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連載「ユニオンリスク」Vol.3 加入すると個人情報がダダ漏れに
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の筆者・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」という問題点を発信していく本連載。
第3弾となる本稿では、ブラックユニオンの個人情報保護上の問題点を論じたい。
ブラックユニオン執行委員「盗み出した」個人情報
個人情報保護法において「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報」をいう。
なかでも、住所、氏名は、例えば裁判を起こす際にも相手方の特定のために使われるもので、特に秘匿されるべき個人情報の一つだろう。
ところが、平成31年4月、某ブラックユニオンで、とある事件が起こった。
執行委員を務めていた40代女性が、ブラックユニオンの事務所に無造作に放置されていたユニオンの名簿を盗み、持ち出したのである。
怪文書送付の挙げ句、名簿の「買い取り」を要求
女性役員は、400名弱に及ぶ組合員等の氏名、住所が記載されたこの名簿を持ち帰ると、女性役員の主張を記載したらしい不可解な怪文書数通を一斉に送付したほか、女性役員が敵視する別の女性組合員を「性犯罪者」であるとする誹謗中傷の郵便物も大量送付。
400名の組合員ら多数が困惑を窮めたところで、女性役員は、なんと匿名掲示板「5ちゃんねる」上で「犯行声明」に及んだ。
曰わく、「名簿を破棄して欲しければ、私にいくらか払うように○○委員長に言ってください」と、自ら盗み出した名簿の買い取りを要求したのである。
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「盗人猛々しい」とはこのことである。
某ユニオンでは、そもそも、役員を選ぶ選挙が適正に行われておらず、代議員も執行委員も、適正に選挙を開催せず、独裁的にユニオンを牛耳る委員長が指名しており、いわば「翼賛選挙」が行われているのであるが、このような女性役員を執行委員に任命した委員長の責任は、端的に重大というほかない。
ブラックユニオンを訴えると「報復」の個人情報バラ撒き
ここまでの内容だけでも、到底、尋常とはいえないが、「事件」はまだまだ続く。
平成31年3月、筆者が、ユニオンに残業代の支払いなどを求め、団体交渉を申し入れたところ、不当に解雇されてしまったので、不当労働行為であるとして東京都労働委員会及び東京地方裁判所に提訴した(平成31年(不)第20号事件、令和2年(ワ)第14565号事件)。
すると、今度は、ブラックユニオンのブログ上で、筆者の旧姓やユニオンでの活動歴を、あたかも筆者が問題行動を起こしたかのような脚色を加えたうえで、無断で公表するという「報復」の個人情報のバラ撒きが待っていたのである。
曰わく、「自らの労働問題について交渉中だった会社に対して正当とはいえない個人攻撃を繰り返した」「交渉や組合活動のなかで何度もトラブルを起こした」など枚挙に暇がない。
しかし、当然のことながら、ブラックユニオンの交渉員として働いていた私は、ブラックユニオンの指示通りに働いていただけで、「正当とはいえない」行為などしようがないのである。仮に、筆者の活動内容に正当でない点があったとすれば、組合員である筆者に対してそれ(組合活動)を指示等したブラックユニオンの業務命令が不当であったからに他ならない。
業務命令どおりに働いただけなのに、なぜか、それを筆者が「正当とはいえない」とか、「トラブルを起こした」ことにされるのは大変心外である。
そして、当然ながら、具体的にどのようなトラブルを「何度も」起こしたのかは一切説明されていない。つまるところ、筆者が何か不当なことをしたとか、トラブルを起こしたという話自体が、でっち上げなのである。
そもそも、労働組合が、組合員や元組合員の氏名を、報復攻撃のためにブログに記載してしまうこと自体が重大問題ではなかろうか。
求人に応募した際に、求職者の氏名をインターネットで検索する企業は都市部を中心として少なくない。
ブラックユニオンに加入後、ブラックユニオンとの間でトラブルを抱えると、報復として、過去の勤務先との団体交渉の存在やその内容、氏名などをインターネットで公表されてしまうとすれば、ブラックユニオンに入って「会社を変える」どころか、ブラックユニオンに入ったために、いかなる会社にも就職できないという事態になりかねない。
おわりに
ブログでの筆者への誹謗中傷は、読むに堪えない悪文だが、委員長曰わく、筆者が、
「……組合を過剰に承認欲求を満たす場と位置づけてしまった際、認知が歪んでいたり、自己肯定感が低かったりすることで、自分が認められたいように自分のことを認めてくれなかった相手や羨ましいと思った他者を否定したり、自分と同じところまで引きずり下ろしたい……」
という。
しかし、中央大学まで出たのに、就活に失敗し、一度も会社員として働いたことがないという委員長を、国際基督教大学を卒業し、在学中に起業とEXIT(M&Aによる売却)を経験し、卒業後は一貫して会社員として働き、現在は行政書士として事務所を開いている筆者が、どうしてか同氏を羨むことがあるだろう。
また、会社を解雇されるどころか、会社に入れてもらうことすらできなかった同氏に、何をか「認めてもらいたい」と思うことがあるだろう。
大事なのは、委員長自身が、就活失敗から20年以上も先延ばしにしてきた社会復帰、真摯な就職活動という「宿題」に向き合い、会社に入れてもらえるような、まともな労働者へと「変わる」ことではないだろうか。
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そういえば、「私は、根拠のない自己肯定感があるのが強みなんですよ」と、日頃から嬉々として語っていた委員長氏。
「阿Q正伝」さながらの根拠がない”精神的勝利法”も大いに結構だが、女性役員に持ち出された個人情報は速やかに回収していただき、また、(自らの本名は徹底的に秘匿し、旧姓でのみ活動しながら、)組合員の氏名をインターネットに晒すのはやめてもらいたいものである。
そして、この記事をお読みの皆様。
貴方にはまだ、ブラックユニオンに加入せず、またブラックユニオンで働かず、最終的に個人情報がばら撒かれたり、インターネットで組合活動歴を公表され、就職ができなくならない自由が残されている。
労働者として会社で働いたことがない者に、労働問題の(まともな)解決などできるはずがないのだから。
労働問題は、信頼の置ける町の弁護士先生へ。
弁護士に依頼すれば、(万が一、資料を紛失することはあっても、)故意にインターネットでバラ撒かれることはない。
裁判所に閲覧制限の申し立てをすれば、公表されれば社会生活に重大な支障が及ぶおそれのある個人情報は、仮に公開の法廷において陳述されたものであっても、第三者が閲覧できないようにすることが可能だ。
ブラックユニオンに加入すると、住所を含めた個人情報が故意にバラ撒かれたり、内輪もめから盗難事件が発生するケースがあることと比べれば、弁護士に依頼する方が遙かに安全であることはいうまでもない。