見出し画像

司法書士による契約書作成に係る懲戒処分事例(平成23年2月28日福岡法務局長、月報司法書士471号平成23年5月10日81頁)

懲戒処分事例の公表

日本司法書士会連合会

日司連懲戒処分及び注意勧告の公表並びに開示に関する規則に基づき、懲戒処分事例について次のとおり公表する。

【懲戒1】

懲戒処分書
事務所 福岡市博多区博多駅南1丁目3番6号
司法書士 ○○○○

上記の者に対し、次のとおり処分する。

主 文

 司法書士法第47条2号の規定により、平成23年3月1日から4か月間の業務停止に処する。

第1 処分の事実
 司法書士○○○○(以下「被処分者」という。)は、平成17年11月1日に司法書士の資格を取得、平成19年3月5日福岡第○号をもって福岡県司法書士会の登録を受け、平成19年8月18日から上記肩書地において司法書士の業務に従事している者であるが、被処分者が行った行為について、以下の事実が認められる。
 なお、被処分者は、平成18年9月1日、簡裁訴訟代理等関係業務を行う法務大臣の認定(認定番号第○号)を得ているが、行政書士の資格は有していない。
  被処分者は、平成19年9月、Aから受任した債務整理事件において、貸金業者が230万円を一括返済する裁判外和解契約案を提示したところ、当該契約案は、紛争の目的の価額が140万円を超えており、司法書士が業務として行い得る司法書士法(以下「法」という。)第3条第1項第7号の規定に基づく代理権の範囲外(以下「代理権の範囲外」という。)であることを認識していたにもかかわらず、平成20年1月15日、被処分者自身が代理人として、貸金業者との間で和解契約を締結した。
  被処分者は現在の肩書地で業務を開始して以来、受任した債務整理事件において、代理権の範囲外であることを認識しながら、使者という名目で受任事件に関与し続け、和解契約書を作成し、受任当初に依頼者と契約した債務整理手続代理業務として、同代理業務の基準で報酬を依頼者に請求し、受領していた。
 なお、平成22年8月31日及び同年9月13日、当局が被処分者の事務所において執務状況の調査を行い、平成19年9月1日から平成20年12月26日までの間の債務整理事件記録892件を確認したところ、過払い金返還に関する裁判外和解において、和解金額が140万円を超え、代理権の範囲外であるにもかかわらず、被処分者が代理人として締結した和解が9件あり、和解契約書の作成についても60件認められた。
  被処分者は、平成20年7月11日にB、C(以下「B夫妻」という。)が、被処分者事務所を訪れた際、他の案件を処理していたことから、補助者を介して依頼内容を聴取し、受任の意思を伝えるのみで、直接B夫妻と面談することなく、任意整理の依頼(以下「本件」という。)を受任した。
 本件の受任当初から債権調査に至るまでの間、被処分者は、B夫妻の資産状況について、家計に関する資料の提示を求めることなく、B夫妻の申出のみに基づいて毎月の返済額を判断した結果、B夫妻の支払能力を超えた履行困難な和解契約を債権者との間で締結した。 返済が困難となったB夫妻は、他の司法書士に自己破産の申立てを依頼し、被処分者は、債権者との間で締結していたすべての和解契約を取り消した上で、本件を辞任した。
第2 処分の理由
 以上の事実は、福岡県司法書士会及び当局の調査並びに被処分者の供述から明らかである。
 1 被処分者は、司法書士業務として、Aに係る裁判外の和解を始めとする代理権の範囲外に関する代理行為を報酬を得て反復継続的に行った。被処分者のこのような行為は、弁護士法第72条(非弁行為)に違反するものである。また、被処分者は、140万円を超える事件の和解契約書の作成についても、反復継続的に行うとともに、代理行為と同じ基準による報酬を請求し、これを受領している。被処分者のこのような行為は、実質的に弁護士法第72条(非弁行為)に違反するものであり、業として権利義務に関する書類を作成したという観点からは、行政書士法第19条(業務の制限)にも違反するものである。
 2 次に、司法書士は、依頼者から十分に事情を聴取し、依頼の趣旨を的確に把握し、依頼者との確認の上で事件を受任することが求められている。また、簡裁訴訟代理等関係業務を受任した場合には、代理人としての責務に基づき、事件の管理に十分な注意を払い業務を行わなければならないところ、被処分者は、B夫妻の債務整理業務の受任に当たり、補助者に指示を与えたのみで、自らは直接依頼者と面談せず、依頼者の事情を十分に把握しなかった。その結果、依頼者の生活再建を図れないまま辞任せざるを得なくなり、B夫妻が他の司法書士に依頼して自己破産手続に至ったことは、司法書士としての職責を全うしているものとはいえず、司法書士の品位を害するものである。
 被処分者のこのような行為は、法第2条(職責)、同法第3条(業務)、同法第23条(会則遵守義務)、福岡県行政書士会会則第78条(資質の向上)、同第79条(品位保持等)、同第88条(書類の作成)、同第98条(会則等の遵守義務)、弁護士法第72条(非弁行為)、行政書士法第19条(業務の制限)の各規定に違反するものであって、常に品位を保持し、公正かつ誠実にその業務を行い、国民の権利の保護に寄与すべき責務を有する司法書士としての自覚を欠き、簡裁訴訟代理制度及び司法書士に対する国民の信頼を失墜させるものであって、その責任は重く、厳しい処分が相当である。
 よって、これら一切の事情を考慮し、法第47条第2号の規定により、主文のとおり処分する。
 なお、この処分に対して不服のあるときは、この処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に、法務大臣に対して審査請求をすることができる。おって、この処分につき、取消しの訴えを提起しようとする場合には、この処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に、国を被告として(訴訟において国を代表する者は法務大臣となる。)提起しなければならない(なお、処分があったことを知った日の翌日から6カ月以内であっても、処分の日から1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができない。)。
 ただし、審査請求をした場合には、処分の取消しの訴えは、その審査請求に対する裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内、又は当該裁決の日の翌日から起算して1年以内に提起しなければならない。

平成23年2月28日 福岡法務局長

PDF

(引用元・日本司法書士連合会『月報司法書士』第471号)

なお、引用したファイルについては、ファイルや画像の内部の文字については検索エンジンにヒットしないこと、既に『月報司法書士』のほか、官報をインターネット上で検索できるウェブサイトにおいては現在も公表されている懲戒処分例であること、被処分者の氏名をマスキングすると、本資料を懲戒請求や裁判等の資料として提出した際に、「根拠不明であり、そのような懲戒事例が実在するのか分からない」などと主張する者が現れることが懸念され、懲戒処分例・判例等で既に示された行政書士法や司法書士法の適正な解釈運用の定着という公益の実現を妨げるおそれがあることから、あえて被懲戒処分者の氏名をマスキングすることはしていない。


いいなと思ったら応援しよう!