降格なきリーグのクラブ経営者/唯一昇格なきB3リーグのクラブ経営者に望む
INDEX
【全カテゴリー降格なし/B3昇格なし】
【経営者の成すべきこと】
①不要不急のコスト削減
②原価率の高い事業の規模縮小や廃止
③働き方改革を加速させた上での時短
④広告収入増大
⑤物販業態革新
⑥クラウドファウンディング
⑦第三者割当による増資
【降格なきリーグのクラブ経営者に望む】
①気の緩みへのアラート
②無風こそ有事
③内部留保を蓄積すべき絶好のチャンス
【昇格なきB3リーグのクラブ経営者に望む】
①経営規模拡大に舵を切る
②昇格なき優勝を狙う
【全カテゴリー降格なし/B3昇格なし】
連日の猛暑、如何お過ごしですか?加えて新型コロナウイルスの猛威も治まる気配はなく、経済活動の停滞もさることながら、皆様の健康にも危険な今夏となってしまいました。本当にくれぐれもご自愛下さい。
プロバスケット、プロサッカー業界も、この先の見えないコロナ禍に於いて、短縮日程、ゲーム時の交代人数増、入場者数制限、昇降格のレギュレーション変更等々、例年とは運営方法を大きく変えての取り組みとしながら、何とかスポーツを通じて皆様に少しでも明るく楽しい時を感じて戴けるよう努力を重ねています。
そうした方策の中で、今シーズンは、BリーグもJリーグも「各カテゴリーの降格はなし」というレギュレーション変更を行いました。今般の厳しい世相に、たとえ一部地域の方々たりとて悲しむことなきよう、そして残留のための追加投資をなくし財務状態の悪化を抑止することが狙いでのことですが、各クラブの経営者、特に残留争いの常連となっているクラブ経営者は何を思っているのかは、とても気になるところです。また、B3リーグのみが昇格なきシーズンとなりましたが、過剰投資抑制のためとは言え、昇格という歓喜の時を削がれた当該リーグのクラブ経営者や社員、チーム、そしてご支援戴いている方々の心持ちはいかばかりかとお察ししています。
さて、降格なきリーグのクラブ経営者、そして昇格なきB3リーグのクラブ経営者達は、今どのような采配を振るうことが求められているのか、願わくは「少しでも多くの方々よりクラブの存続に向けたご厚情を賜れれば」との思いを込めて、私なりに思うところを記させていただきます。
【経営者の成すべきこと】
先ず、昇降格の有無に関わらず、何よりも優先順位のトップに据えてやらなければならないことは、このコロナ禍で一様に減収となっている財務状態の改善です。例え元通りとまではいかずともあらゆる策を講じて忍の一字でやり抜かねばならないのは周知の事実です。特に規模の大小に関わらず、入場料収入比率の高いクラブ、そして内部留保が殆どなく赤字即運転資金枯渇となるクラブは、「倒産」がちらつく非常にシビアな状況に陥るでしょう。一方で、クラブの損失を補填出来る親会社や大株主に恵まれたクラブは、難を逃れることが出来るかもしれません。結果、財力のある会社を持つ会社と、そうした会社を持たないクラブの間で、最悪シーズン中の破綻有無という明暗が残酷にも鮮明になるシーズンとなるでしょう。
先ず、損失補填の可否を問わず、全てのクラブ経営者が成すべきことは、徹底的なコストの抑制です。「①不要不急のコスト削減」(コロナ禍を踏まえた出張や会食等の経費)、「②原価率の高い事業の規模縮小や廃止」(物販店舗の縮小又は廃止とオンライン化推進、スクール拠点の統廃合、フロントオフィス縮小等)、「③働き方改革を加速させた上での時短」(サテライトワーク、決済基準簡略化/電子決済、TV会議、各種経費処理のオンライン化、ペーパーレス化等々の推進)はmustアイテムでしょう。但し、役員はともかく社員の処遇を下げるような賞与カットや通勤、残業手当等の諸手当といったものには絶対手をつけないことを切に願います。また雇用に手をつけることも言わずもがなです。それは、社員の士気を下げるばかりでなく、長い目で見た時の企業力低下につながりかねませんので。
