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連載「ユニオンリスク」Vol.10 「組合活動ができなくなる」無権代理状態とブラックユニオンの「山猫」化現象(刑事編)
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」という問題点を発信していく本連載。
第10弾となる本稿では、プレカリアートユニオンが2回にわたる完全敗訴判決により「組合活動ができなく」なったことされることを踏まえ、それでも「組合活動」を続けた場合の刑事責任について検討したい。
原則としては違法な「組合活動」
前回検討したように、プレカリアートユニオンなどの労働組合が会社前で街宣活動を行ったり、残業代が不払い、不当解雇などの事実を指摘して会社の社会的評価を低下させる宣伝活動をすることは、原則として違法なものだ。
これらの行為が、外形的には威力業務妨害罪や名誉毀損罪の構成要件に該当することについては論を俟たないと思われるが、労働組合の正当な活動であれば、その違法性は阻却され、許される。すなわち、刑法35条に基づく正当行為であるというわけだ。
(正当行為)
第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
しかし、代表者を選出する選挙が正当に実施されていないとすれば、団体交渉は無権代理行為であり、団体交渉以外の「組合活動」についても、無権利者の指令に基づく行為であり、それは、そもそもプレカリアートユニオンの業務ではない。
前回の続きとなるが、コンビニの店員が、突如、何らの権利なくコンビニ運営会社のオーナーを名乗り始めた場合に、自らレジの金や商品を持ち去るだけでなく、業者を呼んできてATMをこじ開け、中身の現金を取り出しはじめた場合を考えると分かりやすいだろう。
このとき、業者側が、「オーナー」を自称するコンビニ店員が、実際にはオーナーではないことを知っていたとすれば、ATMをこじ開け現金を取り出す行為が、コンビニ運営会社の指示であったとして正当行為になることは考えにくい。
本件でも、本年2月28日の一審判決は、5月26日臨時総会の招集通知としてプレカリアートユニオン内部で周知されており、今回、控訴審でも同様の判決が下された以上、無権利者であるとされた清水直子氏の指示に従って街宣活動などの「組合活動」を実施しても、プレカリアートユニオンの正当な組合活動との法的評価を受けることは難しいだろう。
そうすると、正当行為として違法性阻却されないことにより、原則に立ち戻って、威力業務妨害罪や名誉毀損罪に該当する行為は、違法となる。
「知らなかった」との言い訳が通用しなくなるワケ
もっとも、刑法は、ある意味で、「知らなかった」との言い訳が許される世界でもある。
(故意)
第38条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
刑法では、故意ではない行為については原則として処罰をしないものとしており、この故意には、違法性阻却事由がないことについての故意も含まれると解されている。
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つまり、実際には清水氏は無権利者であったとしても、実際にプレカリアートユニオンの印鑑を持っている清水氏の振る舞いや登記簿の内容などから、代表権があると確信していれば、違法性阻却事由がないことについて故意がなかったと評価できるため、刑法上は、故意を欠くとして処罰されない可能性が高いのだ。
もっとも、故意がなかったと主張しさえすれば、いかなる行為でも許されるわけではない。例えば、死体を押し入れに入れれば「ドラえもんが何とかしてくれると思った」と弁解したものの、合理的な供述ではないとして採用されず、最終的には殺人罪で死刑になった光市母子殺害事件などが好例だろう。
プレカリアートユニオンの活動が違法であり、免責されないことについて故意があったかどうかは、その人(街宣活動の参加者などの被疑者)が知りうる情報の内容や程度に基づいて、捜査機関や検察、裁判所が個別に判断していくことになる。
本件でいえば、最初に原告らが大会(総会)が無効だと唱え始めた平成30年頃には単なる一個人の主張にすぎなかったが、訴えが起こされた令和2年には具体的な訴訟事件になり、令和6年2月28日には一審判決が下された。
