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中毒性のある人間臭さ|このあたりの人たち|読書感想
今って、統一性のないものにツッコミを入れたり、常識外れをこと細かに指摘したり……みたいな「正しさ」が世を牛耳ってるのかなと感じるのですが、この物語はもんのすごく自由。たった数行の間に、町はずれの団地が発展して通貨ができて国から独立して急に元通りになったりする。読んでいるとこちらまで体が軽くなるくらい、時間が愉快に飛びまわるので楽しくなります。
しかしその自由さ、描かれている人間たちの一筋縄ではいかない感じ、突飛な行動、はちゃめちゃな理屈、それらすべて「これが人間だ〜!」って思わせてくれる説得力があった。みんな欲望に素直だからだろうか。論理的に説明できる、きれいに物語の中におさまる、それが人間ですか? いいえ違います遊びまわれ〜〜ッ!みたいな、なんども嗅ぎたくなる人間臭さ(しかも重たくない香り)が充満していた。
その人間臭さは純文学ぽさを感じるのだけど、不思議とコメディ感もひしひしと伝わってくる。語りは冷静で内容もコメディって訳じゃないし、なんなら不穏な言葉もたびたび現れるのに。それでも可笑しさを感じる理由は、例えば「窓にひびが入りそうなくらい大きな声」って文章は、表現のひとつとして違和感ないけど、ここでは本当に窓にひびが入るし、地団駄を踏めば床にもひびが入るし、睨み合いで火花が散ってボヤが起こる。ほんとにひび入るんかい!睨み合いでボヤになるんかい!みたいなツッコミを入れたくなってしまう。そういう意味ではもう、純文学版『日常』みたいな感覚で、めちゃくちゃクセになるのです。
すでに2回読了してしまった。改めて読むと、初読のときには気づかなかったつながりも見えてきて、よけいに読む手が止まらなくなるのでした。