連載「ユニオンリスク」Vol.8 完全勝訴判決—いち市民が"貧困ビジネス"と闘うということ
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」という問題点を発信していく本連載。
第8弾となる本稿では、プレカリアートユニオンに対する完全勝訴判決をご報告するとともに、その訴訟に要した費用など、いち市民が”貧困ビジネス”と闘うということの厳しい現実についてお伝えしたい。
プレカリアートユニオンの歴史上初の「完全敗訴判決」
「被告の別紙総会決議目録記載1から10の決議がいずれも不存在であることを確認する」
「訴訟費用(補助参加に係る費用を含む。)は被告の負担とする」
令和6年2月28日午前10時10分、東京地方裁判所510号法廷。
原告・宮城史門、高木ほか1名の合計3名(補助参加人含む)の労働者・組合員がプレカリアートユニオンを被告として提訴した「総会決議不存在等確認請求事件」において、原告ら労働者・組合員のいわゆる完全勝訴判決——ユニオンにとっては、完全敗訴判決が言い渡された。
ユニオンにとって、裁判所で敗北することは必ずしも初めてではない。
以前にも、にこコンサルティングという社会保険労務士が経営する株式会社の社長自宅前で街宣活動を行い、街宣活動禁止の仮処分決定を受けたことがある。
最近も、テイケイという警備会社との名誉毀損をめぐる訴訟で、ユニオンのテイケイに対する損害賠償請求も認められたものの、テイケイの関係先で行った街宣活動の内容が事実無根であるという損害賠償請求も認められ、相互に100万円以上の損害賠償責任が認められた事例がある。
しかし、にこコンサルティングの事件はあくまでも仮処分だし、テイケイの事例でも、数十万円の差ではあるがユニオン側の損害賠償請求のほうが若干多く認められている。
この意味で、ユニオンの「完全敗訴判決」は、その歴史において初めてのものといえるだろう。
今後は「街宣活動」で逮捕?非弁活動の可能性も
ところで、この総会決議不存在確認等請求事件は、平成27年以降のプレカリアートユニオンの総会(大会)の手続に瑕疵があり、法的には不存在または無効になるとして、ユニオンより「除名処分」を受けた組合員・労働者数名が、「除名処分」はもちろん、その「除名処分」を決めた執行委員を選挙するユニオンの総会そのものが不存在又は無効であるとして、その判決による確認を求めて提訴したものである。
仮に、平成27年以降のユニオンの総会の決議が全て不存在又は無効であれば、当時から現在までのユニオンの活動は、法的には、原則としてすべて無権代表行為(無権代理行為)になる。
実際に、ユニオンの代理人弁護士である山口貴士氏も、今年8月13日に提出した控訴理由書において、
として、法的には、総会の決議が不存在(無効)であれば、ユニオンの活動は過去に遡ってすべて帳消しになることを認めている。
つまり、今までに、相手先の会社に街宣車を差し向けるなどの方法で「団体交渉」「団体行動」を行ったり、労働問題を抱える組合員にユニオンの顧問弁護士等を紹介し、その訴訟の和解協議に「利害関係人」として参加したりといった方法で獲得した「解決金」「拠出金」は、法的には「不当利得」となるのだ。
そうすると、街宣車を差し向けられて「解決金」の支払いを余儀なくされた会社はもちろん、弁護士報酬に加えて「拠出金」まで取り立てられた組合員も、プレカリアートユニオンに対し、その返還を請求することができる。
また、適法な労働組合としての権原がないのに組合員と会社の労使紛争に介入して利益を得たとして、弁護士法72条違反(非弁活動の禁止)の疑いがかけられることもあり得るほか、一般的には威力業務妨害などの刑法犯にあたる会社前での街宣活動について、正当に選挙された代表者が指揮する労働争議とはいえないとして、労働組合法により免責されず、参加した組合員や街宣活動を指示した者に刑事責任が追及される可能性もある。
ちなみに、街宣活動をやめてほしければ解決金を支払えなどとの交換条件を提示した場合は、恐喝罪に問われる場合もあるので、十分な注意が必要だ。
判決により「未必の故意」認定も
刑法犯の成立については、一般的に、故意でした行為であることが必要要件とされており、その故意とは、犯罪行為そのものについての故意だけではなく、その行為について違法性阻却事由がないことの故意も含まれるとされる。
なるほど、これまでは、原告ら労働者・組合員数名が、単に決議が無効であると述べているに過ぎなかったから、労働組合の正当な活動で、違法性阻却されると信じていたという弁解も可能だっただろう。
