連載「ユニオンリスク」Vol.12 驚愕の家賃「不払い」戦術…ブラックユニオンに「居場所」を貸したオーナーの後悔
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」という問題点を発信していく本連載。
第12弾となる本稿では、労働者・組合員とはまた別の視点から、ブラックユニオンに関わってしまった場合のリスクを考えるものとして、ブラックユニオンが入居するビルのオーナーが抱えてしまったトラブルを紐解いていきたい。
ブラックユニオンとユニオン運動センター
「一般社団法人ユニオン運動センター」という団体が存在する。
代表理事は渡辺秀雄氏(東京ユニオン執行委員長)で、同ユニオン事務局長の関口達矢氏、ブラックユニオンとして知られるプレカリアートユニオンを運営する妻・清水直子こと関口直子氏も理事として名を連ねる。
活動目的は、「日本及び世界の労働運動の社会的発展を期するものであり、勤労者の福祉の向上を目的とする」などというものの、実態は各種のユニオンを収容する「ハコ」となっている団体のようだ。
賃料増額の申し入れ
そんなユニオン運動センターに、活動拠点となるビルの一室を貸していた男性がいる。渋谷区内でビル一棟を所有し、不動産管理会社の手助けを得つつも、ときには自ら管理にも携わってきたオーナーのM氏だ。
M氏は、平成22年9月、東京ユニオンを借主として、所有するビルのフロアを貸し出した。その後、話し合いにより、受け皿団体のユニオン運動センターを借主に切り替えた。
ところが、リーマンショック不況の二番底であった契約当時から景気は回復。8年が経過し、周辺のビルと比べて、管理費含め坪1万円(370.67㎡、112.13坪=月額112万1300円)という賃料の安さが目立つようになった。時の経過とともに、ビルも老朽化し、防水工事、ポンプの交換工事など費用もかさんだ。
また、M氏によれば、契約書では「集会等の団体行為の禁止」が盛り込まれていたものの、ユニオン運動センターでは、たびたび中規模〜大規模の集会が開かれていたという。さらに、「宣伝・広告のビラの掲示の禁止」が規定されているにもかかわらず、ビラの貼り付けなどもおこなわれていたそうだ。
これらのことは、ユニオン活動の性格上、避けられない側面もあるのかもしれないが、契約条件違反になるのであれば、厳に慎まなければならないだろう。
このような事情を踏まえ、M氏は、平成29年12月、家賃を坪2000円増額することをユニオン運動センターに申し入れたが、同センターは、翌30年5月に弁護士を立てると(鬼束忠則、五十嵐潤弁護士)、家賃の増額を拒否。
8月、M氏は、やむを得ず東京簡易裁判所に民事調停の申し立てをおこなった。しかし、これも11月不調に終わり、訴訟に発展した。
事態は裁判問題へ…
裁判では、田中峯子弁護士がM氏の代理人に就任し、近隣ビルとの賃料比較などの従来の主張のほか、ビルのメンテナンスに要している具体的な費用、被告となったユニオン運動センター側の集会開催などの契約違反を主張した。
田中弁護士は、一連の主張を、
「街宣車などが来て、窓ガラス等を壊されたこともあった。被告は5万円を持って来たが、原告は10数万円を修理費に使った。そのようにして原告は被告を擁護して来た。他の貸主であれば被告は明渡しを要求されたであろう。」
と締めくくった。
確かに、普通のテナントであれば、敵対する団体から街宣車がやって来ることも、”抗争”で窓ガラスを壊されることもないだろう。M氏のショックは察するに余りある。
これに対し、翌31年1月、被告センター側も、以前登場した鬼束忠則、五十嵐潤弁護士に対応を一任。
鬼束弁護士らは、被告センターで数百名規模の集会が行われたことはないと否認した上で、「労働組合の組合員が使用するために賃借したものであって、ある程度多数の組合員の出入りがもともと想定されており、原告もこれを了承のうえ賃貸している。」などと反論。
3月に入ると、原告M氏側の田中弁護士が再び書面を提出。
と指摘した。
他方で、4月に入ると被告センター側の鬼束弁護士らが再び反論を提出し、
と述べた。
被告センター曰わく、「メーデーに合わせた勉強会や交流会のたぐいであり、いわゆる集会ではない」とのことだが、通常、多数名が集まって一定の活動をすることを、「集会」と呼ぶのではないだろうか。筆者の感想としては、「ご飯論法」的な論理だと感じたが、いかがであろうか。
