モンゴメリの青い城
「赤毛のアン」の文庫全10巻が古くなってしまったので、そろそろ買い換えようと思い、さっそくスマホで検索。
すると同じ作者の小説で気になるものを発見した。DMMで購入し、毎日少しずつ読み進めていく。
青い城 モンゴメリ作。
まず表紙が好き。
青緑色の森の中を、青い城にゆっくりと向かう赤いドレスの女性の姿を、遠くから見下ろしているような構図。
もちろん絵なので動いてはいないけれど、なぜだかゆっくりと歩いているように見える赤いドレスの女性は、主人公のヴァランシーだろう。
彼女の内なる情熱を、燃えるような赤が表している。
物語を読み進めると、表紙に使われている深い森のティールブルーの色が、鮮やかに浮かんでくる。
始まりはどんよりとしていて、かなり暗い。
29歳のモテないオールドミス。同居する家族や親戚は、体が弱く誰にも求められない彼女を腫物のように扱う。
そんなヴァランシーの唯一の救いは、心の中で空想する理想的な青い城。青い白の中では、年齢が変わるにつれて、違う恋人達が次々と現れる。
私も、小さい頃からお絵描きが好きで、ノートに理想のカップルのキャラクターデザインを描いていたなぁ。
小学校の頃は15歳くらいの主人公で、自分がそのくらいの年齢になると、少し上の18歳から20代前半くらい。
主人公たちが自分の年齢を超える頃には、何となく想像が出来なくなってきた。
その頃は30代以降のキャラがどんな恋愛をするかなんて想像することもできなかった。
現代でも、やっぱり女性の29歳は迷いの年齢だと思う。
女の子とは呼べなくなってくる、自立していないと苦しくなってくる年齢。
実際、過ぎてしまえば全然若いのだけれど。
そんな自分の世界を持っていて、現実が苦手な主人公が、
悪い噂のあるミステリアスな男性と恋仲になり狭い世界を広げていく。
私がモンゴメリ作品に抱くイメージは、ギルバートがアンに贈った結婚指輪にも使われている「真珠」。
古びれない定番、素朴だけどノーブル。
100年以上前に生まれた物語が、国と時代を越えて、今なお街の本屋で手軽に買えるってすごいことだ。
いつ読んでも普遍的で、登場人物が、私たちと同じような悩みを抱えていたんだという安心を与えてくれる。
モンゴメリ作品の不思議なところは、読み手と登場人物との距離感。初見では、なんだか魅力がわからない。
あんまり好きなキャラいないなーと思っているが、物語が進むにつれ、色鮮やかに生き生きと存在するキャラクター達に対して好感度が上がる。
赤毛のアンでも、最初はちょっと情緒不安定なアンは、想像力いっぱいの妖精のような女の子に思えてくる。
質素で厳格なマリラだって、愛情いっぱいの元祖素敵ツンデレだ。
一見寡黙で大人しそうに見えるマシューは、アンの人生において絶対的な信頼を与えてくれる、読者のみんなが大好きになってしまうおじいさんなはず。
お隣のリンドのおばさんに至っては、初対面でアンの容姿を侮辱し、許すまじババアと思っていたが(この時にはもうアンに感情移入しているのだ!)、1巻の最後には、お節介でも頼り甲斐のあるマダムだとわかる。
青い城でも、最終的には、地味な人物が魅力的に見えるようになる。
ヴァランシーを下に見てくる家族たちも、悪い人間ではない。
ただ噂好きで、自分が正しいといつも思っているタイプの普通の人々だ、ということがわかる。
真実を見抜いてしまったら、知らなかった頃には戻れない。
自分が幸せだと、人生は薔薇色になるのだろう。
最後に、主人公の性格をもう一度考えてみる。
ヴァランシーは賢く皮肉屋、ウィットにとんだ言葉の使い手。
心が不自由なときも、人の話に合いの手を入れてあげる優しさを持ち、相手の欲しい言葉を与える、優秀なアシスタントのような女性。
噂や見た目だけで人を判断しない。
思慮深いから、奥手で我慢をしてしまう。
まずは様子を見るタイプの人には、共感できるのではないでしょうか。
案ずるより産むが易し、行動を起こしてから幸せになるまでのカタルシスを味わえる大好きな作品。
ちなみに私がこの作品を読んで感じた幸せとは、風邪をひかない、新鮮なベリーを摘みその場で食べる、好きな服を着る、ということ。