【酒呑みエッセイ】牛丼屋の心意気を語った30代独身男性の末路
夕方、17:00。
ひどく疲れた。
深夜1:00から働き、この時間に退社する。
そんな日もある。明日は休みだ。
キンキンに冷えてやがるヤツと一緒に、一刻も早く休みを満喫したい。
普段は、簡単なおつまみを家で作る。
本当に簡単な物だ。
今の時期は鍋を食べることが多い。好きな具材を切って、煮るだけの鍋。
市販のスープを使えば、同じ具材でも、毎回違う味が楽しめる。
鍋は本当に楽で良い。
しかし今日は、鍋を作る気力すら残っていない。
数メートル先に見えた牛丼屋の看板。
気付くと私は、その牛丼屋の駐車場に車を停めていた。
今日は牛丼をテイクアウトし、家でゆっくりと晩酌するとしよう。
身体は時に、あの甘辛く煮られた脂身たっぷりの牛肉を求める。
国民的アニメのヒーローは言った、「早いのウマイの安いの」と。
ちなみに私は世代ではない。
世の中の何もかもが値上がりする中、1食500円程度で食べられる牛丼。
いつまで経っても庶民の味方だ。
注文を終え、目の前で店員さんがテイクアウト用に準備してくれる。
このご時世。テイクアウトは当たり前のサービスとなった。
家でゆっくりと人気飲食店の料理が食べられる。
良い時代になったものだ。
そうこうしていると、私の頼んだ牛丼がレジ横に現れた。
会計を済ませた私に、店員さんは言う。
「お箸や紅生姜は、こちらからお取りください。」
私は牛丼が大好きだ。
それと同等に紅生姜が大好きだ。
牛丼屋のカウンターには必ず、紅生姜が入った容器が設置してある。
私はその紅生姜を牛丼の上に大量に乗せる。
牛丼を食べているのか、紅生姜を食べているのか、もはや分からない。
いや、私は牛丼屋に、紅生姜を食べに来ているのかもしれない。
会計を済ませたレジの横を見ると、割りばし。
そして、小袋に入った紅生姜と七味唐辛子。
この小袋に入った紅生姜、牛丼1食に1袋なのだろうか…。
少ない、少なすぎる。
しかも、なんだこの風貌は。長細いはずの紅生姜が刻まれている。
大の紅生姜ファン、「紅ラー」の私が、こんな物で満足するわけがない。
しかし、テイクアウトを選択してしまったのは、この私。
店員さんの視線が逸れた隙に、紅生姜の小袋を2袋取り、足早に店を出た。
帰宅後、購入した牛丼に食らいつき、缶ビールで流し込む。
小袋2袋分の紅生姜。
紅生姜の量に満足感は得ることができなかったが、さすがに牛丼。
うまい。
牛丼屋のサービス、紅生姜。
その心意気に決してケチをつけるわけではない。
仮に紅生姜が有料のトッピングとなったとしても、私は購入するだろう。
いや、むしろ紅生姜大盛を有料で出していただきたい。
何も気にすることなく、心置きなく紅生姜を牛丼に盛り、食らいつきたい。
牛丼を食べ終わった時には、缶ビールは2本空いていた。
ほろ酔いでトイレへ行き、ふと鏡を見る。
その顔は紅生姜のごとく紅くなっていた。