その判決が、5月26日の「臨時総会」までに周知されるに至り、11月13日には、控訴審判決も下された。
こうした具体的状況に対応して、通常の人であれば、「もしかすると違法なのではないか」と自覚できる可能性が高まっていくことになる。
今後、判決が確定し、そのことが周知されれば、誰であれ、じつは違法な活動だったと認識できるということになるだろう。
そして、それでも街宣活動などの「組合活動」を続けた者や、それを幇助した(実行を容易にした)者や教唆した(指示又は示唆した)者には、被害者の会社や近隣住民が通報や告訴をすれば、相応の厳しい処分も視野に入ってくるだろう。
【犯罪実行者募集情報に応募している人へ】
— 函館災害情報 (@hakodate119) November 14, 2024
警察庁生活安全企画課発表
いわゆる「闇バイト」は、アルバイトではなく、紛れもない犯罪行為です。
犯罪者グループは、約束の報酬を元から支払うつもりはなく、応募者は「使い捨て」要員です。
最初は簡単な案件を紹介されて報酬が支払われたとしても、… pic.twitter.com/NytR60Pmqo
まさに、警察庁の「闇バイト警告文」にいう、「犯罪かもしれないと思いながら……犯罪行為ではないと『あなた』は『あなた』自身に言い訳をしていませんか。」との指摘にあたる状態だ。
実際に、清水氏が以前所属しており、プレカリアートユニオンと同じフロアに入居して活動していた「フリーター全般労働組合」には、赤坂署による家宅捜索が入り、10名以上の警官が押しかけたことがあるが、今後はプレカリアートユニオンも「他人ごと」ではないということになる。
「組合私物化」の有責性・非難可能性
プレカリアートユニオンの問題性は、正当な選挙をせず、一部の者が組合を私物化してきたという一点に尽きるのだが、この問題が、刑法上、有責性・非難可能性を帯びるものであるかも問題になるだろう。
これも検察等の判断次第だが、私見では、問題になり得ると思う。
なぜならば、労働組合が民事免責、刑事免責といった特権を付与されているのは、憲法28条が労働者に労働基本権を付与しているからであって(労働組合に付与しているわけではない)、それらは、労働組合法5条2項に定めるいわゆる組合民主主義のルール、つまり労働者個人に与えられた労働基本権を尊重することと対応する関係にあり、免責特権は、こうしたルールを守ることの対価という側面を有しているからだ。
第2章 労働組合
(労働組合として設立されたものの取扱)
第5条 労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第2条及び第2項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。
但し、第7条第1号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。
仮に、労働組合法5条2項違反であることが裁判所で認定されても、それまでと変わらずに免責特権を享受して「組合活動」ができるとなれば、カネや持株の多寡など資本がモノを言う株式会社等の経営と異なり、組合員誰でも一人一票であることをはじめとする組合民主主義の諸原則が適用される労働組合制度は画餅(がべい)に帰す。
そうなれば、会社に因縁を付けてカネを得ることを生業としてきたヤクザや総会屋、社会運動標榜ゴロ等がこぞって「労働組合」を結成し、「組合活動」を始めることだろう。
このような事態が、社会防衛上望ましくないことはいうまでもあるまい。そうすると、労働組合法5条2項に違反し、法的に正当な代表者が選任されていない労働組合において、一部の者が実力で少数組合員を排除して「執行委員長」等を名乗り、街宣車を乗り回して活動するような場合においては、正当な労働組合活動ではなく免責されないものとして、刑事処分により処断するほかにないのではなかろうか。
団体交渉で解決できない「争議行為」は免責されない
さらに基本書を紐解いていくと、憲法28条が、「団体交渉による労使自治を機能させるために団体行動権として争議権を保障しているという理解」にたどり着く。
つまり、労働基本権を頼りに、労働者が労働組合を結成することで会社と対等の立場に立ち、団体交渉や争議行為等の手段も用いることで、はじめて実質的に対等な立場で労働条件を決定することができるという、いわゆる私的自治の原則を補充する規定として憲法を理解する考え方だ。
