連載「ユニオンリスク」Vol.9 「組合活動ができなくなる」無権代理状態とブラックユニオンの「山猫」化現象(民事編)
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」という問題点を発信していく本連載。
第9弾となる本稿では、プレカリアートユニオンが「組合活動ができなく」なった経緯と、それにより予想されるさまざまな民事責任について検討したい。
117人の”嘆願書”
令和6年3月1日。
衝撃の大会(総会)決議不存在判決の翌日、早くもプレカリアートユニオンは控訴審に向けて動き始めた。
2月28日の総会決議不存在判決では、会社法用語でいう、いわゆる「瑕疵の連鎖」が認められた。
その理屈はこうだ。
正当な代議員選挙を開催していないことを理由として、平成27年9月のプレカリアートユニオンの総会決議が無効であることは認められた。
しかし、その後、令和元年6月以降の総会では、ユニオンは、代議員選挙を開催している。それは現在に至るまで同様だ。
そこで、ユニオンは、仮に平成27年9月の総会に問題があったとしても、令和元年6月以降、直近の総会に至るまでは代議員選挙を開催しているから、問題は既に解決しており、現在のプレカリアートユニオンに違法性はないと主張した。
他方で、原告の組合員らは、代議員選挙の問題が解決したとしても、その代議員選挙を開催した主催者が、不存在(無効)となった平成27年9月以降の総会で選出された「自称執行委員長」であるから、今さら代議員選挙などの正当な手続をしたとしても、それは無権利者によるもので、法的に正当な執行委員が代議員選挙などの手続を開催しなければならないという規約に違反するから、法的には、直近の総会も不存在(無効)になると反論した。
結論としては、裁判所は、原告の組合員側の主張を全面的に採用し、次のように判決した。
こうして、極めてあっけなく、「瑕疵の連鎖」により、平成27年以降現在までのユニオンの総会が不存在(無効)であることが認められてしまったのだ。
そこで、ユニオンが早速取り組んだのが、冒頭の「嘆願書」の作成だ。判決を受けて、「このままでは組合活動ができなくなる」と一見謙虚に受け止めつつも、今度は、「(無権とされた)執行委員ではなく、組合員側の招集請求により総会を開いたから、瑕疵の連鎖はなく、有効だ」と主張する作戦に出たのである。
これを控訴審の口頭弁論終結までに終えれば、控訴審の判断材料に取り入れてもらえるから、時間との闘いだ。
プレカリアートユニオンは、2月28日の判決を予見していたのだろうか、動きは早かった。
かくして、上記のような「嘆願書」が117通作成され、ユニオンが主張する現在319名の組合員の3分の1を上回った。
これをもって、今までのような、判決で”無権利者”と処断された自称執行委員会の「招集」ではなく、組合員多数の意思による「招集」であるとすることで、今までの総会が法的に不存在(無効)だとしても、今回の総会は有効だという判断(「瑕疵の連鎖」の切断)を狙った。
そうして、プレカリアートユニオンは、原告の組合員らを排除しつつ、改めて5月26日に「臨時総会」「執行委員会」を開催し、令和元年〜2年頃の総会における原告ら組合員に対する「除名処分」を含む平成24年のユニオンの設立以来の今までのすべての決議を「追認」するとともに、原告らが「資格喪失」したことを「承認」するという決議を行ったというのだ。
しかし、この作戦は、結果としては功を奏すことはなかった。
高等裁判所は、そもそも、プレカリアートユニオン側の代理人弁護士が、5月26日の臨時総会について高裁で「判断」されると、その不服審査は上告審の1回しかないことになり、地裁〜最高裁と3回の判断を受けられる「審級の利益」が害されると異議を述べていることを指摘し、そのような前提に立つと、5月26日臨時総会が有効であると高裁が「判断」すること前提として、この総会で原告らが除名されたり、原告らを除名したりする決議が追認されたという判決をすることはできないと指摘したのだ。
つまり、5月26日臨時総会を新たな「証拠」として持ち出しつつも、それと同時に、高裁で同日の総会について判断されるのはイヤだと述べてしまったことになる。弁護士側の事務的ミスである。
これにより、「このままでは組合活動ができなくなる」と綴った117通もの「嘆願書」が無意味に帰したことはいうまでもない。
そのほか、高裁判決は、総会決議で今までの活動を追認するためには、代議員選挙をやりさえすれば招集者は誰でも良いものではなく、あくまでも正当に選挙した執行委員会により総会を招集しなければならないと改めて指摘。しかし、現実的には、法的に有効な総会で選任された大平正巳前代表は平成25年4月11日に退任しており、今さら総会の招集は不可能だ。
そうなると、これまでの問題を解決するためには、地裁判決で指摘された「全員出席総会」のほか、高裁判決で提示された「組合員全員がその追認を承諾」するという方法しかないことになる。
319名いるという組合員のうち、「嘆願書」を提出した117人の承諾書はもらえそうだ。すると、あとは残りの202人と原告となった組合員2人をあわせて、合計204通もの承諾書が必要だ。
かといって、このまま総会が無効(不存在)のままにすれば、今までの2000万円を超えるとみられる”役員報酬”を返金することにもなりかねない。
自称執行委員長の清水直子氏の「同意書行脚」は、まだまだ続きそうだ。
なぜ「このままでは組合活動ができなくなる」のか?