また、テナントが「デモ行進」の集合場所になるというのも、それだけで相当に現実離れしているが、これが事実だというのだから、ユニオンというのはものすごい団体である。
結局、翌5月の書類で、原告M氏側の田中弁護士が
と主張を訂正するに至り、話は平行線に。
結局、「数百人規模の集会は開いたが、原発反対の集会であってメーデーの集会ではないので、400人規模のメーデーの集会を開いたという原告の主張は認めない」という話なのだろうか。
確かにそうなのかもしれないが、やはり、どうしても「ご飯論法」的な議論だと筆者は思う。
突然の「家賃不払い」宣言
こうした中、10月28日、被告センター側から動きがあった。
被告センターが、原告のオーナーM氏に対し、「通知書」と題する書状を送りつけたのだ。
驚くべきは、その内容である。
そのままご紹介しよう。
なんと、増額後の家賃を支払わないどころか、増額前のもともと合意した家賃についても、「質問に対する回答」があるまでは「支払いを留保する」として、支払いを拒否する暴挙に出たのである。
個人オーナーであるM氏としては、たまったものではない。
家賃増額について争いがあるので、増額分は判決が確定するまで支払わないといった態度であればまだしも、増額前の家賃さえ支払わないという態度に法的根拠があるとは思えない。
その理由として、被告センターは、「管理費」の詳細が疑問であるというが、疑問があるのが坪3000円の「管理費」だけで、家賃本体に疑問はないのであれば、100歩譲っても、家賃である坪7000円の部分については支払うべきではないか。
一般的に、家賃を滞納すれば、裁判で退去命令を言い渡されるリスクがあるが、既に裁判になっており、自分から退去するつもりなのであれば、ある意味では、もはや滞納しても「リスク」はない。「後は野となれ山となれ」といったところだろうか。
「集会」についての「ご飯論法」よろしく、「それはそうかもしれないが……」としか言いようがなく、言葉も出ない。
社会常識とはひと味違う、ユニオン界の「常識」というものがあるのだろうか。
こうした被告センターの行動について、原告であるオーナーM氏は、12月に提出した書面で、
「被告の主張は法治国家における契約に値しない無謀な主張である。被告のことを思い、今迄8年間、賃料の値上げもせず、被告が攻撃される場合も盾となり守って来た原告の厚意を踏みにじるものである。」
と批判。
従来2000円としてきた増額分が調停申立後に3000円と変わったことについては、被告センターが増額を拒否し、弁護士を付けてきたので、原告M氏も弁護士に依頼せざるを得なくなり、その費用が必要になったほか、改めて調査したところ、近隣の不動産仲介業者に坪1万5000円でも不当ではないと言われ、別の階に最近入居したテナントも坪1万5000円を支払っているから、被告センターについては、念のため若干割り引いた坪1万3000円を請求したとの経緯を説明。
そして、被告が意図的に「不払い」としている分の家賃も裁判での請求に追加した。
まるでN党!しかし厳しい判決も…
明確な法的根拠がないにもかかわらず、自ら合意したはずの増額前の家賃の支払いさえ拒否する被告センターの態度は、自ら望んでNHKが映るテレビを設置し、受信契約を交わしたにもかかわらず、「放送法改正を目的とする政治運動」と称して受信料を踏み倒すことを手助けする「NHK請求書受け取り代行サービス」を展開するNHKから国民を守る党(N党)を思わせる。
しかし、そのN党には、今年11月27日、同党が「反社会的カルト団体」であるとの論評について、それが真実であると信じるに足りる相当な根拠があるとする東京地方裁判所の厳しい判決が出た。
他方で、M氏とセンターの裁判は、令和2年3月、和解という形で決着した。
和解調書によると、原告M氏が主張していた、被告センターによる意図的な「不払い」分を含む家賃830万38円のうち746万8138円の支払い義務をセンター側が認めるものの、4月30日までに440万9002円を振り込めば、残りの305万9136円の支払い義務は免除するものとされた。
原告のM氏とすれば、増額の可否について部分的に争いこそあったものの、本来得られるはずだった家賃の半分弱を「泣き寝入り」した形になる。
大企業ではなく個人オーナーであるM氏には、増額前の家賃すら払わないという被告センター側の「兵糧攻め」が効いたということか。
テナントには普通の企業・団体を!