コスト抑制の次は収益の増大です。以前より私は、コロナ禍のような世相が暗く萎縮しかねない時ほど、スポーツの持つ喜怒哀楽の増幅性は街の元気を保つ上では重要で、「④広告収入増大」という形で各地域スポーツ団体への支援を、今だからこそ身の丈以下でも構わないのでと、ご厚情をお願いしています。また、ご理解いただきご協賛を付けていただけた法人様も少なくありません。広告収入は間違いなくスポーツ事業収益の柱です。営業スタッフの皆さん、コロナ、熱中症に最大限の注意を払いながらも、折れずに今こそ丹念に市中周りを続けて下さい。また、試合会場での物販は大幅に落ち込むのは否めませんが、今だからこそ生活消費材や、教育、メディカル、乳幼児用商材といったノンコアサポーター商材に力を入れましょう。また、アパレル、自動車、バイク、装身具等の法人とのアライアンスによる別注ものも付加価値商品として積極的機動的に企画していきましょう。流通プロセスもカスタマーフレンドリーなツールをどんどん開拓して、「⑤物販業態革新」の時計の針を一気に進めるつもりで前向きに取り組みましょう。
こうした限界まで追い込んだコスト削減、収益増大努力が外部に伝わらねば「シーズンチケット代返せ、協賛料返せ」と言われても抗弁する資格はないと恥じるべきでしょう。
「⑥クラウドファウンディング」はどうか…確かに収益増大にはなりますが、これをするには私なりのこだわりがあります。人がお金を出すには出すだけの筋がなければなりません。協賛をいただく筋は「あなたの会社がある街を元気に」でした。物販は「欲しいと思うかどうか」でした。ではクラウドファウンディングはどうか…私は「社員の頑張りはもう限界です。皆さんに残りをお願い出来ませんか」ではないでしょうか。人様からお金をいただくからには、先ずは自身が身を切った後でなければ筋が通らないと思っています。それを理解していただけた上でのお願いでなければならないと思います。
「⑦第三者割当による増資」これは収益増大とは別物ですが、本当に会社が立ち行かなくなった時に、これまでもいくつかのスポーツ法人が履行してきたことですし、私もその経験者です。所謂「評価上紙切れに近い株券を買っていただく」ことです。これも、クラウドファウンディング同様に、社内努力が限界でこれ以上はどうにもならない時でなければ筋が通りません。また、既存株主の同意を得ることは勿論のこと、場合によっては「損失を負った具体的責任を伴う」ことも覚悟した上で行われるべきものですので軽々に考えてはならない重い方策としてファイナルカードと認識すべきものです。また増資の執行状況で、そのクラブがどの程度、支援者に支持されているかどうかはっきりわかりますので、ある意味、クラブ存続のリトマス試験紙でもあります。やるかやらぬか、よくよく覚悟を決めた上でのことと致しましょう。
【降格なしリーグのクラブ経営者に望む】
さて、企業努力の甲斐あって会社の存続が見えて来た上で、降格のないリーグのクラブ社長、特に毎年のように残留争いをしているクラブ社長は何を考えるのでしょうか。私が一番重きを置くのは皆さんも同じだと思いますが「①気の緩みへのアラート」です。フロントだけでなくチームもです。財務的に一息つけた時、降格のないフロントはもしかしたら、「残留のための一稼ぎはない。支援者やファンの方々への精魂込めた共に闘おうメッセージも不要。万が一降格した時の膨大な準備も不要」と、シーズン後半は残留争い時と比較すれば「無風」のような雰囲気になりがちです。チームも負けても負けても降格はありません。厳しい叱咤は受けても下のカテゴリーで戦う屈辱を味わうことはありません。下手をすれば「今年は降格がないので長期ビジョンでチームを見られる」などと公の場で言い出す者も出てくるやもしれません…何を言ってるのかと。長期ビジョンは構わないが、フロントの責任あるポストの人間がそんなことを口外すれば現場は緩みます。あくまでも一戦一戦ベストを尽くさねばお客様に失礼極まりない。経営者はフロントもチームも「②無風こそ有事」のつもりで気を緩めず戦うよう目を光らせることが肝要でしょう。