しかし、一審判決の段階とはいえ、一度でも総会決議がすべて不存在(無効)という裁判所の判断が出た以上は、「もしかすると労働組合の正当な活動ではなく、違法性阻却されない可能性もあると認識していた」、つまり未必の故意があったと捜査機関側が判断するかもしれない。
そうなると、街宣車などを差し向けられた会社や近隣住民が被害届や刑事告訴状を出せば、逃亡や証拠堙滅のおそれが認められる者については、これからは「逮捕」という対応も法的に考えられることになる。
ユニオン側は「控訴」も一回の審理で結審
さて、判決までには実に4年もの歳月がかかったが、いずれにせよ、裁判は原告ら労働者・組合員の「完全勝訴」となり、大会が不存在(無効)であることだけでなく、組合員らへの「除名処分」も無効であることが認定された。
これは、組合民主主義をめぐる労働者・組合員と労働組合の闘いとしては、全日本海員組合(組合長選挙無効確認請求)事件の一審判決以来の、労働者・組合員側の快挙といえよう。
もっとも、プレカリアートユニオン側はこの判決に対し控訴しているが、控訴審の審理は一回で結審しており、控訴棄却の可能性が高い。
もちろん、控訴が棄却された場合も、上告をすることができる。
しかし、現行の法制度上、憲法違反をめぐる判断をする場合など一定の場合でなければ上告は受理されないが、本件では憲法違反が争点にすらなっていない。
そうすると、上告をした場合でも、上告が認められる確率は低いだろう。
となれば、平成27年に遡って、総会決議が不存在(無効)であったことが法的に確定する。
その場合、民事では、ユニオンが「解決金」を獲得してきた「和解」等が「帳消し」になっていき、会社や組合員に対する返金義務が発生していく一方で、刑事では、むしろ労働組合法による免責というヴェールが剥がされ、正当に総会を開いていれば合法で、全て「帳消し」だったはずの街宣活動等についての威力業務妨害罪などの刑事責任が、雪だるま式に「発生」していく方向に転んでいくことが興味深い。
訴訟発展の「裏事情」……巨額「役員報酬」という”たわわな果実”
原告ら労働者・組合員は、最初から、裁判という最終手段に出たわけではない。
原告らは、平成31年3月当初、プレカリアートユニオンの執行委員長を名乗る清水直子こと関口直子氏に対して、穏当に文面で指摘し、総会のやり直しや特別代理人や仮理事の選任申立など、適法な手続を行うように呼びかけていた。
しかし、仮に平成27年以降の総会が不存在(無効)となると、解決金や拠出金を会社や組合員に返す必要があるほか、団体と役員の関係は委任関係であり、委任契約は原則として無償であることから(民法、一般法人法など)、清水氏らの役員報酬を定める決議も不存在(無効)になり、ここまでの4年間で得てきた1000万円以上の役員報酬も「帳消し」、つまり、一旦返さなければならないという事態にもなりかねない。
特に、このころは、平成30年2月頃にアリさんマークの引越社と「和解」し、億単位の「解決金」を獲得したことを受けて、ほとんど「倍々ゲーム」で「役員報酬」を増やしていた時期でもあった。
もちろん、総会が不存在(無効)であることを認め、手続をやり直すのであれば、和解が「帳消し」になることから、引越社にも、億単位の「解決金」をそのまま返さなければならない。
もっとも、引越社が無権代理行為を追認する場合は返さなくてもよいが、引越社にとって追認をするメリットは乏しく、今回の判決が確定した場合はもちろん、総会が不存在(無効)であることを自ら申し出て謝罪した場合でも、やはり「解決金」の返還は求められたのではないだろうか。
自らの「給料」だと思っていた清水氏の役員報酬だけでなく、このような億単位の解決金の「返金」も発生しかねないという法的事情のほか、当時、「親の施設入所費などでカネが必要だ」「霞を食っては生きていけない」などと話していた同氏の個人的事情もあったのかもしれない。
いずれにせよ、清水氏は、結局、原告ら組合員の説得に応じて大会をやり直すどころか、原告らがプレカリアートユニオンのアルバイトとして働く労働者の労働組合を結成したことを「分派活動」と非難して「権利停止処分」を下し、インターネットでも、いち労働者にすぎない組合員の実名を発信して非難声明めいた文書を公表するなど、組合民主主義とは相容れない攻撃的な反応を繰り返した。