「組合活動」の法的根拠
ところで、冒頭の「嘆願書」の内容に戻るが、プレカリアートユニオンは、なぜ、このまま判決を放置すれば「組合活動ができなくなる」のだろうか。
その理由は、憲法28条と労働組合法第8条に起因している。
労働組合は、憲法により特別な権能を付与されており、「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」が文字通り「保障」されている。
労働組合法は、これを受けて、その権利を具体化するために作られた法律だが、法8条の規定により、正当な団結権、団体交渉権、団体行動権の行使について使用者が損害賠償を請求することができないのは勿論、法8条はあくまでも確認規定であって、損害賠償以外の民事責任を問うことも、刑事責任を問うこともできないと理解されている。
しかし、労働組合法は、労働組合の権利を定めているだけでなく、義務も定めている。
もっとも、使用者や国家権力が労働組合に介入することは望ましくないから、その義務の範囲は極めて限定されているが、そもそも、憲法が保障する権利の名宛人が「勤労者」と労働者個人を指していることから、労働組合内部において労働者個人の権利を侵害するような行為がされた場合——例えば、一部の者が労働組合を私物化し、異議を述べた組合員を排除するような場合——は、労働組合法に違反するものと評価される。
その”義務”こそが、法5条の規定なのだ。
この点、ユニオン側は、「労働組合の規約には、左の各号に掲げる規定を含まなければならない」との規定を根拠に、法5条の内容どおりの規約を定めてさえいれば、それを実際に守らなくても良いと最後まで主張し続けた。
しかし、例えば最近制定されたAV新法では、AVへの出演ごとに契約書を作成しなければならないと規定されているが、契約書を作成しさえすれば、その契約内容を守らなくてもいいのだろうか。
普通、ある法律の中で、契約の内容に○○を含めなければならないと規定されていたら、契約に○○を含めるのは当然、その○○を実際に遵守する義務もあると解釈するのが当然だろう。
高裁判決は、もちろん、
と判断し、プレカリアートユニオンが平成27年以来、法5条のなかでも、特に2項5号に定める「単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること」との規定に違反してきたと断定し、プレカリアートユニオンによる一連の労働組合法違反を認定。
ところで、法5条の冒頭には、「(労働組合は、)第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない」とある。
労働組合法に違反する労働組合は、法に定める手続に参与することができず、また、法に基づく救済を与えられることもできず、但し書きにあるとおり、憲法の原則に立ち戻り、労働者個人が保護されるに過ぎないということだ。
これでは、ユニオンに加入する意味がない。
こうして、憲法及び労働組合法によれば、労働組合には多彩な特権や保障が与えられているものの、高裁判決によれば、それは労働組合法5条の規定を実際に守ることが条件とされており、少なくともプレカリアートユニオンについては、現時点で「違法な」労働組合であることが認められてしまったのだ。
違法な「組合活動」の民事責任
さて、「違法な労働組合」による「組合活動」には、具体的にはどのような問題があるのかについて見ていこう。
そもそも、法人や団体とは法的にどういうものかについてみていこう。憲法21条の規定により、国民には結社の自由が保障されており、労働組合だけでなく、株式会社や宗教法人、NPO法人など、さまざまな種類の法人を結成することが認められている。
その法人の種類ごとに細かい取扱いを定める法律が規定されているが、会社については会社法、会社以外の法人については一般法人法(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)が通則法(原則)として適用され、それを上書きする形で、特別法である各種法律(労働組合であれば労働組合法)が適用されるというのが通説だ。
そして、一般法人法では、