更に、残留争いがないからといって追加補強等、期中で発生する費用のための稼ぎやコスト削減ピッチを緩めていいのか…それは否です。確実なる来季の浮揚に向けて、「③内部留保を蓄積すべき絶好のチャンス」と捉えるべきです。もしかしたら他クラブは、安心して稼ぎのピッチを緩めるやもしれません。地力をつけ引き離す千載一遇の大チャンスと強いメッセージを発信し続けることが大事だと思料します。
【昇格なしB3リーグのクラブ経営者に望む】
さて、話は変わりますが、B3だけが昇格がないこと、これはどうにも解せません。「昇格がない=過度な投資を抑え財務基盤安定」というのも確かにそうなんでしょうが…やはり昇格はありの方が無理がないのではと思いますが。とは言え、リーグの決めたことですから、それに従い、その中でベストチョイスをしていくしかないと思っています。
B3レベルともなれば、凡そのクラブは今回のコロナ禍の影響で大なり小なり財政難に陥る危険をはらんでいることでしょう。そうした点では前述した収支を整える取り組みを必死でやらねばなりません。それは並大抵のことではありませんが、それを踏まえた上で敢えて申し上げれば、今シーズンある程度のリスクを背負って少しでも「①経営規模拡大に舵を切る」クラブは一気に浮揚するチャンスでもあります。常識的には、収益が落ち込むことを最低限に抑える安定指向とすることが賢明な選択ながら、だからこそ拡大のメッセージをトップが放ち、自らを含め、社全体を奮い立たせることを選択したクラブは、一回り大きく成長出来るチャンスだと私は思います。大きく成長させる前提での市場調査や各カテゴリーで立案された方策は、安定指向のそれとは大きく異なってきます。当然ハードルは高く困難を極めますが、そこを乗り越えてきたクラブは一皮剥けるでしょうし、上のカテゴリーでも戦える自力もつくでしょう。経営者の度量と行動力が試される象徴的なシーズンになるということです。あなたは「打って出るだけの覚悟と才を示せますか」と。
そして、その先にある目標は「優勝」です。「②昇格なき優勝を狙う」ことです。昇格がないのに優勝してどこまで意味があるのかと言う方もいるかもしれません。私は全く違います。昇格がないからこそ、純粋に優勝を目指すべきと考えます。優勝は誰のためにあるのかを考えた時、即座にその答えは出ます。地域の方々のため、皆さんの歓喜のためでしょう。たとへ昇格が成らなくとも、その歓喜の価値が減じることはありませんし、むしろその地域では後世まで語り継がれるやもしれません。その象徴的な例が1999年元旦天皇杯を制した横浜フリューゲルスです。その決勝戦を最後に消滅したクラブです。私はその2年後にマリノスに行き、元フリューゲルスの方達からその一部始終を生々しく聞いています。本当に軽々に語れないほど、文字になど出来ないほど悩み苦しみながら勝ち抜いていった足跡には、ただただ頭が下がるばかりです。(決勝相手のエスパルスや関係者、応援者の皆さんも、あの異様な雰囲気の中で立派に戦いました!)優勝の先がなくても、ないからこそこのメンバーで1試合でも多く戦っていたい。メンタルはヤバくても戦っていたい…その想いは見る者の心に響き感動を呼んだんです。私はクラブこそ無くなりませんが、選手にしてみれば毎年同じことが起きているんです。「今のメンバーで戦えるのは今シーズンだけ」だと。ならば、昇格云々関係なくこのチームのために優勝しようと思う道理は必ず皆さんの感動につながるはずです。そのための優勝を、昇格なき優勝で歓喜を分かち合いたいと切に願っています。また私が関わっているベルテックス静岡はそういうクラブを目指す宣言をしたということを申し上げておきます。皆さんと味わう優勝が、どのカテゴリーの優勝より尊い価値のあるものだということを是非証明したいですし、皆さんにはその生き証人になっていただければ、これほど嬉しいことはありません。