さらに、総会決議が不存在(無効)であり、代表者を名乗っての組合費の支出は認められないと指摘を受けている最中であるにも関わらず、自らや、新たに採用した「専従」であるとする稲葉一良氏という社会保険労務士の「役員報酬」として、またしても巨額の金員をユニオンから引き出した。
既に述べたように、清水氏の「役員報酬」は、有名な「アリさんマークの引越社」事件でユニオンが億単位の解決金を得た後、ほぼ2倍に増額されていた。
判決で認定されたように、組合民主主義が徹底されない違法なブラックボックス型の組合「経営」の中で、億単位の解決金などの「儲け」が出れば、清水氏自身と、やはり判決が認定したとおり、清水氏が総会の選挙に介入することにより事実上清水氏に指名されていた「執行委員会」が「採用」した「専従」に対し、あたかも株式会社の配当のようにマネーが還元されていくという、いわば「労働組合型ビジネス」のスキームが確立されていたのである。
プレカリアートユニオンが、「プレカリアート」という名の通り、貧しい労働者を主な勧誘対象としながら、判決で認定されたように、適法・透明な民主的組合運営をせず、一部の者にのみ「役員報酬」として利益が還元されるスキームを採用していたのであれば、その金額の20%とされる労働問題解決の「成功報酬」である「拠出金」の割合が、法テラスの成功報酬基準である〜10%や、100歩譲っても日弁連の旧弁護士報酬基準に定める18%〜よりも高額な場合があること、その「拠出金」を労災保険の給付金からも徴収するとしていることからすると、このままでは「貧困ビジネス」との批判を免れないだろう。
実際に、こうした問題を受け、『ブラックユニオン』(新田龍氏)という著書も上梓されている。清水氏式のユニオン「経営」は、今や社会問題化しているということができる。
「貧困ビジネスとの闘い」挑んだ原告らの負担
他方で、”貧困ビジネス”との闘いは、アリさんマークの引越社から得た億単位の解決金をはじめとして巨額の”資本”を有するプレカリアートユニオン側と異なり、原告の労働者・組合員らにとっては厳しいものであった。
原告らが弁護士に支払った弁護士費用は、既に合計で200万円弱にのぼっている。
オウム真理教の関連事件も手がけたことで有名な中堅法律事務所である「リンク綜合法律事務所」に所属し、アメリカの弁護士資格も有するというエリートである山口貴士弁護士、佐々木大介弁護士に依頼したユニオンに対し、いわゆる普通の”町弁”であった原告ら代理人(玉真聡志、多賀野司、大石眞人弁護士)らにとって本件が大きな負担であったことは想像に難くないが、いち労働者にすぎない原告らにとっても、勝ったところでお金が回収できるわけではない訴訟に200万円という負担は重い。
しかし、法律と規約どおりに選挙を行い、違反であった部分については、お金を一旦返したり、特別代理人や仮理事を裁判所に選任してもらうなどして適法に解決してほしいという要望を容れてもらえないどころか、組合活動に熱心に取り組んできたにもかかわらず、報復として「権利停止処分」や「除名処分」という手段に出られた原告ら労働者・組合員としては、やむを得ない判断であったというわけだ。
原告団長の宮城氏は、本判決について、
とコメントしている。
同じく原告の高木氏は、勝訴判決が確定するまでコメントを留保すると明らかにした。
労働問題の相談は弁護士へ!
威力業務妨害、恐喝、そして逮捕……あくまでも可能性だが、今や、「乗っただけ」「手伝っただけ」であっても、法的な正当性が不確実な「組合活動」に便乗することのリスクは大きい。
しかし、法テラスに依頼すれば、高額の預貯金や別荘などの財産がない限り、5000円からの分割払いで弁護士に依頼することが可能で、成功報酬の割合もプレカリアートユニオンの「拠出金」よりも低く、良心的だ。
しかも、職を失った場合によく使われる失業保険の給付額が、現在は月額13万円程度とされるいわゆる生活保護基準を下回る場合、申請すれば、生活保護で差額を受給することもできる。
そして、労働問題が解決した時点でも生活保護を受けていれば、法テラスの分割払いの残額も原則として免除されるのだ。
寒い中、「組合活動」に駆り出され、場合によっては警察に追われるというリスク——まさしく”ユニオンリスク”を負ってまで、ユニオンでの労働問題解決にこだわる必要性は見いだしがたい。
労働問題は、信頼の置ける町弁の先生へ。
例えば労働審判であれば、原則として3回の裁判で審理が終わるし、弁護士に依頼すれば裁判所に行く必要がないのはもちろん、仮に本人訴訟であっても、会社側と対面したくないなどの要望に配慮してもらえる。
労働者として市民として、より賢明な選択肢はおのずと明らかだろう。