と規定しており(ちなみに、会社法でも同様だ)、労働組合法やプレカリアートユニオンの規約には、これを排除する規定はないから、プレカリアートユニオンとユニオンの執行委員長ら役員の関係も、民法の委任に関する規定に従うとみるのが妥当だ。
そして、今回は、プレカリアートユニオンにおいて、代表者として清水直子氏らを選任する決議が不存在(無効)と判決されているから、これは、プレカリアートユニオンの代表者としての権利を清水直子氏に委任するというプレカリアートユニオン側の意思表示(決議)が不存在(無効)であり、結果として委任関係も不存在(無効)であったとみることができる。
つまり、民法的には、平成27年9月以降のプレカリアートユニオンの代表者としての清水直子氏の行為は、無権代理行為ということになる。
無権代理行為の原則無効と相手方の取消権
無権代理行為の効果については、民法に規定がある。
つまり、プレカリアートユニオンが冒頭で述べたように、全員出席総会を開催するか組合員全員の同意を取り付けるなどして、有効に追認の決議(意思表示)をしない限りは、プレカリアートユニオンでの団体交渉による和解、労働協約、組合への加入などが幅広く「本人(プレカリアートユニオン)に対してその効力を生じない」、つまり無効となる。
無効な決議に基づいて「役員報酬」を引き出したのであれば、それは不当利得であるから、有効な追認がなされるまでの間、一旦、返金しなければならないことは当然の理であるし、無権代理行為で締結した「和解」などがプレカリアートユニオンに対して無効になる以上、いつになるかも分からない追認決議がなされるまでの間、会社側から得た解決金や組合員から得た組合費や拠出金も、まずは一旦返すのが常識的な対応ということになるだろう。
これは、プレカリアートユニオンの顧問や訴訟代理人に就任したとして活動してきた弁護士にも指摘できる。
顧問や訴訟代理人に選任するとした執行委員会の決議や、清水直子氏の依頼自体がプレカリアートユニオンとの関係で原則無効だったのだから、今後、法的に有効な追認がされるまでの間は、例えば本件でユニオン側の代理人を務めた山口貴士、佐々木大介弁護士をはじめ、顧問の佐々木亮弁護士、別件でユニオンの訴訟代理人を務めた嶋﨑量弁護士や大口昭彦弁護士なども、まずは一旦、受け取った着手金などの弁護士報酬を返金し、無償で弁護士業務をやらされたことによる損害賠償は、問題の張本人、つまり無権代理人である清水氏個人に対して、改めて請求するべきだろう。
迷惑な無権代理行為の被害を受けた相手方(会社や組合員)も、催告権、取消権を有し、無権代理人への損害賠償請求又は履行請求をすることができる。
このうち、取消権と無権代理人(清水直子氏)への損害賠償請求又は履行請求権は、無権代理行為について悪意であった(プレカリアートユニオンの決議に瑕疵があることを知っていた)者は行使できないから、遅くとも今年2月28日の地裁判決の存在を知りながら不存在(無効)とされた決議を主導した者やこれに参加した者、117通の「嘆願書」を提出した者は、それぞれ、少なくともそれ以降のユニオンの行為については無権代理について悪意であり取消権が行使できず、場合によっては、それ以前の行為についても取消権等を放棄したと評価される場合があるだろう。
他方で、それ以外の多くの組合員・元組合員は、ユニオンへの加入を取り消して、組合費や拠出金の返還を請求することができる。
裁判におけるプレカリアートユニオンの代理人・山口貴士弁護士の主張によれば、労働組合としては不思議なことに、ユニオンの組合員には、職場や業界を同じくする労働者の権利という「共益権」の実現には関心がない者が多い一方で、自己の経済的利益といった「自益権」には関心がある者が多いのだという。
そもそも、そのような「労働組合」が、憲法が労働基本権を保障した趣旨に適合しているのか大いに疑問なのであるが、いずれにせよ、本件判決を知れば、ユニオンへの加入を取消し、法的根拠がなかったことになる組合費や拠出金を返金してほしいとして「自益権」を主張する(元)組合員は多いのではないだろうか。
プレカリアートユニオンは、この返金に誠実に応じなければならないことはいうまでもない。
無権代理人への責任追及
とはいっても、そもそも誰が正当な代表者か分からないプレカリアートユニオンに「取消権」を行使することは容易ではないし、単に取消権を行使するためだけに、裁判所に仮理事や特別代理人の選任を申し立てるとなると負担が大きいだろう。
