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【ドイツ クリスマスマーケットへの旅③】最初の目的地、ドーハでのこと

成田空港を出て、約12時間。
ドーハに着いた。

早朝の空港は静かで、私たちはぼんやりした頭のまま、添乗員さんの後をついていった。今日はずいぶん歩きますね、と言う添乗員さんの声には、緊張感が漂っていた。

添乗員さんは、私たちを無事にガイドする役目を負っている。ついていく私たちは、気楽なものだ。彼女の緊張を感じながらも、大きな生き物の体内を歩き回っているようで、私は冒険のようなときめきに浸っていた。

空港内は本当に広く、目指す搭乗口に行くには、シャトルに乗った方がいいらしい。滑らかに行き交うシャトルを歩きながら見ていた私たちは、自分たちもそれに乗れるのか! と興奮気味にシャトルを待った。

無料で乗れるシャトルの乗り場。
シャトルは窓が大きく、扉も天井も
クリアな造りで、解放感があった。

シャトルの力も借りて、フランクフルトへの飛行機が出る搭乗口にたどり着いた私たち。出発時刻の何分か前にはここに戻ってきましょうと約束して、一旦、解散になった。

ひとたびバラバラになると、一気に"旅"感が出てくる……と思いつつも、他の参加者さんの方が旅慣れしているようで、気がつくとそこかしこでお茶をしたり食事をしたりしている仲間たちの姿を見つけることができた。

「私たちも何か食べようか」

しばらくウロウロ歩き回った後、全く分からないシステムのフードコートで、母と私は日本を出て初めて、チーズケーキと紅茶をゲットした。最初の戦利品のような気持ちで、母と分け合った。

すぐ食べるのにフタをつけてくれたので、
少し崩れた生クリーム。

でも、ちょっと休憩したくらいでは、出発の時間にならない。私たちは空港をぐるぐると歩き回り、何かドーハらしいお土産が欲しいよね、なんて話していた。

でも、大容量のお菓子や、あまり詳しくないサッカー関連のグッズなど、好みの合わないものやかさばるものが多く、なかなか目ぼしいものは見つからない。

そんな時、見慣れたロゴが目に入った。スターバックスだ。カタールまで行って、スタバ? と思われるかもしれない。私だって、そんなつもりはなかった。そもそも日本のスターバックスにすらほとんど行ったことがないのに、ここで行くことになろうとは、と少し困惑してすらいた。

けれど、カタール限定の何かがありそうな気がして、お店に入っていった。案の定、入り口近くに置かれたマグカップやグッズの中に、明らかにカタール限定のオーナメントを見つけた。

ホリデーシーズンらしい赤と緑の色合いがかわいいし、小さいし、カタール限定。これだ、と母と頷き合う。しかし、どこを見ても値段が書いていない。仕方なく、商品を持ってレジに行った。

レジにいたのはとてもニコニコした店員さんで、値段を尋ねると、英語で答えてくれた。数字の聞き取りには未だに身構えてしまう私は、「たぶん、○○って言ったと思う……」と母に伝える。母は英語が少しも分からないので、「ほんと?」と念を押すように聞き返してくる。

その必死な様子に気がついたのか、店員さんは手近な紙にささっと数字を書いて私たちに示してくれた。これね、というように微笑む。それから、「カタールドルです」と付け加えて私たちの反応を待ってくれた。

正直なところ、私たちはカタールドルなるものを全然知らなかった。先ほど食べたチーズケーキと紅茶よりかは安い……ということだけを判断基準に、私たちは買うことを決めた。

私と母は、優しいねぇって囁き合いながらお金を払い、「本当に、ありがとうございます」と言って店を後にした。

*******
海外でこういう優しい接客に出会うたび、中学生の頃、兄に言われた言葉を思い出す。中学3年の夏、私は韓国にいた。初めての海外で、韓国について学んだのも、初めてだった。正直、私は、第二次世界大戦の頃の日本が韓国の人たちにした仕打ちをほとんど知らなかった。

だからこそ、旅先で出会う韓国の方たちの優しさが、本当に嬉しかった。ウォンの使い方に慣れない私たちと一緒に紙幣を数えてくれたり、日本語で話しかけてくれたり。ただの買い物でも、そこには必ず血の通った会話があった。

家に帰った私は、家族に興奮しながら話した。「だからね、韓国の人たちってすごく優しいなって思ったの。戦争で日本がしたことはいけないことだし、忘れてはいけないけど、そういう歴史があっても日本人に優しくしてくれるのって、韓国の人たちのすごさだし……、人間のよいところだなって思ったよ」

これを聞いた兄は、鼻で笑って言った。
「そりゃ、ひばりの行ったところはどこも観光地だもん。オキャクサンに冷たい態度なんかとらないよ。お金を落としてくれなくなっちゃう方が困るんだから」

それもそうか……、と当時は悔しさを感じながらも頷いたものだったが、あれから10年近く経った今、私は、お金に関係ない優しさは、やっぱり存在するはずだと思う。

実際のところ、「その国のシステムをよく分かっていない外国人(私たち)」は、必ずしも歓迎される存在ではないと思う。
言葉ひとつとったって、きちんと理解できないのだとしたら、オキャクサンだとしてもちょっと面倒なはずだ。

でも、◯◯人であるという前に、オキャクサンであるという前に、一人の人間として扱ってもらえたなと私は感じたのだ。

結局、きらびやかで華やかな空港から出ることはできなかったし、私は、カタールのことを何も知らない。でも、優しい接客が、人間のよい部分を見せてくれた。あたたかい思い出が、カタールにもできた。

だんだん夜が明けて
空港内が明るい光と沢山の旅行客で満ちてゆく様は、
見ていて心踊るものがあった。

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元町ひばり
最後までお読みいただき、ありがとうございます。ここは、誰でも入れる「言葉の庭」ですが、もしあなたの心に響くものがありましたら、応援のほどよろしくお願いいたします🕊

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