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夏の昼下がりとクリームソーダ。

「おーい。クリームソーダにしようよー。」

夏のお昼すぎ、3階の子供部屋で過ごしていると、よく父親の声が階下にあるキッチンから聞こえた。父親は、いつも少し嬉しそうな声で私たちを呼んだ。

決まって、食べるのは土曜日だった。土曜日は、だいたい午前中のうちに一週間分の買い出しに出かけ、その後は家でお昼ごはん。夏のお昼ごはんは、チャーハンか焼きそばか冷やし中華か素麺だった気がする。夏のお昼ごはん、結構好きだった。

クリームソーダは、そんな土曜日のお昼ごはんのあと、少し食休みをしてからのデザート的な立ち位置だった。

子供の頃、私は炭酸が苦手だった。シュワシュワしていて、口の中で弾けるあの感じが苦手だった。コーラ、ファンタ、何もかもが苦手だった。家族の中で炭酸が飲めないのは、末っ子の私だけだった。

それでも、このクリームソーダの時だけは、私も「んー、少しだけ」とサイダーを入れてもらった。

我が家のクリームソーダのグラスは、透明な少し模様の入ったロンググラスだった。そこに、三ツ矢サイダーを注ぎ、各々のグラスにバニラアイスを乗せてくれた。バニラアイスは、いつもスーパーに売っていた1リットルのやつ。このバニラアイスを食べる時にしか使うのを見たことがないアイスクリームスクーパーを、父は自慢げに出してきて私たちのグラスにアイスを乗せる。

少しいたずらそうに、楽しそうに、自慢げに。そして何よりも美味しそうに「うーん!」と満足しながら食べる父親が好きだった。

思えば、あの少し自慢そうに食べる父親を見ながら、私はどこかで「私もいつか、炭酸水を」と思っていたのかもしれない。

あの頃からもう20年近くが経ち、今ではビールやハイボールを飲めるようになった。私は炭酸がもう怖くない。

一人暮らしをしている今、あのバニラアイスと三ツ矢サイダーの入ったグラスを各々が満足そうに楽しんでいた実家の風景を思い出すと、あれは紛れもない幸せだったんだろうなと思ったりする。

明日、ひとりで食べてみようかな。
今度、大切にしたい人と、食べてみたいな。
いつも、夏の幸せな記憶のなかに、三ツ矢サイダーのクリームソーダがあったらいいなと思う。

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