民法は、そのような場合に備えて、無権代理人への責任追及という選択肢を用意している。
既に述べたように、不存在(無効)な総会決議について悪意であった者や、取消権等を放棄したと評価される者、清水氏の無権代理行為に気付く機会があったのに気付かず、または黙認したなどの有過失な者以外は、清水氏に対して直接、履行請求又は損害賠償請求ができるのだ。
このうち、履行の請求は、清水氏の無権代理行為に同意するのと等価だから、特段請求しなくても、今のままにしておけば良いということになるだろう。
他方で、清水氏の無権代理行為に納得できない場合は、損害賠償請求という選択肢がある。
この場合は、清水氏がユニオンの代表者ではなく、法的には労働組合としての活動ができず、様々な法的リスクを負っている状態であることを知っていれば加入金や組合費、拠出金を支払わなかったのに、清水氏に騙されて支払い損害を負ったとして、既に紹介した無権代理行為の相手方の取消権及び錯誤(民法95条1項)に基づいてユニオンへの組合加入契約を取り消すと同時に、加入金等相当額の返還を求め、清水氏にも同額の損害賠償請求をすることになるだろう。
仮に、団体交渉などを介して清水氏から和解することを強く薦められ、清水氏のアドバイスに従って会社を退職して解決金を受け取り、労働問題を和解したような場合も、ユニオンへの加入契約を取り消すこと、清水氏による執行委員長としてのアドバイスや労使交渉への介入が違法な無権代理行為であることに基づき、加入金、組合費及び解決金から徴収された拠出金の返還を求めるほか、会社に在職していれば得られたはずの給料を請求することもできるだろう。
ここで、会社の退職を余儀なくされたことによる逸失利益としての給料の額が何ヶ月分かは、有期雇用であればその期間、更新への期待権があれば更新後の期間も含む期間に対応する給料額になるが、無期雇用の場合は、少なくとも清水氏によれば、定年までの給料相当額(生涯賃金)を請求できるらしい。
というのは、筆者は、とある小売大手との交渉において、清水氏が、解雇理由がないのに組合員に退職を求めるのであれば、生涯賃金相当額を支払えと要求しているのを見たことがあるのだ。
こうした清水氏自身の見解を前提とすれば、清水氏の無権団体交渉により退職を余儀なくされた場合も、清水氏に対し、会社からの生涯賃金相当額を損害賠償請求できるというべきだろう。
清水氏が、これらの損害賠償請求に誠実に応じなければならないことはいうまでもない。
なお、清水氏の住所は、プレカリアートユニオンの登記簿を取得することで、誰でも確認することができる。
会社による取消権の行使
ここまで、主に労働者・組合員の立場からプレカリアートユニオン・清水直子氏の無権代理行為についての対抗手段を見てきたが、プレカリアートユニオンから団体交渉を申し入れられ、また街宣車を差し向けられた会社や近隣住民、組合活動と無関係な同僚といった第三者も、同様に、ユニオンや清水氏に責任追及をすることができる。
会社としては、まずは、民法115条に基づき、ユニオンの正当な総会決議や全員出席総会、全組合員の同意の形成がされない間に、ユニオンとの和解契約を取り消すことが考えられるだろう。
そうすると、会社は、和解契約が取り消されたことに基づき、ユニオンに振り込んだ解決金の返還を請求することができる。これを組合員個人への解決金として振り込んでいれば、当然には返還請求はできないのだが、プレカリアートユニオンでは、拠出金を確実に徴収するためにも、ユニオンへの解決金として、ユニオンの口座(ゆうちょ銀行や中央労働金庫など)に振り込ませることが普通だ。
こうした「成功報酬」回収のためのスキームが、今回は裏目に出た形になるといえよう。
ただし、これについても、裁判で問題となった総会が不存在(無効)であることを知りながら和解した場合は対象外となるが、例えばプレカリアートユニオンに街宣車を差し向けられ、最終的には億単位の解決金を支払ったアリさんマークの引越社などは、時期的に、総会が不存在(無効)であることについて知り得ないことになる。
プレカリアートユニオンは、こうした引越社をはじめとする大口債権者からの取消し請求があれば、仮に「解決金」を組合員に分配したり、弁護団との祝勝パーティーやアメリカ視察などの方法で費消した後であっても、労働金庫や同じ全国ユニオン系列のユニオンからカネを借りるなど、なんとかして資金を調達し、大口債権者に金を返さなければならないといえるだろう。
