米澤穂信「黒牢城」
謎解きする理由は物語にあって、謎解きが物語を動かす。
連作短編としての謎をこえて世が動く。幾人かの言葉が遺る。
因果と有岡城の戦いを合わせて考えるとはかなく思わずにはいられない。
ネタバレ含む感想を書きます。未読の方はお控えください。
謎解きをする理由は物語の中にある。
村重が家中の疑念を晴らすため、裏切り者を見つけるため。
そして謎解きは物語を動かす役割を終盤に担うことになる。
このように「黒牢城」はミステリと戦国時代小説が不可分に結びつき、リアリティを産み出している。
戦国を描きたいから、ミステリのプロットがあるからが先行せず、元々あったもののように存在している。
村重は有岡城に立て篭り織田に謀反する。
しかし毛利の通り道にある宇喜多が落ち、頼みの毛利は来ないと分かる。それでも村重は籠城を続ける。
家中は少しずつ離れていく。表立って反抗などしないが疑問が付き纏い、村重の発言は弱まり、拒まれるようになる。村重が殺すなと下知した者を殺し。凶相の首は南蛮宗への罰だからと火を放つ。落雷で死んだ裏切り者は御仏の罰。平気な顔をして織田方と繋がり、贈り物を交わす者が現れるが評定では許される。
各章の謎は官兵衛が助言し明らかにされるが、それでも不信は止まらない。家中をまとめ上げる為に謎を解いたというのに。
子々孫々受け継ぐ地の主ではない。任命を受けて治めていない。不思議に人を惹く力もない。これらに当てはまらない村重は領主の器ではない。そして勝つことのみで登りつめた村重が、勝つことが出来ない籠城で信用されるはずがない。
村重が家中をまとめられる可能性があった道は、
「進めば極楽、退かば地獄」ではなくどのように死んでも極楽がある。命が軽んじられる世で、弱き民が安らかに死ねるように。民の罰こそが国を滅ぼす。
という千代保の考えであった。
それまでの村重の策では持ち堪えられず、それに反発する形であった、ミステリでいう犯人役の千代保が正しく導いていたのだった。
このように正と誤がねじれるような構造がとても面白い。その後信長も村重も堕ちていくのだから、和議のタイミングで大きく世が変わったことはないだろうと思う。とても儚い物語だった。
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