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「プロ集団の企業こそ、こういった研修を受けるべき」【WiL ダイバーセッション・プログラム導入事例】

ヘラルボニーでは、組織のDE&Iを促進するための体験プログラム「DIVERSESSION PROGRAM(ダイバーセッション・プログラム)」をさまざまな企業に提供しています。今回、東京とシリコンバレーを拠点にベンチャー企業と日本の大企業をつなぎ、次世代の起業家育成と大企業の変革に貢献してきたベンチャーキャピタルのWiLさんに、ダイバーセッション・プログラムを導入いただきました。
 
WiLのみなさんに受講いただいたのは、見えにくい役や発言に制限のある役などのマイノリティを擬似的に体験しながらチームでミッションクリアを目指す、ボードゲーム型ワークショップ。このプログラムを導入した背景と、日本企業がDE&I推進を目指すことの意味について、共同創業者兼CEOである伊佐山元さんと、オペレーション部門責任者の長谷川直美さんに伺いました。

「日本の社員は視野を広げる機会が少ないのではないか」という危機感があった

──WiLさんが社内研修として、ヘラルボニーのダイバーセッション・プログラムを導入された経緯から教えていただけますか。
 
伊佐山元さん(以下、伊佐山):まず背景として、僕は30年近くアメリカで暮らしているのですが、英語が流暢に話せなかった頃は言葉が通じず悔しい経験もしましたし、僕が住んでいるシリコンバレーは特に日本人が非常に少ない地域で、言わばシリコンバレーにおいて僕はマイノリティにあたります。僕のようにある種のマイノリティとしての立場を経験したことがある人であれば、日本では当たり前とされている価値観が海外に出ればまったく当たり前ではなく、世界にはさまざまな価値観、宗教、思想を持った人々がいるということを多少は実感できているのではないかと思います。
 
そう考えたときに、ひょっとすると日本チームのメンバーは見ている世界を広げる機会が少ないのではないか、と危惧したんです。WiLの東京オフィスに所属しているメンバーを見ると、国内の一流大学や有名企業出身などと、いわゆるエリートコースを歩んできた人たち、プロ意識の高い人たちが多いですから、限られた環境しか知らないのではないかと。そういうメンバーにこそ、今回のような研修を受けてほしいと思いました。 

──プロ意識の高い人が集まる環境だからこそ、より広い視野を持つ必要があるということですね。

伊佐山:はい。特に投資家というのは起業家に出資する立場ですから、現在一部で問題になっているように、強い立場を利用して起業家に対してハラスメントを働いてしまうケースもあります。日本のように多様性やジェンダー意識が弱い国においては特にそういった危険性があるように感じるので、投資家に起業家と同じ目線に立ち謙虚になってもらうという意味でも、ダイバーセッション・プログラムのような研修への参加は必須だと思いました。WiLのようなベンチャーキャピタルもそうですし、いわゆる優秀な人材が集まる会社は、こういった研修の機会をもっと増やすべきだと思いますね。

研修を通じ、バイアスをかけて他者を見てしまっていることを痛感した

 ──実際にダイバーセッション・プログラムを受講してみていかがでしたか? 

長谷川直美さん(以下、長谷川):弊社ではハラスメント研修なども導入しているため「無意識バイアスに注意しよう」という意識は持っているメンバーも多かったと思うのですが、今回の研修を通して、自分たちもやはりバイアスをかけて人を見てしまっていると痛感させられました。ゲーム内では「話さない役」や「見えにくい役」などを体験できますが、見た目だけではわかりづらい特性のある人には特に積極的に声をかけ、助けが必要かどうか確認する重要性を実感しましたね。チームにどんな人がいるかを理解しながら進めていくことが何より大切だと感じました。
 
初めは謎解きに苦戦していたのですが、チームで協力して講師の方の助けを借りればスピーディーに解決できることに気づかされ、コンテンツとしても秀逸だなと。チームで助け合うということについて、実践を通じて学べるような研修になっていると感じました。
 

──伊佐山さんは今回、急用で残念ながらプログラムを受講できなかったかと思いますが、機会があればぜひ体験いただきたいです。
 
伊佐山:実はアメリカの企業においては、チームでそれぞれの強みを活かし、力を合わせてミッションをクリアするようなタイプの研修ってわりと多いんですよ。そういった研修を何度も受けることで、人にはさまざまな個性や特性があり、無理に同じ軸で他者を評価しようとするのはナンセンスだという意識が自然と腑に落ちると思うんです。こういった研修は複数回体験することが大切でもあると思うので、次回チャンスがあればぜひ僕も受けたいですね。

本来、社会はフラットかつ多様な状態であったはず

──ダイバーセッション・プログラムはマイノリティの立場を疑似体験しながらミッションクリアを目指す研修ですが、組織においてもさまざまなマイノリティの人々の強みを活かすことは重要ではないかと思います。伊佐山さんは投資家として、多様性が企業の持続可能性に与える影響をどのように捉えていますか?
 

