訴訟手続等を濫用する者へのインターネットでの牽制ができなくなるということ
先日、上記のニュースが配信された。なんでも、医師の男が、元婚約者女性の行為を取り上げて「婚約の不当破棄の慰謝料1000万円を請求された」とインターネット上で明らかにしたところ、逮捕されたというのだ。
本件を見て、私は驚いた。なぜならば、男性が「婚約の不当破棄の慰謝料」1000万円を請求「された」ということならば、「婚約を不当破棄」したのは男性であるということになる。
つまり、男性が「女性に婚約を不当破棄された」と公表したので、名誉毀損に該当した(=女性が婚約を不当破棄するような人物であるという印象を与えた)、ということではない。
男性がしたことは、単に、自らが婚約の不当破棄をしたことを自認した上で、その慰謝料として、女性から1000万円の請求を受けたと明らかにしただけなのだ。
名誉毀損罪は、事実を公然と摘示することで人の社会的評価を低下させる罪とされている。事実を公然と摘示しても、人の社会的評価を低下させなければ、処罰されないはずである。
この男性、単に女性から1000万円の請求を受けたと明らかにしただけで、婚約の不当破棄の責任を女性になすり付けるような表現はしていない。
にもかかわらず、なぜ、名誉毀損なのか。
裁判所等で債務名義として認められるかは別として、請求をするのも・されるのも、基本的には当人の自由であるはずである。その自由を、誰かが行使したことを明らかにすることが、なぜ、その誰かの名誉を毀損したことになるのだろう。誠に謎が尽きない事件である。
本件を通じて懸念するのは、誰かが誰かに何らかの請求をしたと明らかにするだけで名誉毀損になるということで、(「請求」自体が自由であるが故に)請求を受けた側が不当な請求から身を守り、請求者側を牽制する目的で、そのような請求が存在するということを明らかにすることができなくなることである。
例えば、DHCから所謂「スラップ訴訟」を起こされているとする弁護士の澤藤統一郎氏は、自らのブログで、DHCから提起された訴訟の数々についてその請求額や期日経過、代理人弁護士、裁判官の氏名等を公表している。
結果的にはそれらの訴訟では澤藤氏が勝訴しているが、単に裁判所の手続を追行し、訴訟に勝利するだけではなく、それをインターネットでも公表する理由としては、DHCがこれ以上の「スラップ訴訟」を起こさないよう、公衆の注目を集め、DHCを牽制する目的があると考えられる。
仮に、何らかの請求を受けたことを公表するだけで名誉毀損になるとすれば、「DHCから(またしても)〇〇億円の請求を受けた」と公表した時点で澤藤弁護士に名誉毀損罪が成立することになり、訴訟費用ならいくらでも捻出可能であると思われる大企業のDHCを利し、DHCを牽制する手段をひとつ失い、対応をしなければ欠席判決になることからして、いかに不当な内容であっても訴訟である以上は対応しなければならない澤藤氏に不利な規範となる。
実際に、私も、正当な手続に名を借りて1000万円近い金額を請求する嫌がらせの「スラップ訴訟」を受けているが、危うく、このことを(原告が誰であるかを明らかにして)公表していれば、それだけで「名誉毀損」に問われるところであった。
実際に、その「スラップ訴訟」の原告も、実家暮らし・日本を代表する大企業の障害者雇用(正社員)と恵まれた立場で、妻と借家暮らしと弱い立場の私をターゲットにして、遠隔地の裁判所で意味不明な内容(精神障害の症状でもあると思われる)の訴訟を多数起こすなど、訴訟を嫌がらせの手段としていることが明らかである。
本件のような刑事事件が立件されることで、民事訴訟等の制度を濫用する者に対する牽制手段がひとつ失われ、「訴訟強者」が濫訴をもって猖獗を極める社会になることを憂慮する。