投球障害肩の評価 -肩甲胸郭関節-
C-I Baseballの小林弘幸です。
元NPBチームドクターのスポーツDrと一緒にエコーを用いて、
選手の病態を理解し障害の原因追及、症状改善を大切にしています。
投球障害肩の原因は多岐にわたり、非常に難しいです。
しかし、皆様に少しでも自分の考えを共有していただき、
ご意見をいただきながら、現場の選手に少しでも還元できたら
うれしく思います!
CIB第2期で小林が担当する、臨床編の記事(予定)です↓↓↓
①投球障害肩の問診と動作観察
②投球障害肩の評価 -肩甲胸郭関節-(今回)
③投球障害肩の評価 -肩甲上腕関節-
④投球障害肩の評価 -その他の部位-
⑤投球障害肩の治療 -徒手療法-
⑥投球障害肩の治療 -運動療法-
これらの記事を通じて、
私の臨床での考え方、思考過程を共有させていただき、
様々なご意見をいただけたらと思います!
●投球障害肩の評価 -肩甲胸郭関節-
■はじめに
投球障害肩については、どのようなことを思い浮かべるでしょうか??
・肩甲骨の動きが悪い?
・股関節の動きが悪い?
・フォームが悪い?
・肩自体の動きが悪い?
私の考えは、
そのすべてに可能性がある!です。
今回は、理学療法士(PT)、ならびにメディカルトレーナーといったような
立場から書きたいと思います。
PTとして、野球選手に関わる場面として最も多いのは、
痛みがあって投げられない選手を、投げられるようにするといった
場面でしょうか?
この場面の評価、治療として、
一番大切なことは、
何を優先順位として高く設定するか?です。
ついつい、
自分の勉強している部分から治療したい!と思ってしまいますが、
それではセラピスト自身の自己満足になってしまいます。
そうではなくて、
選手の問題点の優先順位があるはずです。
その問題点の高いところから治療をしていくべきかと思っています。
そして、
病院にくる『肩に痛みのある選手』には、
広義の意味での『肩』をしっかり見る必要があります。
まずは
・肩甲上腕関節の問題
・肩甲胸郭関節の問題
このどちらの問題なのかを
優先順位をつけていく必要があると考えています。
この評価がセラピスト、トレーナーにとっては
非常に重要だと考えています。
■投球障害肩に対する理学療法の考え方
近年、理学療法の考え方において診断名から理学療法を決定するのではなく、発生している症状に対して最も効果的な運動から理学療法を実施する必要があるとされています。
※Ludewig PM, et al.: Changing our diagnostic paradigm: movement system diagnostic classification. Int J Sports Phys Ther, 12(6): 884–893, 2017
Drが診断するためには、病理解剖学的診断の考え方を活用します。
つまり、どの組織が痛んでいるのかです。
しかし、PTやトレーナーは、病理解剖学的診断をしてはいけませんし、
選手を投げられるようにするといった目的では、
必ずしも病理解剖学的診断は必要ないかもしれません。
それは、野球の投球障害では画像診断上で複数の構造異常があるものの無症候の選手が存在するためです。
※Miniaci A, et al.: Magnetic Resonance Imaging of the Shoulder in Asymptomatic Professional Baseball Pitchers. Am J Sports Med, 30(1): 66-73, 2002
そうではなく、病理運動学もしくは運動病理学的考え方が必要です。
例えば、
疼痛誘発テスト(病理解剖学的診断)を用いるのではなく、
疼痛緩和テスト(病理運動学的診断)を用いる必要があると考えられます。
どのような運動をすれば痛みがなくなるのか、
どのような運動をすれば投げられるようになるのかを
考えなくてはなりません。
そのための評価方法を提示していきたいと思います。
■優先順位のつけ方
投球障害肩に対して機能障害をもたらしている原因が肩甲胸郭関節、肩甲上腕関節のどちらなのかを判断するためにScapula Assistance Test(以下SAT)の概念を利用しています。
これは上肢挙上時に痛みのある症例で、
挙上の際に肩甲骨を後傾・上方回旋にassistして、痛みが減る
つまりSATが陽性の人は、肩甲胸郭関節に問題があることを示唆するという評価です。
※Pluim BM. Scapular dyskinesis: practical applications. Br J Sports Med. 2013 Sep;47(14):875-6.
このSATの概念を利用し、
投球障害に利用できるように変更しています。
まず、投球障害肩で多いフェイズでの評価を実施します。
ここでは、
Late-cockingでの切り返し時に痛みが出る症例が多いので、
その評価方法を示します。
投球動作を評価することは難しく、
その動作を細分化することが大切だと考えています。
Late cockingでは、外転外旋が強調されるので、
その運動を切り取って評価します。
いわゆるHERT(Hyper External Rotation Test)で評価します。
※原正文:投球障害肩の診察方法(メディカルチェックを中心として). 骨・関節・靭帯. 20. 301-308. 2007
投球動作に関してみるために、
自動運動でのHERTを評価しています。
また、SATでの肩甲骨誘導ですが、
従来の方法では、肩甲骨は後傾と上方回旋のみの誘導です。
※Pluim BM. Scapular dyskinesis: practical applications. Br J Sports Med. 2013 Sep;47(14):875-6.
肩甲骨運動は、3軸2方向の運動があるといわれており、
その方向で示すことが重要です。
※Aoi Matsumura, et al.:J Electromyogr Kinesiol. Feb;44:46-55. 2019
上記を踏まえて、我々は、
類似する肩甲骨運動方向をまとめた3方向でのSAT(以下3方向SAT)を用いています。
3方向SATを用いて、痛みが軽減すれば、
肩甲胸郭関節の動きが問題。
痛みが変化なかったり、増加したら
肩甲上腕関節の動きが問題と考えています。
ちなみに、
痛みの軽減は、NRS2以上の軽減が臨床的に意味があるといわれています。
※Farrar JT, et al.: Clinical importance of changes in chronic pain intensity measured on an 11-point numerical pain rating scale. Pain. 2001;94:149-158.
■実際の評価方法
ここからは、動画も踏まえて評価方法を示していきます。
まずは実際にどのように3方向SATを実施しているかです。
このように肩甲骨の誘導をしています。
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野球トレーナーマニュアル
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