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高野秀行自著コメント付き作品ガイド
1989(平成元)年、『幻獣ムベンベを追え』でデビュー以来、“誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く”をポリシーに、『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞受賞、『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞し、これまでたくさんのノンフィクション作品を世に生み出してきた高野秀行さんの作品を、高野さん自身のコメントを付けて紹介いたします。
それまで私は文章を全く書いたことがなかった。出版社の依頼を受けたものの、一ヵ月は一行も書けなくて絶望的な気持ちになったが、あるときふと「友だちに話すつもりで書けばいいのでは?」と思いついたら、するする書けた。
同じく在学中に、”アルバイト”としてアマゾンのガイドブックを書くことになったのだが、なぜか旅行記になってしまった。この頃から、文章を書くことが楽しくなってきた。
若気の至りが満載。文章は粗いが、むやみやたらな勢いがある。中でも、コロンビアの幻覚剤探しはひじょうに思い出深い。ガルシア=マルケスみたいな世界だった。
私の代表作の一つ。現地の農民以外で、ケシ栽培とアヘン生産を種まきから中毒まで体験した人は、いまだ世界で私ひとりだろう。日本では評価されなかったが、英訳されて、各国の新聞・雑誌の書評でとりあげられた。
これほどトラブルが多く、危機一髪の連続だった旅はない。無事に帰国できたのは奇跡。これも全然評価されなかったが、私の代表作の一つ。
まさかこんなバカ話が活字になるとは、そしてそれが私にとっていちばん売れる本になるとは、想像もしなかった。なんともうすぐ10万部だ。世の中はまちがっている!!
ワセダ青春三部作の第2弾。『三畳記』同様、事実8割程度の自伝的小説もしくはエッセイ。ここに登場する外国の友人たち、今はどこで何をしているのだろうか。探しだして再会してみたい気がする。
どうしてこんなに恥ずかしいことまで書いてしまったのか。今は読み返す勇気がない。
今までで、ほとんど唯一、苦労せずにすいすい書けた本。船戸与一氏の泰然自若というか傍若無人ぶりは今読んでも素晴らしい。
ワセダ青春三部作の第3弾。「本の雑誌」年間ベストテンの6位入賞が嬉しかった。
「本の雑誌」年間ベストテンでたしか5位入賞。敬愛する宮田珠己氏に文庫解説を書いてもらったのが嬉しかった。
「高野秀行の最高傑作」とも「この10年に読んだ中でいちばんがっかりした本」とも言われた問題作。いえ、手抜きではありません。渾身の力で書いてます。
『西南シルクロード』の無茶がたたって、自転車で沖縄に行くハメになってしまった。神仏を通して見る日本は紛れもなく「アジア」だった。
『辺境の旅はゾウにかぎる』を文庫化にあたって改題。本書に収録されたエッセイ「ショーよりも幕間を」はなぜか3回も私立中学の入試問題に使われている。
読者の依頼に応えて世界中の「不思議な記憶」を探すという珍奇な旅本。謎が解ける醍醐味は忘れられない。
未知動物と妖怪の境目を探求した奇書。奄美の妖怪ケンモンが「未知との遭遇」と化す場面は衝撃。
ここに登場する人々は不景気でも圧倒的に強い。ビジネス本の世界に「てきとう」という概念を持ち込んだ画期的な本(たぶん)。
「間違うことが正しい」と主張する、わけのわからない自己啓発本。いや、そもそも自己を啓発しているのか? 今となってはこの本を書いたこと自体が間違っていたという気も。
腰痛を哲学的かつエンタメ的に解析したおそらく世界で唯一の本。「深いようで浅い、浅いようで深い本」と評された。どっちだ?!
最近、日本の芸能人がよく参加しているサハラ・マラソンはモロッコの大会。私が本書でアジア人として史上唯一人出場したこの大会はアルジェリア領の西サハラ難民キャンプ主催です。
莫大な時間と労力と顰蹙をかけ、なぜ私はこんな本を書いたのか。タブーである酒を通して逆説的にイスラムを理解するという私の意図はさっぱり理解されず、もっぱら「笑える本」として読まれている。痛恨。
たまたまブータン・ブームに重なったため、刊行後、「幸せとは何でしょう?」という質問をたびたび受けて困惑した。そんなこと、私に訊くな! まあ、答えの一部は本書の中にあるのだが。
70年代の八王子を舞台にした自伝的少年小説。いとこの息子(小学5年生)がこの本を夢中で読んだと聞き、びっくりした。「現役」にも通用するのか?!
この取材とほぼ同時期に「主夫」となったため、朝から晩まで料理のことで頭を悩ませていた。私にとっては主夫特訓養成講座みたいな本。また、短編小説を書くような技術を求められ、文章力の特訓にもなった。
私の代表作の一つ。アフリカのソマリ人という、日本では超マイナーな民族をとりあげたにもかかわらず、意外にも読書界の圧倒的な支持を得て、メジャーなノンフィクションの賞も受賞した。世の中はわからない。
私が身も心もどっぷりとソマリ社会に浸っていた時代の話。現地の女性に料理を習ったり、イスラム過激派に待ち伏せ攻撃を受けて死にかけたりと実にいろんなことがあった。
なぜ今納豆なのか? 読者のみならず担当編集者をも困惑させた一冊。だが、「納豆は日本を含むアジアの辺境食」という新しいテーゼを生み、納豆業界と出版界を激震させた。
おそらく日本出版史上、最もたくさんゲテモノ、ユニークな食べ物が登場する本。
デビュー作『幻獣ムベンベを追え』から30年たって刊行したのがこれ。「怪獣」が「納豆」になっただけ!! 進歩のなさに驚くが、ムベンベとちがい、幻の正体は判明した!!
【共著】
早稲田大学探検部の後輩と対談本を出す日が来るとは誰が思っただろうか。角幡は本当にバカで凄いやつだ。
中世日本人とソマリ人の気質がそっくりであるという驚きの発見からいきなり始まった、明治大学教授で日本中世史専門の清水克行さんとの対談本。この仕事は本当に楽しかった。
ふつうの人は手を出しにくい人文書を中心に清水さんと行った読書会だが、内実は清水ゼミにまちがえて一人だけ登録してしまった学生のような気分だった。いや、むちゃくちゃ勉強になった。