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その「言葉」、本当に伝わっていますか?
アニメ番組『一休さん』に登場する、“どちて(どうして)?”が口癖のキャラクター「どちて坊や」。その「どちて坊や」の問いかけのように、世の中の出来事に対する”素朴な疑問”から話がはずむ、ゆかいな雑談です。
何が出てくるかわからないガチャガチャみたいなトーク「脱線!どちて雑談」。
脱線こそ雑談の醍醐味。脱線からうまれる初耳の話を、お楽しみください!
都市で勝ち残るために有利なもの
□谷野
表現の中でも一番難しいのは言葉じゃないかって思いますね。デザインは、デザイン用のソフトが使えれば簡単にできるし、動画も編集ソフトを使えば誰でもつくれます。実際にYouTubeの動画も素人の投稿が急増していますね。写真(画像)もそうで、もうプロのカメラマンが使っているカメラを持たなくても、スマホのカメラ機能でカシャっと撮ればそれなりの画像が撮れちゃうんですよ。もちろん誰もが簡単に操作できるようにソフトなどの技術が進化してきたことが大きいのですが。
それに比べて、言葉なんてずいぶん前からタイプライターやワープロ、パソコンはあったのに、依然として上手に書けるようになっていないですね。
音楽も、素人ではできないことが、今やできるようになっています。
例えば、鼻歌を歌うでしょう。それを録音してパソコンに取り入れると音符になるんですよ。鼻歌が楽譜になるので、曲として再現できる。
例えば、加藤さんが風呂場で鼻歌を歌うじゃないですか。自作の曲を鼻歌で歌って、それを録音しておくと立派な楽譜にできる。誰かに歌ってもらったら、もしかしたら大ヒットになるかもしれない(笑)。「ちょっとイカをあぶった方がいい」のような味わい深い歌詞をつけて(笑)。
プロでないとできなかった表現は、今やコンピュータで誰もができるんですよ。
それなのに、言葉だけできないなと昔から思っていて。
自分の気持ちをうまく言葉をのせることは相変わらず難しいなと思う。
特に、ザラザラな人(田舎の人)って言葉に依存していないから、口下手な人が多いでしょう。
■加藤
本当にそうなんですよね。
□谷野
逆に、都市で生きる人にとって有利になるのが、言葉の能力なんですよ。
だから論理的で、言葉がうまい人が勝ち残っていくんですけど、でも「論理的って何だろう?」というのは、突き詰めると誰でも分かるってことじゃないかな。
だから、論理って「1+1=2」のように、考えれば誰でも分かる、ということの延長ではないかなって。
でも、本当は、論理や言葉にできないものまで分かってくれる人の方が、物や人をよく感じていると思いますね。
■加藤
論理というのは、すごく限られたものでしょ。
例えば、相対性理論とか、ニュートンやアインシュタインみたいな科学の人は、それこそ普遍的なロジックを追求している。だから、数式でどこまで単純に表せるかみたいな話になってきますよね。
これは、その「普遍性があるロジック」を追求している訳です。
では、そうではない我々がふつう言っている論理というのは、今の時代や環境の中で「筋道が通っている」という程度だから、時代が変わったり状況が変わったりするとそれは全然通用しなくなる訳ですよね。
だから、前提条件がいっぱいある訳です。サイエンスの論理というのは前提が何にもなくても通用するかどうかを追求しているのに。
一方で、経済学者とかはいっぱい条件を置くわけで、そういう意味ではひだを全部取ってる訳ですよね。ひょっとしたら、大事なところを全部取っている訳です。
大事じゃないとこだけ残しているから、「お金が多くなったら幸せになる」という前提でスタートしている。
それ、大事なところ全然残ってないじゃないですかということでしょう。
□谷野
肉は切り捨てて、骨と皮だけ食べているみたいですね(笑)
■加藤
食べ物でいうとそうかも分からないですね(笑)
俳句とキャッチコピーの共通点とは
■加藤
言葉でいうとね、俳句の季語ってあるでしょう。
俳句を作る人の間では季語というのは、その言葉だけじゃなくて、その周りの色んな条件を含めるんですよね。
それこそ「夏草や」という言葉を使うとき、“夏草”と言うと我々はいろんなイメージがあって、4文字なんだけども、みんなが持っているイメージを言葉にするとね、千文字とか二千文字ぐらいの文量を持っている。
