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ショパン、スケルツォ第2番のリズムその3(mm.460–583)


mm.460–491

4小節ごとの高次小節を示すために複縦線を用いています。

mm.460–467はさっきと同じで、スカート構造の連鎖の後の余韻です。さっきはその後で、中間部の冒頭に戻ったのですが、ここではこの形を変形して中間部の後半に進みます。和音はベースをEからDへ下げて、D-F-G#-Bの減七の和音となります。これはさらにベースを下げて、次のm.476にC#上の減七の和音を導きます。

この感じは、ちょうどソナタ形式の提示部の終わりと似ています。例えばモーツァルトのK.576のピアノソナタでは、提示部の終わりの音形を、変形しながら繰り返すことによって展開部を始めています。

スケルツォに戻りましょう。次の譜例、m.476からの16小節は引き続いて移行的な部分です。和音はC#上の属七(C#-E#-G#-B)から、2小節ごとに和音の上3音を半音ずつ下げて、m.478でC#上の減七(C#-E-G-A#)、m.480でC#-D#-F#-A、そしてm.482でC#上の長3和音になっています。m.484からはm.476からの動きを半音上に移調して繰り返します。ただし、m.490の2拍目からの左手の動きが変化しています。これはm.493でD7の和音になって次にGmで始まる部分を導きます。

左手の動きがウラシャのリズムになっていることにお気づきでしょうか?

緑色の矢印は、さらに細かいウラシャへと展開されている箇所を示しています。これは次の譜例のような展開が起こっていることを意味しています。つまり、ある[弱-強]の形を、[弱-強, 弱-強]に展開することができるわけです。

ですからこの箇所は、4小節ごとにウラシャのリズムがあると同時に、その一部が上記のような形で展開され、小さなウラシャを埋め込んだ形になっているというわけ。


mm.492–515

m.492からのリズムは、一見m.310からのリズムに似ていますが、グルーピングの位置が変化しています。下の譜例で破線によってその範囲を示しました。m.310では、その直前の2つの小節の4分音符からリズムが始まる斜拍子形だったものが、m.492からの部分では下の譜例に示したようなウラシャの形に変わっています。一般的に、ウラシャはスピーディーで激しい部分によく使われ、斜拍子はリズミカルで優雅な部分に用いられます。

mm.492–516をざっと見てみましょう。調はト短調です。トニックとドミナントを1小節ごとに交代し、8小節目のm.499で転調するためにトニックを属七の形に変化させます。次の8小節はハ短調でほとんど同じ形を繰り返し、8小節目のm.507で変イ短調へのドミナントを出しています。m.508からは変イ短調で再び同様の動きを出しますが、これは8小節目では変化せず、次のm.516で変イ短調のトニックの代わりに、5度音のE♭を半音上げてF♭としてホ長調で次の部分を始めます。

これら3つの8小節構造は、どれも4+4のスカート構造か、それによく似た形をしています。8小節目で属七の和音を出して転調してからほとんど同じ形を出すので、ゼクエンツのような効果を持っています。こうした形を「ゼクエンツ・スカート」と呼ぶことができるということは、m.310からの部分を説明した際にも述べています。


mm.516–543

m.516の形は、すでにm.49で見た形とよく似たものです。ただしm.49では変ニ長調のトニックでしたが、こちらはホ長調のトニックの第2転回型で始まります。mm.520–524の4小節はドミナントになっています。そしてm.524から再びm.516と同じ形を始めますから、これは途中まではスカート構造になっています。しかしここでは、m.528から新しい構造が開始するために、スカート構造は途中で途切れてしまいます。このように、途中で別の構造が割り込んでくることを、私は「ワリコミ」と呼んでいます。

ところで、mm.516–519と、mm.524–527の左手を比較するとリズムが少し変化しています。これは前にも説明したウラシャの展開です。下の譜例は、一番上が仮想的な原型です。これを2つの少し違ったやり方で展開したのが下の2つの譜例ということになります。ただしm.525は付点リズムがあり、m.524とは若干の違いがありますが、煩雑になりますのでここではその違いの説明は省略します。

また次の譜例のような、左手のウラシャのリズムも見逃さないでください。

m.528がワリコミによって始まるというのは、m.528からの16小節がまとまりの良いグループをなしているのに対して、その直前が12小節で終わっており不完全な構造を持つからです。m.516からの構造の最後の4小節が来るはずであった場所に、その代わりに次の譜例の16小節のまとまりが来るために、「ワリコミ」が起こったような印象を受けるのです。

和声について簡単に述べます。m.530の減七の和音がmm.528–531の中心となる和音で、構成音が嬰ヘ短調の音階に基づいて変化しているものです。次の4小節は長2度上で同じことをしています。そしてその次もやはり長2度上の減七に基づいています。そしてこの減七は、m.540でF7の和音に入ります。16小節構造の13番目でF7に入って終わっているので、m.544以降を準備してはいますが、むしろ半終止のようなものとして一旦終わるという印象になります。

mm.544–583

次の譜例を大きく区分してみましょう。最初の8小節がベースの下降による1つの流れで、これがm.552に属七の和音を出すと、そこから属和音を軸としたスカート構造の連鎖が始まります。1つ目のスカート構造は4+4小節、2つ目も4+4小節、そして3つ目が2+2小節、4つ目が2+2小節です。そしてm.576に入ると、余韻のような運動が少しだけ続いて、m.582で終わります。これが半終止となります。もちろん、フリギア調の終止であると言うこともできるでしょう。この後はスケルツォの冒頭に戻ります。ただし最初のB♭音のユニゾンは再現されません。

リズムはm.492で見たのと同様に、ウラシャです。ウラシャはこのような激しい部分にちょうどよいリズムですし、スカート構造にもよく馴染みます。

これで中間部は終わりです。この後、曲は最初の部分を繰り返しなしで1度演奏し、m.716からコーダへと入っていきます。


カテゴリー:音楽理論


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