伊佐山:日本社会においては「勉強していい成績をとり、いい学校に行って有名な会社に就職する」という、誰が考えたのかもわからない金太郎飴方式のイメージが理想的なモデルとしていまだに力を持っていますよね。それに乗れる人がいわゆるマジョリティであり、乗れない人がマイノリティとみなされている社会なのではないかと感じます。

耳が聞こえない、目が見えないなどといったいわゆる障害のある人をマイノリティと呼ぶこともできるけれど、実際にはそれ以外の部分で皆、さまざまな不自由さや才能を持っていたりするわけです。ですから、誰がマイノリティ/マジョリティであると過剰に分けようとするのではなく、さまざまなバックグラウンドを持った人々がそれぞれの価値を社会に貢献できるようなあり方が理想的なのではないかと思います。

そこを起点に考えると、本来、社会というのは多様かつフラットな状態だったはずなんです。否が応でも人々のバックグラウンドはそれぞれに異なるはずですから。けれど、歴史や政治といったものの影響によってその多様性がいま失われているからこそ、僕たちはもっと自然な状態、つまり本来の多様な状態を目指すべきなのではないでしょうか。
 
──本来、社会には多様な人々がいるはずなのに、その多様性が失われている状況こそが不自然である、と。
 

伊佐山:はい。アメリカにも長らく白人中心主義の時代がありましたが、移民の割合は年々増加していますし、日本と比べると多様性についての議論も進んでいます。ですから、日本で「多様性担保のために従業員のうち2.5%は障害者を雇用しましょう」といった形でおこなわれているDE&I推進に関しては、正直に言えばあまり本質的ではないなと感じることも多いです。シンプルに、組織として国際社会で評価されるような競争力を持ちたければ、さまざまなバックグラウンドでさまざまなスキルを持っている人たちを集めないといけないということに尽きると思います。
 
とはいえ日本においては、入口は形式的であっても、定量的な目標を持ってDE&Iを推進していく意味はあるとも思っています。

──それはなぜでしょうか?

伊佐山:やはり、日本という国が社会の一員として国際社会で役立っていくためには、さまざまな人々の才能を動員しないと歯が立たない時代がもう来ていますから。たとえば、グローバルに評価される商品やサービスをつくるためには、ジェンダーや宗教、思想などが異なるさまざまな人々の興味関心を一定以上、理解する必要がありますよね。けれど、グローバルプロダクトをつくっている企業の役員構成を見たときに、年齢、ジェンダー、国籍の面で多様なバックグラウンドを持つ人々がいる企業は日本にまだ1社もないと思うんです。日本ではいまだに取締役会におじさんしかいない、なんてことも本当によくありますよね。

世界の価値観がどんどんグローバルになっていく中で、日本だけが多様性を無視しているようでは、世界の中で闘っていくことは不可能と言わざるをえません。ですから、日本においては多少形式的にであってもDE&Iを推進し、そこから本質的な議論を進めていくべきなのだと思います。

日本企業がサバイブしていくためには、価値観の多様さを理解している人材を増やさなくてはいけない

──伊佐山さんのお話を伺っていて、日本企業がDE&I推進に注力することの意義をあらためて感じました。
 
伊佐山:やはり日本は島国という土地柄もあり、ただでさえ閉鎖的になりやすいわけですが、近年はパスポートの取得率も非常に低いんですよね。異文化を知っている人がどんどん少なくなっている。いまの日本は、世界の中でも稀有なほど多様性に乏しい国だと感じています。この状態をいまのまま放っておくと、日本で暮らす若い人たちにとっても、将来この国で活躍できるビジョンが見えなくなってしまうような事態になるのではないかと危惧しています。 

日本はまだまだ、世界に誇れる才能や価値を持っている国だと思います。それをアピールしていくためには、グローバルな環境で評価されるような、多様な価値観が世界にあることを理解している人材を日本国内でも増やさなくてはいけない。たとえばシリコンバレーやロンドン、ほかのあらゆる国で育った人の価値観や、さまざまな特性を持って育ってきた人のバックグラウンドなどを少しでも理解できれば、日本人が海外で発信できることの選択肢は増えると思います。ですからその選択肢を増やし、日本社会や日本企業がサバイブしていくためには、「いやいや、DE&I推進なんてふつうにやるしかないでしょ」という話ですよ。
 
──声高に言うまでもなく、ということですね。

伊佐山:日本という国をよりよくしていくためにはやはり、DE&I研修をおこなう企業も必要だと思います。こういった研修を通して、自分の視野の狭さや、さまざまな人々が社会の中にいるということに気づく人が少しでも増えれば意味があるのではないかと思います。

【執筆】生湯葉シホ
【編集】佐々木笑美
【撮影】鷹觜 惇平

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