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痛みと恋愛と生きていること


心臓がどきどきして鼓動が早くなると、自分に心臓があったことを思い出します。胃が痛いときは胃が何処にあるのか解りますが、普段は解りません。手を切るまでは、血が赤いことを忘れています。苦しい時ほど生きていることを実感できるのが人間です。何の悩みも痛みも不幸も感じられない人間はやはり気味が悪い。人が恋愛をするのは楽しいからです。そしてとても苦しいからです。
                            (吉野朔実)


 生理痛の軽い月は、なんだか肩すかしを食らったような、ちょっと寂しい思いがする。もちろん、身体が楽だし生活はしやすい。
けれど、ちょぴっと寂しいのだ。それはあの痛みの、生きているという感じを欲しているのかもしれない。

今月は先月に続き、そこそこにお腹と腰に鈍痛を抱えていて、旅先でうぅぅとうめきながら身支度をして、外をあるいてもうぅぅとお腹に手を当てて痛みを紛らわして、、だった。

旅の道中のできごととしては最悪なのだけど、内臓がぎゅうぎゅうと奥の方で痛んでいるあの感じ。わたしの身体はここにあるのだなぁと思う。少しだけ頼もしさみたいなよろこびがある。

このツイートも実は生理痛にうめきながら書いていて、ピアスいちど開けたら、開けるときの身体の痛む感じの方にはまってしまうだろうな、と思った。
痛いと、自分の生きている事がよく分かる。


 わたしは最近、人間を愛していると思う。そして、以前よりもよく泣いていると思う。もしかして、すぐ涙をたたえてしまうわたしの方がデフォルトで自然なんじゃないかって思っている。

つい先日も、友人から手紙をもらって駅で読んで、ボロボロ泣いた。屈託なく愛を贈ってくれるひとの、わたしの生きることにひかりを信じてくれていること、愛してくれていることを受け取って泣いてた。

 ここ2ヶ月くらいたくさん愛して、たくさん愛されている気がする。
(ギヴアンドテイクってことじゃなくて、巡りのなかで愛をすなおに受け取って、贈ることができているということ。)
そしてそれって、愛って、なんか胸が苦しくなる豊かさだなと思う。

恋愛ものの物語とか、親愛の強い人間関係の物語とかを読んでいると、ぎゅうぎゅうに胸が痛くなって苦しくなってしまう時がある。わたしはその身体の感触が好きで、それを求めてそういう物語を読んでいることも多い。(他の人もそうなのだろうか?)

胸が苦しくなる豊かさは、そういうのに近い。
ものすごく幸せで、苦しい。痛い。

その幸せな苦しさが身体を充ち満ちとしてくれて、生きている感じがする。
愛おしさで泣くことも、悔しさで泣くことも、美しさで泣くことも、恐れで泣くことも、なんとなしに泣いてしまうことも、生きている感じがする。
すぐ涙をたたえてしまうわたしの方がデフォルトで自然なんじゃないかってやっぱり思う。

冒頭の引用の一部をもういちど引く。

苦しい時ほど生きていることを実感できるのが人間です。何の悩みも痛みも不幸も感じられない人間はやはり気味が悪い。人が恋愛をするのは楽しいからです。そしてとても苦しいからです。

引用した文は、『恋愛的瞬間』という作品のあとがき的なもの。
作品からも一部引用したい。

「友情と恋愛のちがいは何でしょう 友情の定義」
「・・・恋愛は あらゆる抵抗に打ち勝つ相思相愛の力
友情は 相思相愛でありながら 抵抗によって達成できない疑似恋愛関係」
「抵抗?」
「同性であるとか 既婚者であるとか 恋人がいるとか 顔は好みだが性格が気に入らない 性格はいいが肉体的に受け付けない等々
逆を言えば 抵抗があるにもかかわらず気持ちのベクトルが向き合っている 人間関係といってもいい」

「友情は恋愛の一部ですか?」
「そうでないものを私は友情とは呼ばない」
「じゃあ抵抗を克服すれば」
「恋愛になる可能性は極めて高いと言える」
                    吉野朔実『恋愛的瞬間2⃣』より


わたしとわたしのだいすきな人たちとの関係性は、吉野さんのことばでは恋愛に含まれるものだと思う。恋愛の一部としての親愛。(久々に読み返してしっくりした)
わたしは恋愛をしている。楽しくて苦しいそれ。

しあわせは苦しさのないことではなく、豊かな痛みを感じながら引き受けながら生きることなんだろう。

最近の、この生きている感じは、あるとかないとか能力とかの向こうで
圧倒的にある、ただひたすらの存在として人間と交わって、愛を贈り受け取っているその胸の苦しくなる豊かさのおかげなのだ、きっと。
しあわせだ。


取り留めなくかいていたら、全体としてのまとまりがよく分からなくなってしまった。恋愛について友人と話していたり、愛についてぐるぐると考えていたりして、5度目くらいの『恋愛的瞬間』を読んだ。そういうなかで湧いてきた、わたしの最近の生きているのと痛みと恋愛のこと、思うことつらつらと書きました。

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