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前回の記事でも検討したように、いわゆる山猫ストや同情スト、そして上記の『荒木労働法』で指摘されている政治ストなど、使用者が団体交渉によって問題解決することが不可能な事柄について、民事免責などの労働組合法上の保護は与えられない。
プレカリアートユニオンにおいて、総会(大会)決議不存在という判決が下された以上、今後、(実際には相当厳しいと思われるが、)決議を追認するという全員出席総会による決議や全組合員の同意が得られなければ、プレカリアートユニオンとの間での団体交渉での合意内容は、いつまでも確定的に有効にはならない。
とすれば、会社側としては、判決にもかかわらず執行委員長を名乗り続ける清水直子氏らの集団が申し入れる「団体交渉」に応じ、清水氏らが要求する「解決金」を支払っても、今後、プレカリアートユニオンがその団体交渉や労働協約を追認するか否か、追認するとして、それがいつになるかも分からず、この記事を読んでいる以上は、無権代理行為について悪意であり、表見代理を主張することも、無権代理に基づき取消権の行使等をすることもできないことになる。
そうすると、プレカリアートユニオンと団体交渉をしても、法的には、山猫ストや同情スト、政治ストと同様に、最終的な法的解決は不可能であり、そのような法的に不可能な「要求」をめぐる街宣活動などの行為も、正当な行為としての免責は認められないことになるだろう。
もっとも、これに対して、清水氏側が、組合員本人が団体交渉などに出席し、「解決」に同意していれば、たとえプレカリアートユニオンの代表権が法的に不存在(無効)でも最終解決可能だと反論することも想定される。
しかし、仮にそうであれば、そのような「団体交渉」は、実質的には組合員個人が抱える個別的労使紛争の代理や立ち会い行為であり、組合としての代表権がなければ、いわゆる非弁活動であるとの法的評価を免れず、今度は弁護士法違反により処罰されることになりかねない。
「関生事件」では組合員ら89名の逮捕も
ところで、関西地方では有名と聞くが、「連帯ユニオン関西地区生コン支部」というという労働組合が存在する。この「関西生コン」、通称「関生」(かんなま)は、生コンクリート業界の産業別労働組合であるという点で、組合員同士の「共益権」に乏しいプレカリアートユニオンとは方向性を異にするが、プレカリアートユニオンと「関生」は密接な関係があり、金銭の授受もあったとされている。
関生労組からの刑事告訴(前)https://t.co/iWuAINZyEv …
— NerClea (@NerClea) February 19, 2019
一番右にいるのが関西生コンで今回逮捕された西山直洋幹部
左の連中が危険な労組プレカリアートユニオンのメンバー
※このような危険な労組に攻撃を受けている経営者の方はぜひ私に相談して下さい。#連帯ユニオン#関西生コン pic.twitter.com/NzYcpWPAQJ
しかし、平成31年から令和元年にかけて、この「関生」の関係者89名が逮捕されるという事件があった。
和歌山県では、街宣車を使って誹謗中傷の演説を繰り返したとして威力業務妨害で複数人の逮捕者が出た。滋賀県警、京都府警、大阪府警により、恐喝罪の罪名で逮捕される者もいた。
その全ての事件の詳細が報道されているわけではないが、例えば令和6年2月6日の判決では、2名の被告人が、恐喝罪や威力業務妨害罪にあたるとして有罪判決を下された。
裁判所は、「アウト対策」、つまり、「関生」が実質的に支配する協同組合に会社を加入させ、協同組合を介して「関生」にカネを支払わせる目的であることを認識しながら、労働組合として労働者の安全や衛生を守る「組合活動」「コンプライアンス活動」と称して、協同組合に加入しない生コン業者が関与する工事現場に押しかけ、些細な不備を執拗に指摘して「対応」を迫ったことについて、「(両被告は)些細な不備の指摘を執拗に繰り返し、恐喝や威力業務妨害の実行行為に当たる」と判断した。
現在も、プレカリアートユニオンのブログを見ると、中には些細なものも含む団体交渉先の会社の「違法行為」について、執拗に指摘している様子が見て取れる。会社の「違法行為」自体が事実であっても、客観的にみて、それらを「指摘」する目的が正当な労働組合活動にあると認められなければ、「関生」事件のように、逮捕・起訴の対象となりうる。
