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泡坂妻夫『煙の殺意』

誰が犯人で、どのように犯行して、動機はどうで。その角度のみで、この傑作を振り返るのはとても勿体ないことだと思う。
もし別の見方を出来ないのであれば、みるみるこの傑作短編集は痩せていき、その他となんら変わらない陳腐な推理小説と思えるだろう。

その謎を包むたおやかな文体。度々垣間見える名台詞。なぜこの作品の読者はだまされるのか。奇術師でもある著者がどう「魅せる」ミステリなのか。その部分が素晴らしい。



ここからネタバレしますので、未読の方は注意してください。





特に気に入ったものについて、すこしだけ感想を述べます。
細かく泡坂妻夫さんの文章に触れるのは蛇足に感じられてしまうので、抽象的になるかもしれませんが、既に読んだ人なら分かってもらえるかと思います。

「椛山訪雪図」
解説者の云うとおり、謎が明かされる時、絵の新たな面が現れる美しさ。電灯に照らされる時、蝋燭に照らされる時、暗闇にある時。その変化が完璧に的確なタイミングで謎を難解にさせる手法が素晴らしい。

「紳士の園」
近衛氏の教えや違和感が謎にかかってくるところが素晴らしい。防空コンロというあやしい道具が出てくるところも好きな所。

「煙の殺意」
二つの事件が結びつき、二人の執着するものが合わさった形。

「歯と胴」
殺したはずの安子が犯人を追いかけてくる様。
文にある通りに頭がぐらつく感じがする。

「開橋式次第」
終始、大衆賑やかに進む。信心深い人が何人も登場し、その心は一郎にも自覚していなかったが備わっていたもの。
読み間違いの所もきれいな回収でした。

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