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連載「ユニオンリスク」Vol.5 「弁護士を辞任させる」消えた脱退届、「拠出金」1000万円に踊る非弁狂騒曲

プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、これがヤバい!」という問題点を発信していく本連載。

第5弾となる本稿では、某ブラックユニオンの、1,000万円前後もの拠出金が得られると知るや、提出したはずの脱退届をもみ消し裁判にまで訴えるという恐るべき金銭への執着、またブラックユニオンを退会しようとする組合員に対する、脅迫まがいの恐るべき「引き留め」の実態をお話ししたい。


「解決金の水準上がる」組合員の意向無視して続く街宣活動


本連載の第2弾でもご紹介したが、プレカリアートユニオンでは、法テラスや日弁連の旧報酬基準よりも高額な20%もの拠出金を組合員から徴収している。

この拠出金は、年収560〜640万円にも及ぶ高額な執行委員長の役員報酬、ボーナス、そしてアメリカ外遊や労働弁護団の弁護士を招いたパーティーの「軍資金」となっているのであるが、平成31年春、この「拠出金」をめぐり、恐るべき事件が起こった。

事の発端はこうだ。

平成29年、某大手半導体企業を解雇された男性がブラックユニオンに入会した。しかし、団体交渉では解雇撤回の回答を引き出すことができず、ブラックユニオンは男性に、顧問弁護士でもあるS弁護士を紹介した。

S弁護士は、前任の弁護士が提起していた訴訟を引き継ぐ形で大手半導体企業を相手に訴訟を続け、平成30年春には、ようやく判決の見通しが見えてきた。

訴訟が優勢と聞いたブラックユニオンは、街宣活動をやれば和解協議における解決金の水準が上がると考え、大手半導体企業の社前、そして工場に街宣車を繰り出し、ひたすらに街宣活動を繰り返した。

ところが、和解、判決のいずれにしても、復職が絶対条件と考えていた男性組合員は、たまったものではない。

——社内で悪評が広まり、復職後の居場所がなくなってしまう。

危機感を覚えた男性は、ブラックユニオンに対し街宣活動をやめるよう依頼したが、解決金がそのまま「実入り」につながるブラックユニオンは聞く耳を持たない。

「法律事務所とブラックユニオンは関係が深いので、裁判を辞めさせる事も可能」

そこで男性は、平成30年6月6日、ついにブラックユニオンの事務所に赴き、「街宣活動をやめないのであれば脱退する」と申し出た。

しかし、ブラックユニオンに言わせれば、退会されてしまうと、拠出金が入らない。

そのためか、驚くべきことに、S委員長と男性書記長は、「ユニオンを脱退するのであれば、紹介したS弁護士が辞任することもあり得る」などと発言し、ブラックユニオンの顧問弁護士であるS弁護士に命じて男性組合員の訴訟代理人を「辞任させる」ことを示唆。

その具体的な発言内容がこれだ。

——明日、○○法律事務所へ電話して、お前(男性)の裁判を辞めさせる可能性もある。○○法律事務所とブラックユニオンは関係が深いので、場合により裁判を辞めさせる事も可能である。

事実であれば非弁活動(法律事件の周旋)、非弁提携として弁護士法違反の問題にもなりかねない行為だ。

しかし、男性組合員は脅しに屈せず、結局、「S弁護士が辞任しないよう配慮して欲しい」と書き加え、ブラックユニオンを脱退した。

男性組合員が提出した脱退届

「脱退していなければ1000万円弱」巨額拠出金にむしゃぶりついた執行委員会


結局、復職は認められないとする大手半導体企業と、復職でなければ和解はできないとする男性(元)組合員の和解協議は平行線となり、平成30年10月22日、神戸地方裁判所姫路支部で判決が言い渡された。

結果は男性の全面勝訴。4年越しの裁判で男性が勝ち取ったバックペイなどの未払賃金は、なんと4,500万円以上となった。

4,500万円以上ということは、拠出金は900万円〜1,000万円前後にのぼる。

ただ、本来であれば、6月6日に脱退している以上は拠出金を払う義務は無いのだが、脱退届は男性が手書きで差し入れており、コピーはない。

——つまり、脱退届けを握りつぶせば、拠出金を請求できる。

このように踏んだのか、ブラックユニオンの執行委員会は、日本労働弁護団常任幹事のS弁護士に依頼し、男性がブラックユニオンを脱退していないことを前提として、拠出金取立訴訟を起こすことを決めた。

そうして、男性書記長が男性(元)組合員に連絡をとり、「(ブラック)ユニオンを脱退していない」という言質を取ろうと試みたが、当然ながら男性と口論となり、話し合いは平行線に。

証拠が残るメールのやり取りでは、ブラックユニオン側の男性書記長は、(脱退届の提出に居合わせていながら)「記憶はない」と、卑劣な全面否認の一点張り。

このまま、ブラックユニオンの思惑通り、1,000万円の拠出金取立訴訟に進むか……と思われた。

しかし、男性と書記長が言い争うメールをCcで受け取っていた私が、6月6日にもブラックユニオンに出勤しており、現場に居合わせていたことから、偶然スキャンしてデータを持っていた前掲の手書き「脱退届」を男性元組合員に提供。

これ以降、男性書記長からのメールは途絶え、拠出金取立訴訟の話も立ち消えになり、男性元組合員は事なきを得たのであった。

私が脱退届を共有した電子メール(本文、「前田」は私の旧姓である)
私が脱退届を共有した電子メール(続)

おわりに


ブラックユニオンに労働相談に行くと、
「団体交渉で問題解決ができなくても、弁護士を紹介するから大丈夫」
と説明され、加入を促されることが多いだろう。

しかしながら、ブラックユニオンが紹介する弁護士は、ブラックユニオンに裏で情報を流す可能性があり、また上得意先であるブラックユニオンの意向に従わざるを得ない弁護士でもある。

この事件が終わったらそれまでのアナタと、毎月のように「依頼者」を紹介してくれるブラックユニオン。
双方が後日、拠出金などの問題で揉めごとになったとき、弁護士がどちらの味方をするかは、もはや考えるまでもあるまい。

また、ブラックユニオンを脱退する際も、内容証明郵便で送付しておかなければ、それを握りつぶされる可能性があり、大変危険だ。
拠出金はもとより、何年も経ってから巨額の「組合費」を請求されてもおかしくなく、「握り潰し」のリスクは大きい。

そして、何よりも、脱退届が隠蔽されるリスク、あるいは弁護士に「寝返られる」リスクといった、常識では考えにくい危険を受け容れてまで、そもそもブラックユニオンに加入する必要性はどこにもない。
弁護士なら、法テラスでも弁護士会でも紹介してくれるし、相談の上、相見積もりを取ることだって可能なのだから。


労働問題は、信頼の置ける町弁の先生へ。

弁護士は、弁護士職務基本規程5条により真実尊重義務、誠実義務を負っており、仮に物理的証拠がなくても、それが真実であると知っていれば、その真実を尊重しなければならず、「寝返り」や証拠の「隠蔽」、「握り潰し」のリスクは労働組合と比べて遙かに小さい。

着手金が払えない場合も、法テラスで立て替えてもらうことができる。ブラックユニオンに加入して後で大きなリスクを負うことになるより、最初から信頼できる国家資格者に依頼しよう。


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