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ショパン、スケルツォ第2番のリズムその4(コーダ、mm.716–780)
mm.716–723
コーダにどうやって入るかを見るために、下の譜例はm.708からのものにしてあります。mm.708–715は、すでに何度も出てきたところで、この次の譜例にmm.117–132の譜例を再掲しましたように、変ニ長調のスカート構造による終結であり、m.125からはトニックで余韻のような運動を出す所でした。
ところがコーダに入る際には、本来ならばm.125が出るはずの所に、新しい部分の開始を思わせるものを割り込ませています。そのため、16小節構造に鳴るはずだったものが、m.715までの8小節で終わってしまい、その運動の目的地となるはずの位置から、まったく新しい別のものが始まることになるのです。結果として、mm.708–715の8小節は、まるでm.716以降のためのアナクルーシスのような働きをすることになります。
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m.716からの形は、変ニ長調のトニックの代わりにイ長調のトニックが来るとみなせますから、偽終止の一種です。ただしこの偽終止は、改めてニ長調のトニックに入りなおすのではなく、転調してコーダの開始となります。長調において、短6度の調の和音をこのような形で出してコーダに入るのは広く見られる手法です。
さて、mm.716–723の8小節は4+4小節のスカート構造によく似ています。そして、左手にはウラシャのリズムが見出されます。下の譜例で破線で囲んだ間にウラシャが1つ入っています。つまり青い矢印が2つで1つのウラシャのリズムです。緑色の矢印は展開によって生じる部分です。
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mm.724–731
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m.724からはウラシャのリズムが非常に強く現れているために、楽譜上で小節の2拍目に当たる位置から始まる小節に従っているかのように捉えると分かりやすい。実際にそのように書いてみたものが次の譜例です。そしてこのように見てみると、左手の動きが2つずつ規則的にペアになっていることがよく分かります。
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最後のニ長調のトニックの和音は、そこが次の部分の開始となっています。
mm.732–755
mm.732–755までの24小節をざっと見ると、m.732が変ニ長調のトニック、m.739がドミナントであることが分かります。つまり、これはスカート構造です。8小節+8小節のスカート構造を元にし、さらにm.748に出るはずのトニックを延期して8小節の拡大を行っています。結果として、8小節+16小節の拡大スカート構造となっています。
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m.732からの形は、曲の冒頭によく似た形です。ですからウラシャのリズムを基礎としていると分かりますね。次の譜例の青い矢印でウラシャの形を示しました。さらに展開が行われている箇所を緑色の矢印で示しています。mm.740–747までの形も同じです。
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リズムの展開というのはここでは次の譜例のように[弱→強]の形のリズムを、[弱→強][弱→強]という形に分解していくことを指しています。この他に、単純な分割も展開の1つの方法です。
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m.748からの形は、次の譜例に示すように、ウラシャが2つ連なったリズムです。
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ショパンはしばしば、曲や曲の大きな部分の終わり付近でこのようなウラシャの連続した形を出しています。例えばピアノソナタ第2番の第1楽章や、バラード3番が挙げられます。
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mm.756–780
m.756以降は最後のスカート構造の連鎖と、締めの身振りだけが残っています。まず4小節+4小節のスカート構造があります。m.764からは2小節+2小節+2小節のスカート構造の後に、変ニ長調の短6度と5度の交代が2小節あり、これは極めて小さなスカート構造と言えます。
m.772は一旦3度調に転調し、改めて変ニ長調のドミナントをm.775に出して、トニックへと進みます。
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ここでもやはり、ウラシャのリズムに注意せねばなりません。m.756からの左手の動きは、次の譜例に示すようにウラシャのリズムを展開したものになっています。m.764からの左手も、右手が2分音符を鳴らす箇所で左手が休符になっていますが同様にウラシャのリズムに基づいています。
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m.772からの最後の身振りですが、これもまた、ウラシャのリズムを感じる必要があります。ここでは上の譜例に比べて2倍の大きさのウラシャが感じられます。このような特定のリズムを持つことによって、この部分はリズミカルに感じられ、曲の末尾という大役を果たすことができるのです。
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音楽は、必ず何らかのリズムを持っていますし、持たなければリズミカルには聞こえません。つまり、我々がリズミカルなものとして普段聴いている音楽は、必ずいずれかのリズムを持つものとして分析できなくてはならないのです。
幸いなことに私は、通常の音楽で見られるリズムを、あらかじめ網羅的に知ることができるものと期待できる理論を得ることができました。つまり、音楽で出会うリズムは、私のリズム理論が提示する網羅的なリストのうちのいずれかと一致するはずだ、と考えられるということです。
この分析が、音楽文化へのなんらかの貢献となることを祈ります。
カテゴリー:音楽理論