【第13回】おとなげない先生
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
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小学校4年生の男子から言われた言葉です。
彼と一緒に休み時間にカードゲームをしていました。そのとき彼が、ちょっとズルをしたのです。
教師としては、
「それはちょっといけない。認められないな。やり直しをしよう。」
などと、その行動をいさめる言葉を伝えるべきかも知れません。
けれど、私は、友だちのように
「えー。ずるすんなよー。」
と、ちょっと高いトーンで伝えました。
彼は、
「しまった!」
という顔をしてやり直しました。
次に、私も満を持して、同じようなズルをしました。
その瞬間彼が、ちょっとフフフッという顔をして、
「おとなげないせんせい!」
と言いました。
「先生、子どもみたい。本当の先生に見えない。お勉強のときは先生。でも、遊ぶときは子ども。」(小4女子)
ここは病院内の学級です。普段の教室で味わうことのできる友人とのかかわりは難しい場所です。
子どもたちの社会性を高めるために、教師として考えていることがあります。それは、さまざまな立場から、子どもたちにかかわることです。
あるときは、教師として。保護者として。医療者として。地域のおじさんとして。そして、ときには友だちとして。先輩として。それも、本気で…。
その時々に応じて、自分の立ち位置を変化させて、子どもたちにかかわります。
同時期に入院をしている子どもたち同士の出会いはありますが、それでも、同じような学年の子どもたちが一緒にいるという機会はなかなかもてません。
本来の意味で、子ども同士でかかわる機会をもつことはとても難しいのです。
「ここではだれでも、子どもになれる」(小1男子)
子どもたちにとって、「子ども」でいられる時間や空間はとても大切です。
病院の中には、さまざまな大人がいます。しかし、医療者であったり、教師であったり、子どもにとっては、その人の言うことをきくことが必要な大人です。
病院の中で、子どもたちは、「よい患者」であることを求められます(もしかしたら、学校では「よい生徒」、家庭でも「よい子ども」を求められているかも知れません)。一日でも早く回復するためには、それは大切なことです。
だからこそ、子どもたちが、この学級に来てくれたときや私とかかわるときは、「患者から、子どもに戻す」ことを大切にしています。
本来の子どもに戻った子どもたちのエネルギーは、素晴らしいものです。
「明日も学級に行きたいから…」
「明日、やりたいことができたから…」
「明日も、あの子と会いたいから…」
「だから、薬も飲む」
「注射もがんばる」
「早く寝る」
私たちは、教育を使って、子どもたちが治療に向かうエネルギーをつくることができます。
そんなエネルギーを子どもたちがためることのできる病院の中の空間でありたいと思います。
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※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
★2023年11月号 特集:地域における医療的ケア児の支援と看護
★2023年10月号 特集:新生児看護の教育;看護職の専門性を高める
★2023年9月号 特集:日本に住む外国人の子どもへのケア
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