲載した清水エスパルスサポーターの皆さんに向けた「私の好きな仲間キャラ」で笑って締めたいと思います。どうかご笑覧下さい。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
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【私の好きな仲間キャラ30選】
1.負けて凹もうが荒れようが必ず次の試合には来る。
2.勝つと概ね真っ直ぐ帰らない。
3.アウェイ勝ちは帰路もユニフォームのまま。
4.遠い場所ほど気合入れて来てくれる。
5.コンビニや駅フォーム、信号待ちでは明るく優しい。
6.チームやサッカーの会話が殆どなわりに、業績も気にかけてくれる。
7.グッズ評価云々問わず、必ずお金を落としてくれる。
8.勝った時は、グッズ売れ残りのないようノリ買い、義理買いをしてくれる。
9.意外とアウェイJ2を楽しんでいた。(多分一年限定)
10.かなりの確率で、徳島北九州あたりまでは車で来てしまう。
11.「勝化試合」などダジャレが上手くチーム愛もある。
12.一度ワラジを脱いだ選手には、どこに移籍しても基本優しい。
13.勝つ丼を食べて負けても、勝つ丼のせいにしない。
14.長蛇の列も、どこか誇らしげに見えてしまう。
15.TV観戦<現地参戦でお金を落としてくれる。
16.負け試合の翌日出社時には、同僚に「申し訳ない」と謝ってしまう。
17.衣類等の装身具には、自然とオレンジものに目が行ってしまう。
18.アウェイ勝利の時は特に先方でお金を落とす額が増える。
19.結果、相手フロントにも大変ありがたがられる。
20.相変わらず長い話なのに、概ね静か?に聞いてくれた。
21.用途は分からないが、社長サインを欲しがる人が少なくなかった。
22.「いつか会場で笑顔の再会」を誰一人として諦めていない。
23.新スタは勿論欲しいが、思い出の詰まった日本平も大事にしたいと思ってる。
24.VELTEX静岡も、この際応援するしかないと思ってくれる。
25.私生活中はそっとしておいてくれる。
26.昔のことをよく知らない私でも一切責めないし、色々丁寧に教えてくれる。
27.左さんでいいからと言っても、かなりの人が未だに社長と呼んでくれる。
28.降格しても私の長い話を黙って聞いてくれたこと。そして信じてくれたこと。
29.久米が逝ってしまった時に、一緒に泣いてくれたこと。
30.『皆さんが書いて下さい』
以上