HIROYOが俺に教えてくれたこと(前編)
人間というものは、それが何であれ、どこかの時点で頭をぶつけるものだ。誰だってそうだ。俺もそうだ。人間だもの。勉強であれ、部活であれ、仕事であれ、ホビーであれ。周囲から一目置かれ、自分がそれなりの自信を持つ事柄でも、環境が変わったり、より広い場所に行った時、自分より遥かに高いスキルを持つ奴に出会い、勝手に敗北感に打ちひしがれるわけである。
頭をぶつけること。それが何かの終わりになるやつはたくさんいる。自信をなくしてションボリし、俺は一体なんだったんだとふてくされ、実は井の中のカワズどころかタニシであった事実を受け入れられずに投げ出して「酸っぱいブドウ」とキツネみたいな顔でほざくのだ。
だが、ある人物が俺に教えてくれたことのおかげで、俺は頭をぶつけても、奮起こそすれ、ションボリしたり、嘆いたり、ふてくされて投げ出すことはなくなった。
思えばミニチュアペイントもそうだ。もしHIROYOに出会えていなかったら、俺はとっくの昔にペイントを諦めていたかもしれない。かつてのようなメンタルセッティングだったら、俺はイギリスに行ってヘヴィメタルチームのペイントを見たと同時に、ペイントスキルを磨くのをやめていたはずだ。
今日は、HIROYOの話を…彼女が俺に教えてくれたことの話をしよう。それは俺の人生観を根本から変えたもので、その秘密は、もしかすると君にも役立てられるものかもしれない。
長くなるので前後編に分ける。
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俺は小学生の時に猫目じじい(彼との話はここで)から絵を教わり、自分なりに描いては楽しんでいた。小学生の頃、いくつかの絵画コンクールで何度か入賞できたのは、猫目先生の指導あってのことである。その後ナンダカ芸大を出たとかいう人の絵画教室にも通ったが、「ああ描けこう描け」と自分の好みを押し付けるばかりで、猫目先生とは似ても似つかぬクソ教師だったので2週間で行くのをやめた。
小学校のクラブ活動は、マンガクラブに入った。漫画家になりたかったわけではないが、絵を好きなように描いても怒られないクラブがそこしかなかったからである。マンガの描き方とかを勉強して、自分なりに漫画を描いたりもした。世話になっている少年野球のコーチに似顔絵を描いて喜ばれたり、風景画を描いて祖父を驚かせたりするのは、楽しかった。
小学校の頃の俺は、勉強に大きな伸びしろがあったものの、こと絵については周囲の大人たちに褒められつつ、自分でもなかなかのものと思っていた。そして俺は中学に上がる。勉強はともかく、絵を描かせたらイチバン・ナンバーワンの俺は、中学でもイチバン・ナンバーワンになれるはずだった。
だが、現実は甘くなく、横浜市保土ヶ谷区の学区は広い。同じクラスになったキノコみたいな髪型の見慣れぬ女、HIROYO。我が13年間の人生で積み上げた絵への自信を、たった1秒で粉々にした人物である。
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新中学生となると、休み時間や昼休みが友達を作るチャンスだ。当時、クラス間の行き来は推奨されていなかったので、同じクラスで仲良くなるやつを探す。たいてい皆、小学校が同じというよしみ(それはかつて隣のライバル・クラスにいるやつだったりする)で友達を作り、そこを起点にグループ同志が近づいていったりするものだ。
だが、同じクラスにいるのは俺のことを馬鹿にしていじめてきたやつや、いけすかない女だったりしたので、そのルートは通らなかった。というか、小学校の頃はあまりにいじめられ、「友達なんてもういらないや」と思っていたのである。だから、友達づくりなんかより、俺はハルクウーベンのことを考えたり、ノートに絵を描いたり、ハードカバーの本を読んだりしていた。
入学してから少し経った頃。俺はいつものようにノートを広げる。クラスのバカどもがそれぞれ馴れ合い、子供じみた大はしゃぎをしているのをよそに、俺は高機動型ザク(MS06R-2)を描いていた。MSVのパッケージよりカッコいい角度を探して描いていた。その時だ。俺の斜め前に座っていた女の行動がむやみに気になったのは。
キノコみたいな頭のその女は、他の奴らのように誰かとおしゃべりをするわけでも、席を立ってうろうろするでもなく、左手に青い軸のシャーペンを持ち、ノートに何やらかきつけている。クラスの連中と仲良くなろうとヘラヘラしていない。一心不乱に何かをかいている。この女は、どうやら俺と同類だ。シャーペンの動き方からして、絵を描いているのは明白だ。
こうなると、俺はもういてもたってもいられない。彼女は一体何を描いているのか。見たくて仕方がなかったのだ。そうなると俺の行動は早い。幼稚園時代に鍛え上げた異性とのコミュニケーション能力を活かす時が来たのだ。
「ねえ、君は何をかいているの?」
俺は彼女に近づき、話しかけた。するとその女は振り向くどころか、目線をノートから動かさずに答えた。
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