これ以上、既に2回に渡り判決で結論が出ている不毛な代表権争いを続けて代表者が確定せず、速やかな返金をしない場合は、ゆうちょ銀行や中央労働金庫の預金を仮差押されることもあり得る。
プレカリアートユニオンとしては、仮差押により、このまま組合活動ができなくなる事態を避けるためにも、引越社ら大口債権者から「和解」について取消権の行使があれば、即座に、誠実に解決金を全額返金しなければならないことはいうまでもない。
会社、同僚、近隣住民からの損害賠償請求
同様に、会社は、少なくとも平成27年9月以降のプレカリアートユニオンの活動が法的に正当ではないことを踏まえて、和解契約の取消しとは別に、街宣活動などのユニオンの行為について損害賠償請求ができるだろう。
これは、労働組合法が、使用者は、「同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて」損害賠償請求ができないと定めていることに由来する。
法は、同盟罷業その他の行為であっても、正当ではないものがありうることを当然に予定しており、法的に労働組合の代表者ではない者が、代表者を名乗り、団体交渉、街宣活動などさまざまな活動を会社に仕掛けてくることは、当然、「正当な」行為とはいえないからだ。
例えば、コンビニの店員が、ある日突然、コンビニ運営会社のオーナーを名乗り、自らの「報酬」であるとしてレジの金を財布に移したり、在庫の商品を勝手にカバンに入れたりすることを、誰も「正当」とは評価しないだろう。無権代表者の無権代理行為が正当な行為でないということは、きわめて常識的な判断に属するものだ。
実際に、一部の無権利の労働組合員が、組合本部の承認を得ないで起こしたストライキ(いわゆる山猫スト)の違法性が問題になった事件(三井鉱山三池鉱業所整理解雇事件、福岡高等裁判所昭和48年12月7日判決)で、裁判所は、
と判断しており、清水氏の率いる集団が、「争議権を行使し得ない集団による企業の業務阻害行為として使用者に対する違法な争議行為となる」ことは明らかであるというべきだ。
いわゆる同情ストが違法とされた同じ三池労組に関する別の裁判例(東京地判昭和50年10月21日、杵島炭鉱争議事件)でも、裁判所は、
と判断している。
ストライキや街宣活動などの組合活動は、一般的には、会社に対する業務妨害、名誉毀損などの不法行為に該当するが、正当な労働組合活動であることを条件として、憲法と労働組合法により特別に免責されているに過ぎない。
プレカリアートユニオンの場合は、総会決議が不存在(無効)であること、組合規約違反であることが既に裁判所により認定されている以上、「争議権を行使し得ない集団による企業の業務阻害行為」として、会社に対して損害賠償責任をとる以外にないだろう。
ところで、労働組合法に基づく免責は、正当行為に基づく免責という性質上、会社近隣の住民や他の会社、組合員以外の会社の従業員(同僚)などの第三者に対しても及ぶと解されている。
ところが、そもそも正当な行為ではなかったとなると、第三者に対しても免責されないから、直接、街宣活動のターゲットにした会社以外の近隣住民や会社の同僚、つまり組合員以外の従業員からも、迷惑な街宣活動に関して損害賠償請求を受けることになるだろう。
この問題は、会社からの無権代理行為を理由とする「和解」の取消権行使のように、相手方からの権利行使があって初めて効力が発生するものや、無権代理人の清水直子氏や清水氏から(復)委任を受けた弁護士等の者だけが損害賠償責任を負うものではなく、プレカリアートユニオンの組合員ですらなく、例えば系列のユニオンの組合員や単なる賛同者や手伝いであっても、プレカリアートユニオンの違法な団体交渉や街宣活動に物理的に参加したメンバー個々人や、道路使用許可を取る、メガホンなどの道具を準備するなどしてそれを幇助したメンバー個々人が、基本的には直ちに不法行為責任を負うものであるから、重大な注意が必要だ。
