読書記録 沼田真佑 影裏
影裏 沼田真佑
文學界新人賞受賞 芥川賞受賞
38文字×12行×94ページ=40608文字以下
時系列が少し難解だった。日浅という友人が、離職して喪失感が漂ったかと思えば、呆気なく再会した。何度も再会を果たすことは描写の多い釣りを現すのだろうか。主人公の今野がセクシャルマイノリティと明かされてからは今野という人物の孤独が描写以上に増し、より日浅が拠り所になっているのだと感じた。
構成的にはおそらく難しい書き方をしており、新人が真似できる物ではない様に思う。
岩手の自然豊かな情景の描写は自然の鼓動が聴こえてくるくらいに美しいものがある。
短いゆえにこの描写には何の意図が隠されてるのだろうと考察を試みるが、私には技量がなく分からない箇所がいくつかあった。
日浅を現す表現として「巨大なものの崩壊に陶酔しがちな傾向がある」とされており、これがこの小説の肝的な部分であるのだろうとは思う。結局日浅は1度馴れ親しんだ関係になると、もう馴れ合わないと日浅の父によって語られる。今野にとって拠り所であった日浅だが、日浅にとっては崩壊するための利用にすぎなかったのだろうか。
日浅の不穏さと今野の孤独、釣りや情景の描写が丁寧に書かれた純文学であり、これもまた世界の混沌さをリアルに現した文章に感じた。