はじめての化粧
僕は髭が濃い。夕方には鼻の下が青くなる。青髭はこの世で受け入れがたいものとして認定されている。生理的現象で受け入れられないものが多いこの世界はなかなか厳しい世界だ。
この世界で生きていくにはこのまま青髭を野放しにしていくわけにはいかない。
隠すしかない
近くのショッピングモールのロフトでメンズ用BBクリームを購入した。今メンズ用の化粧品の数が増えてきてるらしい。化粧なんて今までしたことがない。メンズ達、みんな化粧してるのだろうか。乗り遅れているのだろうか。
帰宅して、鏡の前に正座する。
只今からお化粧をはじめる
全国のレディ達からしたら、bbクリームを塗る程度のことは、三輪車に初めて乗るキッズを見る眼差しくらいなのかもしれない。中高生で既にメイクとともに生きている世の女性たちは、例えば、母親や、姉、先輩などからメイクを教わり、自分なりに研究したりしているのだと改めて考えると趣深いものがある。
bbクリームを手の甲にのせて、ちょっとずつ顔に塗り、伸ばしていく。
何これ、絵の具じゃん!
女性は顔に絵の具塗ってるのか、と衝撃を受けたと同時に、てことは塗る側の女性は画家なのだと思った。顔というキャンパスに色味や線を加えて、自由自在に印象を変えていく。そう考えると、俺はすっぴんが1番好きだけどね という男性にありがちは意見は画家の歴史と技術を凝縮した作品を否定していることなのかもしれない。
今日のメイク違うね、いいね、と気付ける男はきっと画家の心を掴むのだろう。
思った以上に色味のあるクリームを顔に伸ばしていく。青髭は、、、うん!少しはマシかな!
たしかに、若干肌の色が統一されて、顔の印象がよくなった気がした。
でも顔は別にそんなに変わったわけじゃない。
大事なことは、顔は変わらないということだ。
化けるという字と粧うという字で化粧と書く。僕はずっと化粧というものを別な顔をつくっているものだと思っていた。でも違った。顔は変わらない。自分の顔を粧うのが化粧だった。自分の顔を最高の状態にしたり、印象を変えたりするのが化粧であり、メイクだった。
そして、この化粧というものに時間を費やしている女性たちは、僕らメンズより圧倒的に芸術家として日々生きていた。
いつもよりいい顔で、明日は出勤しよう。
そして人の顔をよく見てみよう。
少しだけ顔と世界の色が変わった気がする。