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自律神経とウエイトトレーニング
ウエイトトレーニング(レジスタンストレーニング)は、筋力や筋肥大を促進するだけでなく、自律神経系(交感神経と副交感神経)の働きにも影響を与えます。
以下では、ウエイトトレーニングと自律神経の関係について考えられる生理学的メカニズムや実際の影響、研究知見を整理したうえで、参考文献の例をいくつかご紹介します。
1. 自律神経とその役割
交感神経
心拍数や血圧の上昇、発汗促進など、身体を「活動的」な状態にする神経系。運動時やストレス時に優位になりやすい。副交感神経
心拍数や血圧を落ち着かせ、消化・休息を促すなど、身体を「リラックス」状態に導く神経系。休息や睡眠時に優位になりやすい。
心拍数や血圧の制御、ホルモン分泌などを通じて、身体の恒常性(ホメオスタシス)を保つために両神経がバランスを取りながら機能しています。
2. ウエイトトレーニングが及ぼす主な生理学的影響
(1) トレーニング中
交感神経の亢進
重量物を扱う運動(特に高強度)の場合、血圧や心拍数は急上昇し、交感神経が優位になる。バルサルバ法(息こらえ)を用いたり、高強度での挙上を行ったりすると血圧がさらに上昇し、交感神経が強く活性化。
(2) トレーニング直後の急性期
交感神経優位からの副交感神経復帰
トレーニング後は急激に心拍数や血圧を下げようとするため、副交感神経が徐々に高まり、元の安静レベルに近づける。運動後低血圧(post-exercise hypotension)
強度によっては、トレーニング後しばらく血圧が安静時よりも低くなる現象が確認されており、これは交感神経活性の低下や末梢血管抵抗の変化などによると考えられている。
(3) トレーニングの長期的影響
心拍数変動(Heart Rate Variability: HRV)の変化
定期的なレジスタンストレーニングによって、安静時の心拍数変動(主に副交感神経指標)の向上が報告される場合がある。一方で、高強度・高頻度過ぎる場合にはストレスが大きく、交感神経優位が続いて回復不十分になる恐れもあり、HRVが低下することもある。心血管系機能・ストレス耐性の向上
適切な負荷と頻度で行えば、血管の柔軟性や血圧コントロール能力の改善が期待され、自律神経機能のバランスにも好影響を及ぼす可能性がある。オーバートレーニングによる自律神経失調
強度が高すぎたり、回復期間が不十分な状態で頻繁にトレーニングを行うと、自律神経のバランスが乱れ(交感神経過剰・副交感神経過剰など様々なタイプが報告あり)、疲労回復が遅延する。結果として筋力向上や筋肥大効果が頭打ちになったり、倦怠感や睡眠障害を引き起こす場合がある。
3. 効果的なウエイトトレーニングと自律神経の調整
適切な負荷設定と休息
一般的には、週2~3回のセッションを基本に、筋群ごとに48~72時間の休息を確保する。
過度なトレーニングは交感神経の亢進状態が慢性化し、自律神経のバランスを乱す。
トレーニングプログラムの周期化(ピリオダイゼーション)
低負荷期・中負荷期・高負荷期などを周期的に組み替え、負荷やボリュームをコントロールすることで自律神経の疲弊を防ぐ。
クールダウンや呼吸法
トレーニング後に軽い有酸素運動やストレッチ、腹式呼吸を取り入れることで、副交感神経を高める。
クールダウンは心拍を徐々に下げ、心血管リスクの軽減にも繋がる。
心拍変動(HRV)の活用
アスリートではHRVを計測し、交感神経・副交感神経のバランスを客観的に把握してトレーニング負荷を調整する手法がある。
一般の方でもウェアラブルデバイスで HRV を計測できる製品もあり、疲労度合いの把握に役立つ。
4. 参考文献・論文例
Heffernan KS, Kelly EE, Collier SR, Fernhall B.
Cardiac autonomic modulation during recovery from acute endurance versus resistance exercise.
European Journal of Cardiovascular Prevention & Rehabilitation, 2006; 13(1): 80–86.有酸素運動とレジスタンストレーニング後の心拍自律神経調節を比較している論文。運動様式による副交感神経と交感神経の回復過程の違いを報告。
Figueiredo T, Willardson JM, de Salles BF, et al.
Influence of load intensity on postexercise hypotension and heart rate variability after a strength training session.
Journal of Strength and Conditioning Research, 2013; 27(3): 623–630.強度の異なるレジスタンストレーニングが運動後低血圧やHRVに及ぼす影響を考察した研究。
ポーラック ML, ウィルモア JH, エクスナム MD (著)
『エッセンシャル運動生理学』丸善出版運動生理学全般について解説している教科書。レジスタンストレーニングと心血管系・自律神経反応の基礎理解に有用。
American College of Sports Medicine (ACSM).
ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription.運動処方に関するガイドラインを包括的にまとめており、有酸素運動だけでなくレジスタンストレーニングの心血管系への影響についても記載がある。
石井直方 (監修)『筋トレまるわかり大事典』ベースボールマガジン社
日本語で読めるウエイトトレーニングの解説書。自律神経との直接的な関連に深く言及しているわけではないが、トレーニング科学やプログラム設計の考え方を幅広く取り扱う。
5. まとめ
交感神経優位:ウエイトトレーニング中や高強度なエクササイズ時に強く働く。心拍数や血圧が上昇する。
副交感神経の回復:トレーニング後のクールダウンや適切な休息で徐々に優位になり、心拍数や血圧を落ち着かせる。
長期的影響:適切な負荷・休息バランスで行うことで、副交感神経指標(心拍数変動など)の改善やストレス抵抗性の向上が期待できる。
オーバートレーニングのリスク:負荷が大きすぎる・回復が不十分だと自律神経が混乱し、結果的に心身の不調をきたす可能性がある。
自律神経系は生活習慣全体(睡眠、栄養、ストレス管理など)とも大きく関係します。ウエイトトレーニングを取り入れる際は、他の要素とのバランスや総合的な疲労管理を心がけることが、自律神経を整えながら効果を最大化する秘訣となります。
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佐藤宏隆(さとうひろたか)
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