また、判決では、「アウト対策の目的で同社を対象として(不備を指摘する)活動が行われていたことを認識していたとはいえない」として、実質的にはカネ目当ての行為で、免責されないとされる「アウト対策」を積極的に実施していた「湖東ブロック」支部以外の組合員である被告人以外については、「故意や共謀があったとは認められない」として、無罪判決が言い渡された。
「関生」の事件については、杉田水脈衆院議員が国会でも質問を行い、
○杉田分科員
法務省にもお尋ねをいたします。
さきに述べたような、一般的に脅迫や恐喝、威力業務妨害罪に該当するような行為は、仮に組合活動の範囲内であったとしても、同様に刑事罰の対象になり得るという認識で間違いありませんね。
○保坂政府参考人 刑事罰の対象になるかというお尋ねでございますが、犯罪の成否につきましては、捜査機関により収集された証拠に基づいて個別に判断されるべき事柄ですので、一概に申し上げるということは困難でございますが、一般論として申し上げますと、刑法35条におきましては、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」と規定されております。
今委員も読み上げられましたけれども、労働組合法1条2項におきましては、刑法35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって、前項、これは労働組合法1条1項でございますが、に掲げる行為を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする、ただし、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならないと規定されております。
このただし書きの趣旨につきましては、労働組合の正当な行為と解釈されないことの明らかな暴力の行使について、特に念のために規定したものにすぎず、暴力の行使に該当しない全てが正当な行為と見られるものというわけではなく、暴力の行使に該当しない行為であっても不当な行為と判断されるものがあるのは当然であるというふうに注釈書等に書かれていると承知をいたしております。
との政府答弁がなされている。
こうした事例から、「故意」が生死を分ける決定的な要素になり、重要なものであることが伺える。今後、2度にわたる判決を踏まえて、プレカリアートユニオンの「組合活動」が違法なものであるという認識が、通常の人であれば認識できる程度に蓋然性の高いものとみなされることは避けられないだろう。
もちろん、具体的には、個別の事件について捜査機関等が判断することになるが、「暴力の行使に該当しない行為であっても不当な行為と判断されるものがあるのは当然」という政府答弁については、労働者としては、くれぐれも念頭に置いておきたいものである。
「ストライキ」なら処罰されないかもしれないが
ここまで、「労働組合」と称する活動が家宅捜索や逮捕の対象となった事例ばかり挙げてきたが、もともと、裁判所は、全逓東京中郵事件(最大判昭和41年10月26日百選308頁)などで、
「労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように、十分な配慮がなされなければならない。
とくに、勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは、必要やむを得ない場合に限られるべきであり、同盟罷業、怠業のような単純な不作為を刑罰の対象とするについては特別に慎重でなければならない。
けだし、現行法上、契約上の債務の単なる不履行は、債務不履行の問題として、これに契約の解除、損害賠償責任等の民事的法律効果が伴うにとどまり、刑事上の問題としてこれに刑罰が科せられないのが原則である。
このことは、人権尊重の近代的思想からも、刑事制裁は反社会性の強いもののみを対象とすべきであるとの刑事政策の理想からも、当然のことにほかならない。
それは債務が雇傭契約ないし労働契約上のものである場合でも異なるところがなく、労務者がたんに労務を供給せず(罷業もしくは不完全にしか供給しない(怠業)ことがあつても、それだけでは、一般的にいつて、刑事制裁をもつてこれに臨むべき筋合ではない。」
と判断するなど、それが単に会社に出勤しないというようなストライキ、債務不履行に留まる場合は、原則として刑事処分の対象にはならないとしてきた。サラ金からお金を借りて、その後返せなくなっても、詐欺罪で逮捕されるわけではないのと全く同様だ。この判例は、現在も判例変更はされていない。
