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実名公表の論証パターン

実名公表の論証パターンの必要性

なんらかの形で、文書(懲戒請求書、訴状など)を実名で公表することにニーズを覚えることはありませんか?
私はよくあります。
裁判所などの公的機関の判断に注目を集め、公正な判断を期するためにも、あるいは、そもそも相手方がこちらの実名を公表して何らかの批判や攻撃をしてきているというパターンも多いです。ジャーナリスト等として活動するような場合に必要になることもあると思います。
そんなとき、相手方としては、(もちろん嫌がらせの一環として)氏名の公表が違法行為であるとして争ってくるという場合があると思うのですが、これを画一的に一刀両断できる論証のパターンを確立したいと思うようになりました。
そこで、民訴の素養ナッシングの元行政書士の分際で恐縮ですが、いわゆる『論証パターン』的なもの一種として考えてみたいと思います。(司法試験予備校の言ってる「論証パターン」は要は規範の定立構文のことのようなので、ちょっとそこからはみ出ますが。私的な表現物のためご容赦ご諒解ください。)

論証パターン

比較衡量パターン

1 〇〇の請求は、本件〇〇における表現の内容に着目し、その差止めを求めるものであるから、最も厳しい審査基準が適用される。すなわち、法律上の制限の目的が切実な必要性に基づくものであり、制限が比例原則に従うこと、すなわち、表現規制によって保護される利益が規制される表現の価値を凌駕するものであり、制約の程度が必要最小限のものであることを要する。
2 しかるに……は、〇〇の表現内容を制約し、その差止を正当化するような切実な必要性を示していない。また、〇〇の「権利」なるものは、〇〇を自由な討論の場から排除しなければ守れないような法的利益ではない。
3 〇〇の公表行為は、憲法21条1項の保護を受ける。しかも、〇〇は、本件〇〇が……に公表されたため、その職業的生存を賭けた反論をしたものであり、これは表現の自由の中でも中核を占めるものであって、優越的な保護を受ける。
4 全ての市民は、〇〇について、知る権利がある。〇〇を受けた当事者である〇〇は、市民に向け、〇〇の実態を公開し、議論を求める権利がある。〇〇は、〇〇という公的フォーラムを利用し、公的権力の行使を求めているのであるから、一般市民に知られることを覚悟しなければならない。〇〇の主張する権利は、〇〇の表現の自由に劣後する。
5 本件〇〇は、〇〇の行動にも社会の耳目が集まっていた……に対するものであり、〇〇個人の利害得失には何ら関連せず、公的要素が強い。そのため、正確で詳細な情報が明らかにされるべきであって、それが国民の知る権利に奉仕し、言論市場における闊達な議論に資する。議論の端緒たる本件〇〇が公開されることは、社会正義に合致するのであるから、〇〇には、〇〇権や〇〇権を制限されるやむを得ない事由があるといえる。
また、〇〇の公表は、対抗言論としての側面を強く有するものであり、表現の自由市場に広く問題提起をするものとして憲法上の保護を強く受ける。その際に、本件〇〇の存在を示し、その内容を正確に引用しなければ、〇〇の主張は前提を欠くものになってしまう。また、本件〇〇を引用することにより、〇〇に経済的な利得は生じていない。

引用権パターン

引用は、「公表」された著作物に対しておこなわれ、かつ、「公正な慣行」に合致し、「引用の目的上正当な範囲内」である必要がある。
〇〇の場合は、これを第三者に知られ ただけで甚大な不利益を受ける。特に……(固有の事情)。そして、……が公表された以 上、自らの名誉と信頼を保持するため、本件〇〇の内容を前提とて示した上で、これに対する反論を公表 することが必要であった。
そして、反論を公表するに当たっては、誰からどのような〇〇を受けたのかを正確に明らかにする必要がある。正確な引用をするためには、〇〇の氏名も含め、本件〇〇の全文を掲載することが最も公正な方法であり、同〇〇の一部を切り取って引用したのでは、都合の良い部分のみを引用したと受け取られるおそれもある。
そうすると、本件〇〇の全文を掲載して引用することは、「公正な慣行」に合致し,「引用の目的上正当な範囲内」であるということができる。

反論権パターン

……以下の理由から、裁判権の行使による表現規制となる。
1 本件〇〇は、反論権の行使としての性格を有するものであり、特に保護されなければならない。〇〇は、本件〇〇に公開するなどし、その一方的な言い分が報道されたのであるから、それに対する正確な反論が許されないのは、不公正なことである。反論権は、……を通じた誹謗中傷に対して名誉及び名声を保護する重要な権利であり、保護すべき必要性が高い。
2 〇〇は、〇〇という制度と〇〇という強力な言論プラットフォームを利用し、〇〇の名誉、名声を傷つけた。これに対し、〇〇は、自らのブログというささやかなメディアで反論権を行使した。公的関心事について、自らの名誉を回復するための表現するすら許されないということは、憲法が許容するところではない。
3 また、〇〇の氏名を開示したことには、やむにやまれぬ必要性があった。〇〇に相当の根拠があるかどうかの評価をする上で、〇〇の属性や氏名は必須である。氏名を明らかにしなければ、誰の〇〇に対して反論しているか分からないのであるから、……としての社会的信用を回復することはできない。

プライバシー権パターン

1 プライバシーとして法的保護の対象となる情報は、「自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えること」が「自然な」情報である。プライバシーの合理的期待及び法的に保護される情報は、古典的な「法っておいてもらう権利」として保護されるべき情報や、自己コントロール権の内実としての私生活上の事実であって、通常人であれば公開を欲しない情報に限られる。
2 〇〇は、他者を公的に訴追する行為であって、純然たる公的行為であり、私的行為ではない。〇〇が誰であるかは、〇〇の本質的な内容であり、匿名による請求は不適法である。〇〇も、〇〇には「〇〇の氏名又は名称及び住所」を記載しなければならないと規定している。〇〇が誰であるかは公的な関心事になるのであり、〇〇は、そのような公的なアクションを起こす以上、これを甘受するべきである。これに匿名の保護を与えることは、無責任な〇〇を助長することになるから、〇〇の氏名は、むしろ公開されることが適切である。
3 さらに、〇〇手続にも適正手続が保障されるから、〇〇には、手続の公開を求め、〇〇を尋問する権利があるというべきである。〇〇も……を公開しなければならないとする。公開審理の保障の当然の前提として、〇〇には、〇〇が誰であるかを世間一般に公開する権利が当然に保障されなければならない。

おわりに

結局、事例判断だと思うのですが、こうした反論が一揃い必要になるのではないでしょうか。
構成には、弁護士高野隆先生の公表されている判決文をかなりの割合で参考にしました。この場を借りて感謝いたします。



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