現実は、和菓子みたいに甘すぎない
中学生の頃、職場体験というものがあった。
期間は約一週間。地域のお店の協力を得て、その職場体験は実施される。
予めどんな職場に行きたいかのアンケートが配られ、私は真っ先に地元の和菓子屋の名前を書いた。
当時、まわりに動物看護士になりたいだのトリマーになりたいだのと言っていた私がなぜ和菓子屋と希望を出したのか、疑問の声も挙がったが、理由は実にくだらないものだった。
和菓子屋で働けば、毎日お菓子が食べられるということを、姉が先に職場体験をしていたことで知っていたのだ。
そんな事前情報を知って臨んだ職場体験はとても順調だった。
確かに毎日お菓子が食べられ、やることと言えばお菓子を入れる箱を組み立てることと掃除のみ。
一日だけエリアマネージャーのような人が来たときは少し怖かったが、中学生の私にとっては概ね満足な職場体験となった。
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働くということがどういうことなのかを知ったのはアルバイトを始めた頃だった。
大学生のアルバイト先はとあるバームクーヘン屋さん。
たまにバームクーヘンを持ち帰ること、試作を食べることが出来たのはとても甘くてよかった(ほとんどの廃棄は動物の餌になっていたけど)。
ただ、お金を貰うことは楽なことじゃない。お金を貰うことに対して責任がついてきた。
掃除一つとっても、てきとーな掃除じゃだめだ。空き時間ができればすかさずショーケースの指紋を拭き取り、制服にころころをかけ、埃がまわないようにこまめに掃除をする。
何も考えずに職場体験のときにやっていた掃除は明らかに足りてなかった。きっと、帰ったあとに大人がもう一度掃除をしていたに違いない。
箱の組み立てにしろ、傷がついていないか、細かく確認する。ただ組み立てるだけじゃない。
ちょっと忙しくて指紋が拭き取れなかった、箱の傷をたまたま見逃した、でも会社はそれを見逃してくれない。
時には怒られる。会社からもお客様からも。
お菓子屋さんで働く=お菓子を食べながらお金がもらえる、とだけで考えていた私にとって、働くってこういうことかと衝撃だった。
社会人になってもそうだ。
仕事をただこなせば給料は自動的に上がるなんてそんな甘い話は現実にそうそうない。
会社は勝手に大きくならない。成果を出さないと給料は上がらない。
私は今日もお金をもらうためにせっせと働く。成果を求められる。
お金についてまわる責任や成果って正直しんどいな、などと思ってたまにさぼったりもする。そしてお金は減る。
中学生の職場体験ではそんなこと教えてくれなかった。お菓子を食べられるだけじゃないのか。
でも、中学では教わらなかったけど、お金をもらって働くからこそ体験できたこともあった。
給料日には美味しいご飯を食べる。
稼いだお金で楽しいデートに出かける。
欲しいお洋服を買う。ディズニーランドにだって何回も行けちゃう。
仕事で褒められる。職場の人と仲良くなる。
現実は甘くないから、働かずして楽しいことばかりなんてことほとんどないし、働けば怒られて落ち込むことも多い。それでも、働くことで良い体験もちょっとはついてくる。
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ちなみに、職場体験の話を書こうと思ったきっかけは、豊洲ららぽーとにあったキッザニアという施設を見かけたからだ。
調べてみる限り、お菓子を食べていただけの中学生の職場体験に比べると、圧倒的に有意義な体験ができそうだな、と感じた。
社会の仕組み、なんて教えてくれなかったもんなぁ。
どんなものか気になるけど、もうだいぶ大人になってしまったので、日々の仕事をひとまず頑張ろう。