しかし、前記フリーター全般労働組合や「関生」、そしてプレカリアートユニオンでは、単に会社に出勤しないとか、会社の指示に従わないとかの「単純な不作為」だけではなく、団体交渉で会社が屈服しなければ、街宣車を持ち出すなどして、積極的な”攻撃行動”に出るということをある種の「ウリ」にしてきた側面がある。
ましてや、その組合員の中には、「自家製の街宣車」を所有しているという者までいたという始末だ(もっとも、最終的には会社でトラブルを起こした挙げ句に解雇され、解雇有効の判決が下されている。)。
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同じ労働組合、同じ執行委員長の指示であっても、それが「単純な不作為」であるか否かによって、最高裁判例においても一線が引かれており、労働者・組合員の立場から見れば、逮捕等の対象になる「危険性」が大きく異なることは、知っておいて損はないだろう。
清水直子氏は、共著『縁辺労働に分け入る 深読みNow』でも、「私たちの仲間は、仲間どうしで交渉先へのアクション(直接行動)のスケジュールを組み、街宣車も活用しながら、週1、2回のペースで、独自のアクションを行って、それが交渉中の案件の解決を早めてもいる。」などと述べているが、今後は、「直接行動」をすればするほど、逮捕等のタイミングを早めることにもなりかねない。
いち労働者には厳しい「逮捕」
逮捕されると、実に大変である。
基本的には、捜査機関は、「被害者」救済の名のもと、何らかの有罪判決を取ることしか考えていない。特に地方部では、警察は、「正義のヒーロー」を自認している節があり、公務員試験の中ではもっとも簡単に合格できるものであるにもかかわらず、被疑者を何らかの罪に追い込むことを組織的に是とし、無罪判決や再審決定につながりかねない証拠は破棄するといった、不適切な捜査も行われている。
鹿児島県警において、不送致とした証拠の保管を「組織的に有利」ではないとしてその破棄、堙滅を促した部内機関誌の記事は、今やあまりにも有名だ。
このため、捜査機関の言い分通りに「罪」を認めないと、例えば違法な街宣活動に5回参加すると、5回の行為が別々の行為であるとして「再逮捕」され、1回の逮捕ごとに最大23日間の勾留を5回、この想定事例では合計115日にまで引き延ばされ、しかも複数人で街宣活動をすれば「共犯事件」でもあるとして、家族であっても面会ができなくなる「接見禁止」の決定も下されかねない。
この間、家族がいたり、十分な弁護士報酬(55万円〜)の支払能力があれば、まだ救いがある。弁護人は接見禁止決定に関係なく接見ができるから、弁護人を介してアクリル板越しに家族や知り合いからの手紙も見せてもらえるし、家族が家賃やケータイ代を払ってくれるなどサポートも受けられるだろう。
しかし、独身者や無資力者にとっては、刑事事件の対応は厳しい。仮に不起訴や執行猶予で釈放されても、出てきた頃には家賃もケータイ代も滞納、大家からは明け渡し訴訟を起こされ、ケータイは強制解約済みということも珍しくない。国選弁護人も、制度上は存在するが、報酬が安すぎることから、やる気がない弁護人がほとんどであり、23日間のうち3回も接見に来れば御の字で、それ以外の時間は取り調べのほか、ただ留置場で寝て過ごすしかない。
もっとも、「嫌疑なし」や無罪判決で釈放となれば、法務省から補償金も受け取れるが、それも最大で日額1万2千円程度と、今どきの東京なら警備会社の日当にも満たない内容だ。
それまでの社会生活が一変するのに対して、あまりにも不十分な「リターン」といわざるを得ないだろう。
他方で、労働問題の解決金は、例えば解雇をめぐる事件で本格的な民事裁判に発展しても、給料の半年分程度が相場とされる。
月額25万円の給料なら、150万円が相場だ。このうち、弁護士費用として着手金35万円、成功報酬として2割程度の30万円を徴収されるとすると、実質的な実入りは85万円程度だろう。
しかし、「関生」の事件のように、組合活動の結果、逮捕・起訴されてしまえば、平成29年頃の活動について翌30年から翌々年の令和元年にかけて逮捕され、令和6年に入ってから判決が出るというような審理の遅さも含め、非常に長期間、不安な日々を過ごし続けることになる。
そのうえ、弁護士の日当や、無罪判決を勝ち取ったら勝ち取ったで、成功報酬を払わなければならなくなり(これも、55万円〜が相場だ)、保釈金も100万円〜が相場である現状、経済的・社会的に追い詰められることになる可能性が高い。
労働問題は信頼できる弁護士へ!