裁判でのM氏の主張によれば、家賃の増額と意図的な「不払い」をめぐるトラブル以外にも、ユニオン運動センターと対立する団体により鏨(タガネ)という金具がビルに投げつけられ、窓ガラスが破壊されるというトラブルが3回も発生したことにより、合計で313万6088円の修理費などの損害が発生し、センター側からもたらされた見舞金5万円を差し引いても、308万6088円もの被害を負ったままであるという。
その他にも、30年5月には、センター内のユニオンに相談に来ていた女性が飛び降りて衝突したことにより、給水設備が破損するという事件があり、この修理にも15万1200円を要したという。
デモ行進、街宣活動、3回にわたる金具の投擲(とうてき)、そして女性の飛び降り……まるで、ゴジラやモスラが大暴れする特撮映画の世界の出来事のようである。
しかし、大暴れするゴジラやモスラ本人はともかく、勝手にその”舞台”とされるビルのオーナーはたまったものではない。
あくまでもM氏の主張に留まるが、実際にユニオン運動センターをめぐる一連のトラブルでは、300万円を超える想定外の「事件」による損害が発生しているという。
しかし、こうした巨額の損害は、そもそも、ユニオン関係以外の普通の会社や団体にビルを貸し出せば発生しなかったものなのではないだろうか。
テナントビルの貸し出しは、ユニオンとは無関係の企業・団体へ。
ユニオン運動センターは、現在は、新宿区内の別のビルに入居し、平然と活動を続けているという。
しかし、個人のビルオーナーの家賃増額請求、訴訟提起という法的根拠のある手続に対し、N党さながらの賃料の「不払い」という法的根拠に乏しい「対抗手段」で「仕返し」に出たと評価されても仕方がないユニオン運動センターの「事件」は、決して風化させてはならないだろう。
そして、仮に読者諸兄がビルやマンションをお持ちであれば、ブラックユニオンとは無関係の、普通の会社・団体に貸し出すことを強くお勧めする。
触らぬ神に祟りなし。
そもそもブラックユニオンに関わらなければ、ブラックユニオンに関するトラブルの対応を余儀なくされることもないのである。
人は、誰と関わってどのように生きるかを自由に決めることができる半面、その相手と関わったことについて責任を取らなければならない。
当然のことのように街宣車やらタガネやらが飛んでくる、ゴジラやモスラ、あるいはショッカー戦闘員のようなバトルの世界を生きるか、街宣車もタガネもなく、ついでにデモ行進や弁護士、裁判所とのご縁もない小さくとも確かな幸せの世界を生きるか。
私たち人間は、確固たる意思と行動により、自ら望む側の”世界”を生きることができるはずである。
トルストイは、「光あるうちに光の中を歩め」と言った。私たちも、取り返しが付かないことになる前に、「光」のありかを見極め、その「光」の中を歩まなければならないだろう。
人生は、決断の連続である。
くれぐれも、誤った「決断」により、「光」を失い、街宣車やタガネといった魑魅魍魎が交錯する危険な「闇」の世界に堕ち、数百万円からの損害金と弁護士費用を支払う羽目にはならないようにしたい。