だから十七文字ですごく読む人、ザラザラな耳を持っている人からすると、たったの4文字
が四万文字ぐらいの量を持っているから、十七文字でも色んな解釈ができて広がりがある訳ですよね。
だから、ロジックというのはそれを切り捨てる作業みたいなものですよね。
一方で、日本人はそういう季語というものを作って、十七文字のなかに表現を“ぎゅっ”と圧縮した。だから読む人、読む耳を持っている人は、圧縮された表現をまたフーリズドライを元に戻すように、広げられないといけない。
だけども、だんだんその圧縮する能力も元に戻す能力も我々、特に都会のツルツル人はその能力が下がってきているような気がします。
キャッチコピーも近い要素があると思いますが、コピーの世界はどうなんですか。
□谷野
キャッチコピーはですね、短いのが良いんじゃなくて、「できるだけ短く」なんですよ。
だから長くてもいいんです。意味が伝わる方が大事なんで。
よく「キャッチコピーは十文字以内」という人もいるけど、それは大嘘で。
二十文字の方が伝わるんだったら、二十文字にした方がいい。ただし、印象に残るためには、できるだけ短く、というのが大切なんです。
広告って意欲的に見るものではないですし、一瞬で目に入ってくるものなんです。
新聞広告のタイトルがパッと目に入るのって0.1秒ですから。長い言葉だと目に入らないので、できるだけ短くなんです。だからキャッチコピーの基本は、読み手の想像力を利用して書くことですね。その言葉が引き金になって想像力が膨らむのが優れたキャッチコピーです。その点で言えば俳句と同じですね。
■加藤
俳句とコピーは同じなんですね。
□谷野
表現を凝縮しているので。だから、日本人はキャッチコピーをつくるのはうまいと思いますよ。
■加藤
うまいと思いますよね。
「目」より「耳」でわかる言葉を意識する
■加藤
日本語っていうのは、あんまりロジカルじゃないよね。
□谷野
ロジカルじゃないですよね。以心伝心ですね。
◇村田
私は行政の人間なんですけど、本当に伝えたいことって書こうとすれば、すごく漢字が多くなるじゃないですか。
漢字が多くなれば、全然伝わらなくなっちゃう。
本当に伝えたいことが伝わってないから、そこに溝ができちゃうんですよね、役所と町の方々との間に。だから自分ごと化会議とかやっていただいて、その溝を埋める作業がまた出てくるんですけど。
最初に発信する時に、言葉の話で言うと、伝え方がすごくマズいですよね。
使っている言葉の画数が多すぎる。市民の人からすると難しい言葉だらけ。
□谷野
熟語ではなく平仮名で伝えるといいですね。
■加藤
そう、本当にそうですよ。
□谷野
「擁護」って言うんじゃなくて、「まもる」とか、そういう風に言い換えてあげる。
平仮名でも意味が分かるように噛み砕くといいですね。
要は、基本的には目じゃなくて「耳」ですね。
耳で聞いて分かる言葉なら、目で見たら中学生でも分かりますね。
◇村田
全ての公文書が中学生でも分かるようにしてくれっていう風に言ってるんですけどね。
□谷野
やらないでしょ?
◇村田
年末に、「綱紀の厳正なる保持」って言われても何の話か、ちっとも分からないですけど。
□谷野
書いている本人も分かってないかもしれないですね。
◇村田
綱紀の厳正なる保持ってね、ハリルホジッチですかって言いたいところでしたけどね(笑)
「真面目にやんなさい」ってことでしょ!(笑)
■加藤
「ほどほどにしとけ」とかね。
□谷野
キャッチコピーって別の言い方をすると「自分ゴトバ」なんですよ。
自分に関係ないものが、自分に関係あると思える言葉なんです。
SDGsの話から、この雑談が始まったんですけど、SDGsのような用語を腑に落ちるようにするにはやっぱり「自分ゴトバに噛み砕いてあげる」っていうのが大切だと思いますね。
□□どちて雑談のアーカイブ□□
本投稿は、構想日本のYouTube企画「脱線!どちて雑談」(26話)の内容を元に、note記事用に加筆修正したものです。ぜひ、YouTubeもご覧ください。
過去のどちて雑談の動画はこちら
https://www.youtube.com/playlist?list=PL1kGdP-fDk396uM9C-x2CaPBM8FeOLZdF