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少額訴訟を起こすのはおすすめしない

「少額訴訟」とは、普通の裁判よりも敷居が低く、法律素人でもとっかかりやすいというコンセプトの訴訟制度である。

けれど私は、迷うくらいなら裁判の申し立てなんてするなという話をしたい。


無責任な提案に乗ってはいけない

・60万円以下の揉めごとには少額訴訟が便利
・少額訴訟は1回の裁判で決着する
・少額訴訟だったら弁護士をつけなくても簡単にできる
・少額訴訟であれば費用負担が少ない

ネットで検索すると、このような説明で少額訴訟を勧めている人が多い。

そりゃあ、本人訴訟がデフォルトな少額訴訟は、「少額訴訟以外の訴訟」より簡単だろう。
相対的には。

だが、腐っても訴訟、腐っても裁判。
一般的な法知識しか持っていない庶民が、気軽に使える制度ではない。

少額訴訟を起こしたからこそ、身をもってそう思う。

裁判を経験したわけでもない人は、少額訴訟の存在を知識として知っているだけ。
彼らが吐くのは何の実感も伴わない言葉である。


実際に提訴する人はいるのか

あまりいない。どうせやらない。

2022年のデータによると、少額訴訟の年間新受事件数は6,594件。

60万円以下のトラブルなんて、法人個人を問わずそこらじゅうに転がっているはずだが、件数としてはこんなもんだ。

訴訟の数のわりに、「少額訴訟」というワードはX(Twitter)等でヒットしやすい。
それはなぜか?

「これがダメなら少額訴訟をするしかないか〜」
と訴訟をチラつかせ、相手の出方をうかがおうとする人はたくさんいるからだ。

口だけ。実行には移さない。


提訴を勧めない理由

面倒くさい

知らないことを調べる、初めてのことに挑むという行為は、圧倒的に面倒だ。
楽しくもないことのために、能動的なアクションを求められるのはしんどい。


説明を読んでも理解できない

少額訴訟の起こし方は、裁判所のWEBサイトに記載されている。
訴状のPDFをダウンロードできるし、敷金返還請求の訴状記載例だってある。

しかし、サイトの閲覧のみでは、必要な情報全てを拾うことはできない。

訴状の書き方はこれでいいのか。
添付書類とは何なのか。
それらを何部提出すればいいのか。

どんな証拠をどういう形式で提出すればいいのか。
というか証拠って何?
何を用意すれば証拠として認められる?

提供された情報にじっくり目を通しても、大事なことはよく分からないままである。


自分の住所がばれる

訴状には、申立人の現住所(住民票住所)を書く欄がある。
揉めている相手に、こちらの情報を与えるのはいかがなものか。


裁判官に頼らず、自分の頭を使わなければいけない

1つの少額訴訟案件に対して、与えられる時間はとても短い。

うまく主張を展開できないと、相手方の言い分に流されてしまうし、裁判官にも言いくるめられてしまう。

裁判官なんだからちゃんと話を聞いてくれるだろう、という考えは甘い。
裁判官なんだから提出資料を見れば分かってくれるだろう、という考えも甘い。


良い結果になるとは限らない裁判のために、お金を払わなければならない

少額訴訟を検討しているのは、お金が支払われない、または返金されない、という金銭トラブルを抱えた人達だ。

ただでさえお金で悩んでいるのに、リーズナブルとはいえ訴訟費用が財布から出ていくのはしんどい。

訴状が1回で相手に届かず、再送付した場合なんかには、追加費用が発生することもある。

最終的に訴訟費用が被告負担になることもあるが、それは裁判に勝訴したときのみだ。


相手からお金を取れないこともある

裁判に勝っても、和解が成立しても、ちゃんと被告からお金を回収できるという確証はない。

裁判所が責任を持って徴収してくれればいいのだが、そういうサービスは実施してくれない。

「強制執行」で相手の財産を差し押さえるには、また新たな費用と労力を要することになる。

何のための判決だ、何のための和解だ。
と絶望する未来が待っているかもしれない。


終わりに

訴えて、勝って、お金を手にする。
その過程で、どんなにメンタルを削られることか。

「それ訴えたら絶対勝てるって〜」
そう言ってくる知人・友人・ネットの声に耳を貸さないでほしい。

諦めるのは逃げじゃない。懸命な決断だ。

人生、まだまだ先は長い。
たとえ訴訟を断念しても、いつか必ず、今回のトラブルの教訓を活かせる日がやってくる。


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