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不登校の高校生の彼の「親の葛藤」

1日が過ぎた。
翌日の学校をどうするか確認したら、「行けるかもしれないから、7時に声を掛けて」と言う。
その言葉に期待をするが、翌朝の彼は起きるのも辛そうで、学校の話はできなかった。
私はもう一日、仕事を休んだ。

暇さえあればゲームに動画視聴にスマホを触っていた彼が、ずっとベッドで過ごしている。スマホは見ているようだが、ただ眺めているだけのようだった。
時々話しかけてきて、ぽつりぽつりと今の気持ちを伝えてくれた。
「しんどい」状況から離れるために、部活を休部すること、大学受験は今はあまり考えないこと、私が高校時代に考えていたことなど、彼の気が休まるようにとこちらからも色々と話してみたが、心に響くものはなかったようだ。

重苦しい週末を終えた日曜の夜、
「明日はどうする?」
「いつもの時間に声を掛けて」
「分かった。でも、しんどかったら思い切って1週間休んでみたらどう?」
「・・・、行けたら行きたいから、朝になったら、声を掛けて」
「分かった」

そうして、私は毎朝、声を掛け、「今日は行かない」という返事を聞く日々を続けることとなった。

彼は反抗期らしいこともなくここまで過ごしてきた。
反抗期がない子どももいるというので、それ自体は深く考えていなかった。
ただ、彼は争いごとを好まない。
自分が我慢することで物事が上手くいくならばそうすることを選んでいることを知っていた。
「行けたら行きたい」が彼の本心なのか、「学校へ行ってほしい」親の気持ちを汲んでくれているのか、親の私には分からなかった。

ただ、
「お母さん、だめかもしれない」
あの言葉は彼の心の叫びだったのだろうと思っていた。

あの彼の言葉は
時には私を不安で押しつぶそうにし、
時には私に涙を流させた。

そして、
時には私をしっかりしなさいと奮い立たし、
時には私に彼の意見をちゃんと受け止めなさいと諭してくれた。

私は、時が解決してくれるのを待てず、

学校に今の状況を連絡すること
心療内科を受診すること
不登校のための公的支援機関に相談すること
スクールカウンセラーさんと面談すること

できる限りのことを彼に提案してみた。

その提案を彼が断われば、すぐに引き下がった。
争いごとを好まない彼に強く私の意見は言わないことにした。
彼が納得するまでゆっくりと話すことにした。

もちろん、私の心の中は常に葛藤していた。

時が経つにつれ、
元気そうにスマホを見たり、ゲームをしているならば学校に行けるのではと思った。
何度も何度も同じような会話を続ける中、お母さんにも分からないと投げ出したように答えたこともあった。
昼夜逆点の生活にどうしても我慢ならず、日中寝ている彼を起こしたこともあった。
ただ、言い過ぎた、行き過ぎたと思った時はちゃんと謝った。

学校という所属を失いつつある彼に、家、家族は安心できる存在でありたかった。
時には一緒に泣いたりして、誰でも弱い部分があることを分かってほしかった。

そんな5月を私たち家族は過ごした。
そして、私は彼に今の学校に行くことを求めるのを心の底から辞めることにした。これは大きな大きな決断であった。

次回
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