「しょうがない」が二つ消えた日
数か月前、病院の受付のわりとフランクに話す人から
「本当に病院嫌いなんですね!見ててわかりますよ。まるわかりですもの。どうしてそんなに嫌いなんですか?」
と言われたので、ははは、と笑って流した。
こういう「私は見抜いてますよ!なぜなら観察眼があって、それなりの人生経験も重ねて、人の秘密を暴いて言えるんですから!どうですか!?」と言いたそうな物言いは、人生でわりと経験する。
ゲームなのかな、と自分では想像している。
あまり日常に大きな変化がなくて、なにかを暴いたり、誰も言わなそうなところを突っ込んでみたい。セクシュアリティだったり、離婚歴だったり、人には言えない家庭の事情だったり、既婚未婚子持ちなのかそうでないのかとか、とにかく暴いて知って、可能な限り、人とそれについて話をして、好奇心を満たして、おもしろおかしい時間を過ごしたい、そういうことなのかと思っている。わからないけど。
別件だけど、パートナーと二人で歩いてたら大学のアメフト部の子達に急に通りの向こうからでかい声で「お幸せに〜〜〜!!!!!!」とニヤニヤ大声で言われたこともある。まあ当て物ゲームって楽しいのかもしれない。
断わっておくと、病院が別に嫌いなわけではない。
今通っているところはセカンドオピニオンも取る必要がなさそうな感じで信頼しているし、治療もリハビリもできるかぎり教えてくれるからやっているし、良いところだ。
ただ、どうしてもこの病気で平均寿命が下がるだの、併発する病気があるだのなんだのについて考えたりさせられたりとか、最近は減ったけど気がついたら涙ずっと流しながらやってるリハビリとかを思うので、気分が良いものではないのかもしれない。
この前はそれを見た相方が見かねて「あんまり根詰めなくても良いんじゃない(それほど必死にやらなきゃいけないことはよくわかってるけれども)」と言ってきたくらいで、まあ、ねえ、って感じだった。
とはいえ、受付の人は治療には関わらないし、他の美容整形とかで来ているお友達の奥様グループとよく安くてきれいになる整形の話とかをしてるくらいなので、気楽で楽しいけど、つまらないなかでちょっと面白く見つけたパコの嫌そうな顔、といったところなのだと思うので、そんな深刻とは夢にも思っていないのだと推察する。
この世は想像力も共感力も重要視されているわけでもないし、自分の範疇外のものを知ろうとする人も、基本的にそんなに多くないので、そんなものなのでしょうがない。
相手がちょっと飽きた日常で、おもしろそうないじれる人物を見つけていじるのも、しょうがない。
なので、いつものしょうがないしょうがないで流して忘れていたのだけど、今日病院に行ったらその人が受付だった。そして、
「なんだか前に嫌そうとか言ってしまったけど、お疲れの時ありましたよね。気が利かなくてごめんなさいね。はい、じゃあソファで番号呼ばれるまでお待ちください。」
と言われた。要はあの発言は撤回(違う表現のつもりだったと上書きしたい)です、ごめんなさいね、と言っているのだった。
特になにかの反応をしたわけではないけど、当然謝罪の意図はよくわかったので、受けとめた。
もしかしたら誰かが前のやりとりを聞いていて「あれは良くないよ」といったのかもしれないし、自分で考え直して、そう言ったのかもしれないけれど、経緯はとにかくよくわからない。
外国でもこういう謝罪は欧州でたまにある。すさまじく嫌な対応してきた後に、急になにげない風を装って気遣うような言葉をかけてきたりするおじさんとかが典型で、要はそれもやっぱり「さっきはすまなかった」というわけだ。
米国人は長い文章でなぜそうなって、自分がどう悔いているかをいってくれるのかがわかりやすいが、そっちはそっちで申し訳なくなるので、今くらいの感じがまあこっちも気楽ではある(若干ふにおちないけれども)。
しょうがないしょうがない、が二つも減ったので良い日だった。