【酒呑みエッセイ】出張後にマッサージを受けてビールをキメた30代独身男性の末路
気付くと時計は予約時間の10分前を指していた。
足早に更衣室へ戻り、館内着に着替える。
サウナでしっかり昇天した後だが、まだ極楽は続く。
館内のマッサージを予約しているのだ。
エレベーターに乗り、マッサージ店のあるフロアへと向かう。
フロアでは、すでにマッサージ師さんが待っていた。
愛想の良いおばちゃんだ。
若い女性を期待していたことは置いておこう。
ベッドが並ぶ部屋に案内され、言われるように横になる。
「凝ってるところはありますか?」
マッサージ師さんが聞いてくる。
凝ってるところ…?
肩?足?腰?
正直わからない。
ただ、全身疲れが溜まっているのは確かだ。
「腰が少し…」
まぁ仕事柄、腰は凝っているだろう。
とりあえず返答をした。
痛気持ちいい…。
全身をマッサージしてくれているが、身体の部位によっては激痛が走る。
個人的にはスネと胸の上部だ。
なぜか「痛い」とは言えない。
「痛い」と言って強度を下げられると、なんか損している気分になる。
よくわからないが、マッサージに行くといつもそんな気持ちになる。
しかし、この痛みに耐えるのもまた気持ちいいような気もする。
マッサージという物を私はまだよく分かってないのだと思う。
そんなことを考えながらマッサージを受けていると、
あっという間に40分が経ってしまった。
更衣室に戻り、再びスーツに袖を通す。
マッサージの効果だろう。肩の軽さに驚いた。
フロントでロッカーキーを返却し、極楽を後にする。
出張で何気なく入ったサウナ施設だったが非常に良かった。
外はもうすっかり暗くなり、降っていた小雨も止んでいる。
町の飲食店には明かりが灯り、活気に満ちている。
サウナで乾いた身体にガソリンを補給しなければならない。
夜の顔になった町を散策していると一軒の居酒屋を見つけた。
居酒屋というか小料理店という感じだ。
看板には「おふくろの味」と書いてある。
外から中を見てみるとカウンター席のみの店内に
スーツ姿のサラリーマンが瓶ビール片手に数名座っている。
その向かいには、お母さんが一人で料理を作りながら切り盛りしている。
凄く良い雰囲気のお店だ。
今回の出張をこのお店で締めようと私は扉を開いた。
店に入ると、カウンターの一番端の席に通された。
お母さんが笑顔で注文を聞いてくれる。
とりあえず、周りのサラリーマンと同じ瓶ビールを頼む。
食べ物は、カウンターに並ぶおばんざいを選ぶスタイルだ。
頼めば一品メニューも作ってくれるという。
おでんを適当に盛ってもらい、酢の物と玉子焼きを頼んだ。
こういうのでいいんだよ。
がっつり中華や焼肉も最高だが、こういう質素な料理が良い。
こういう料理をつまみながらダラダラ飲むのが好きだ。
おでんは、大根、牛筋、厚揚げを盛ってくれていた。
常連であろうサラリーマンのおじさんは、時々お母さんと話し、
みんなそれぞれのペースで飲んでいる。
絶妙な居心地の良さだ。
酢の物は、胡瓜とわかめとタコのオーソドックスな最高のやつ。
玉子焼きは、出汁が効いたタイプのおつまみ系。
おでんは、アツアツしみしみで間違いない。
気付くと瓶ビールが2本空いていた。
私はこのまま新幹線で帰らなければならない。
このお店が近所にあればいいのに。
ちょうど良いほろ酔い状態で私は店を後にした。
駅は家路への向かう人々で溢れていた。
新幹線の切符を買い、ホームへと向かった。
仕事があったことが遠い昔のように感じる。
サウナに行き、マッサージを受け、ビールを飲む
なんと充実した出張終わりだろうか。
たまの出張も悪くない。
大満足で自分の町へと帰り、見慣れた景色を眺める。
この後、安心した私は、在来線で寝過ごすことになる。