会社としては、違法な団体交渉への対応や街宣活動による業務妨害、社会的評価の低下を余儀なくされた営業権や名誉権に基づく損害賠償、会社の同僚や近隣住民としては騒音により平穏な生活を営む権利が侵害されたことによる損害賠償を、プレカリアートユニオンと活動に参加したメンバー全員の連帯責任として追及していくことになるだろう。
仮に、首尾良く会社から和解金を取得し、会社と組合員個人の関係では和解が有効であったとしても、このままでは、下手をすると和解金を上回る損害賠償責任という負債を、迷惑をかけた会社や同僚、近隣住民に対して負うことになりかねない。
不法行為に基づく損害賠償債務は、発生と同時に遅滞に陥り、遅延損害金が日々発生していくことにも気をつけたい。
会社は、採用時の書類あるいは給与振込口座として組合員の住所や取引銀行、支店名を知っているのが普通だから、本件判決の存在を知れば、会社によっては、たちどころに仮差押を申し立て、続いて損害賠償請求訴訟を提起をしてくる場合もあるだろう。
この場合、少なくとも117通の「嘆願書」を提出した組合員は勿論、それ以外の組合員でも、地裁判決が問題となった5月26日臨時総会の招集通知を受け取っており、また、判例集にも登載されるなど社会的にも広く話題になっていた地裁判決を知らなかったとして、プレカリアートユニオンの活動が違法であることについて故意又は過失がなかったと反論することは難しいだろう。
反論が難しいのであれば、損害賠償請求に応じ、誠実にお金を支払うしかないことはいうまでもない。
違法かも知れないと思いつつ、プレカリアートユニオンの街宣活動に参加してしまった読者の方がいたら、迷惑をかけてしまった会社や同僚、近隣住民に謝罪した上で有り金を供託して、これ以上、高額な遅延損害金が膨れ上がるハメにならないように段取りをしたほうがいい。
労働問題は信頼できる弁護士へ!
ここまで、判決で違法とされたプレカリアートユニオンの活動に参加してしまった場合の民事責任について見てきたが、そもそも、既に引用したように、プレカリアートユニオン側の代理人弁護士の主張によっても、組合員は、自益権(自分だけの権利)に関心がある者がほとんどで、共益権(組合員みんなに共通する権利)の実現には関心がない者が多いのだという。
しかし、自分だけの権利を実現するのが目的であれば、現在は労働審判や法テラスなどの制度整備も進んでおり、そもそも労働組合に加入する必要がない。
ブラックユニオンに加入すると、単に弁護士の紹介を受けるだけでも、リスクを負うことになる事例の存在は既に紹介した。
そうであれば、労働問題は、最初からブラックユニオンに関与させず、自分と弁護士の一対一の関係で解決した方が望ましいのではないか。
裁判で2回も完全敗訴し、117名もの組合員が、自ら「このままでは組合活動ができなくなる」と自認しているプレカリアートユニオン・清水直子氏の言いなりになってしまっては、最悪の場合、会社や近隣住民、同僚の仲間に迷惑をかけた挙げ句に損害賠償責任も負うことになり、自宅や預金口座が差し押さえられ、最終的には「社会生活ができなくなる」ことになりかねない。
社会生活あっての会社員生活である。
プレカリアートユニオンで無権代理行為を続けてきた清水直子氏は、本人が法廷などで証言したところによれば、社会保険適用の正社員として働いたのは『月刊労働組合』の編集部に在籍したわずかの期間だけで、それ以外は、中華料理屋のアルバイトといったフリーター、ライターなどの自営業、そしてプレカリアートユニオンでの「活動」で糊口を凌いできたという。
ライターとしての実績は高く評価するが、お世辞にも「会社員経験が豊富」とはいえない。
労働組合は、会社員などの労働者が、まさしく、プレカリアートユニオンの代理人を務めた山口貴士弁護士がいう「共益権」、つまり、職場の仲間と共通する自分の権利を守るために加入するものだ。
そもそも会社員などの労働者としての経験が乏しい者が、しかも違法な方法で主宰するニセモノの「労働組合」、すなわちブラックユニオンに加担してしまうと、思わぬところで大きな責任を負うことになりかねず、その行きつくところは破産宣告だ。
労働問題は、信頼の置ける町弁の先生へ。
今抱えている労働問題に加えて、ブラックユニオンで活動するあまり別の「事件」を抱え込まないためにも、最初から、正当な権限をもつ国家資格者に相談しよう。
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