それでは、会社を不当解雇されるなど不当な目に遭わされたとき、私たち労働者は、一体どうすればいいのか。
簡単な話である。
弁護士に依頼し、訴訟を起こせば良いのだ。
訴訟を起こすことが、それ自体が刑法犯にあたるとして、逮捕・起訴の対象になることはあり得ない。
それに対して、「組合活動」は、特にプレカリアートユニオンが置かれている状況においては、「関生」事件と同様に逮捕・起訴の対象になる可能性が否めないうえ、寒いし暑いし、交通費や食費など出費もかさむ。
そして、刑事事件として捜査対象になっているかどうかは、逮捕されてみるまで分からないことがほとんどだから、会社から解決金を受け取っても、じつは恐喝罪で被害届を出されていて後日突然逮捕されるかもしれないといった不安は消えないし、仮に刑事事件に発展すれば、民事事件で得たお金を、刑事事件の報酬や保釈金として弁護人や裁判所に支払うことになり、本末転倒である。
「裁判には時間がかかる」という主張もあるだろう。
しかし、労働審判制度の確立以降、利用が低迷しているともいわれるが、給料が払われないと直ちに生活が切迫するという事情があり、なおかつ、「不当解雇」との主張に相応の根拠があれば、仮処分という迅速な裁判手続も利用可能だ。
実際に、プレカリアートユニオンのアルバイトで、かつ「除名処分」を受けた原告の男性も、「除名処分」が予見できるようになった段階で東京地裁に仮処分を申し立てており、実際に、裁判所を介してユニオン側を追い詰め、申し立て内容どおりの裁判上の和解を実現している。
これには、費用は印紙代の2000円と若干の切手代しかかかっておらず、逮捕、起訴のリスクと闘いながら「組合活動」を繰り返すことに比べて、リーズナブルかつ安全であることは明らかだ。
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「訴訟は時間がかかる」というイメージに引きずられ、仮処分や労働審判制度の存在を知らず、違法なブラックユニオンに加入して刑事事件に発展してはしまっては、少なくとも「関生」事件を参考にする限り、実際の「組合活動」から5年以上にわたって不安な日々を送ることになり、元も子もない。
ブラックユニオンでは、毎年のように会社を解雇されてユニオンに相談に来る「問題児」の組合員や、裁判を起こせば確実に敗訴するような問題を実際に起こしているにもかかわらず、執行委員長が「まあ、街宣活動をすれば、(会社も)折れるでしょう」などと述べ、無理矢理に「団体交渉」「組合活動」に持ち込む事例が散見された。
会社には協同組合に加入する法的義務がないにもかかわらず、まるで「別件逮捕」のような手口で工事の妨害を繰り返し、いち組合員に過ぎないのに最終的に有罪判決を受けた「関生」組合員のように、ブラックユニオンに幻想を抱き、「負けスジ」の事件を街宣活動といった「威力」でカネにしようとすれば、大きな問題を起こすことにつながりかねない。
労働問題は、信頼の置ける町弁の先生へ。
仮にどうしても労働組合に入りたいという場合でも、2度にわたり敗訴判決を受け、今後、法的に正当に運営ができるか不透明な「労働組合」に加入する必要はないだろう。
例えば、各地の「連合」でも、中小零細企業で働く労働者のために、個人加盟の「ユニオン」を結成していると聞く。
弁護士も労働組合も、くれぐれも慎重に選びたいところだ。刑事事件を起こして「自滅」するおそれがないように、手堅く賢く、ひとつひとつ問題を解決していこう。