【第12回】ながくいてくれると…
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
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公立学校の教員を辞して、昭和大学の教員となって三年が経ちました。
公立学校の教員には必ず異動があります。三年前、私も異動の対象となっていました。
“もしかしたら、来年はここにいられないかも”
何となくそんな話を子どもたちとしているときにある男の子に言われました。
「えっ!そえじもいなくなっちゃうの?」
そえじというのは、普段、子どもたちが呼んでくれている私のニックネームです。
“お前もいなくなるのかよ”
そんなメッセージが彼から飛んできました。
その男の子とは数年来の付き合いです。
彼は、今までたくさんのものを喪失してきました。その彼からのメッセージ…。
「どうにかしてここにいるから」と、彼と約束をしました。
たくさんの人の尽力のおかげで、今の立場と役割を与えてもらいました。
教室前の廊下に掛けられたホワイトボードに、
「十年ぶりに、元気をもらいにきました」と書かれていました。
教室が閉っていたり、私がいなかったり、そんなときに教室を訪れてくれた人たちが記入するためのメッセージボードです。
学級に通ってくれていた子どもたちが寄ってくれたり、廊下の掲示物を見た人が、メッセージを寄せてくれます。
十年ぶりに寄ってくれたこのメッセージを書いた子ども(今はもう子どもではないかもしれませんね)とは、会うことはできませんでした。
残念なことに、名前がわかるヒントもありませんでした(不特定多数の人が見るボードのため、フルネームは書かず、書いてあった場合はこちらですぐに消しています)。
病院内学級の教員は、医療の人たちと同じで、退院した子どもたちがどうしているかは、想像するしかないことがほとんどです(初め、教員としては、非常に寂しい感覚だったことを覚えています)。
再会のときは、具合が悪いことも多いので、素直に喜べないこともあります。
ただし、子どもたちのなかには、この教室がエナジーステーションになっている場合があるのだと気づき、同じ場所にいつづけることの大切さを改めて教えてもらいました。
「ながくいてくれるとありがたい」
高校生の女の子が、ふっと伝えてくれた言葉です。
彼女は、小さいときから何度も入退院を繰り返している子どもです。
久しぶりに、入院して、教室に行くときは、やはり少し緊張するそうです。
そんなときに、知った顔がそこにあるというのは安心なのかもしれません。
子どもたちは、治療に多くのエネルギーを使います。
実は、病棟での人間関係にもエネルギーを使っています。
それなのに、学級に行くときにもまたエネルギーを使わなくてはならないのは、大きな負担であると感じます。
まずは、安全と安心を感じてもらえるようにかかわります。
教員も子どもたちにとって大切な環境の一部になれるようにと願います。
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※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
★2023年10月号 特集:新生児看護の教育;看護職の専門性を高める
★2023年9月号 特集:日本に住む外国人の子どもへのケア
★2023年8月号 特集:川崎病の子どもと家族への看護ケア
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